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第1話

『聖界』、『魔界』、『神界』と呼ばれる3つの大地に分かれている世界がある。

この3つの世界は互いにある程度の干渉を持ちつつもそれぞれの文明を持っており、それは古き時代より続いている。

ある意味では世界が分かれているからこそ一つの調和と言うものが取れていると言っても良い。

だが、古より続くこの3つの世界の均衡も時が経つにつれて崩れていった。

この世界は創世者として神と呼ばれるもの。

守護者として龍と呼ばれるもの。

そして……世界の裏側に位置する者として魔と呼ばれるものが存在していた。

しかし、この中の魔が台頭するようになり、それに対して龍がその魔と覇権を争い始めたのである。

魔は圧倒的で暴力的なまでの力を以って戦い。

世界を保つ力を持っていた龍は真っ向からそれに対抗した。

だが、この戦いは苛烈を極め、遂には龍と魔の戦いに介入した神が死亡すると言う事態にまで発展する。

神は魔を封じるために自ら闇を創りだし、同じ力を以って魔に対抗したためである。

だが、闇の力は魔こそが最も扱うに長けている力。

龍や神ではその力を存分に振るう事は出来ない。

そのため、神は自らの創りだした闇の力によって死んだのである。

神が死亡した後、龍と魔も共倒れとなり、世界は柱と言うべきものを失った。

正にこの時こそが世界の均衡そのものが崩れ去った時であると言っても良いだろう。

神が死に、龍と魔も眠りについたその時から神話は歴史となったのだ。

しかし、神は死亡する前に自らも闇の力を創り出し、この世界に強大なる呪いをかけた。

緩慢に病んでゆく世界へとなって何れ滅びゆくようにと――――。

だが、この世界は滅びなかった。

人は神話の時代から受け継ぎし力『レジェンドアーム』を以って、その滅び行く世界を生かし続けて来た。

神の死から一億の昼と一億の夜が過ぎ――――物語は始まる。

嘗ては『神界』と呼ばれた『崩界』と言う名の世界で。






私が運営しているサイト『Sky Blue Historia』http://skyblue.kachoufuugetu.net/ にて連載中の作品に加筆または修正等を加えた小説です。

更新速度はゆっくりですが……宜しく御願い致します。

 1人の少年が一匹の竜と対峙している。

 少年が対峙しているのは中級飛竜(ミドルワイバーン)と呼ばれる竜。

 体躯こそ大型の竜と比べて劣るものの、その強力な爪や牙は銃鎧を着込んだ騎士を叩き潰す。

 竜を倒すには一流の戦士や傭兵がチームを組み、専用の装備を揃えても確率は半々程度。

 寧ろ、壊滅する事の方が多いと考えても良いほどの強さを誇る暴力の塊だ。

 それに対して立ち向かうのは1人の少年――――年の頃は10代前半と言ったところだろうか。

 身長も高くなく、その手に持っているのは1本の剣のみ。

 竜と対峙するには余りにも非力であり、弱々しい存在に思える。

 だが、その姿を目にした人間は誰1人としてそれを感じる事はないだろう。

 少年が発している気配は一流の剣士と呼ばれるそれであり、竜にも彼を侮る気配はない。


「……!」


 少年は剣を構え、竜との間合いを計る。

 その動きで相手の竜は少年が仕掛けてくると感じたのか逆に飛びかかろうと前傾姿勢を取る。

 飛竜が地上の敵を攻撃する手段はそう多くはない。

 鋭い牙で噛み付くか両足の爪で斬り裂くか。

 何れにせよ、地上の敵に対するには突撃する必要がある。

 仮に飛竜と剣で戦うのならばその瞬間を狙って斬りかかるしかない。

 万が一、空を飛ぶ手段があればその場限りではないのだが――――少なくとも少年にその手段はない。

 しかし、少年との体格差は歴然としており、爪や翼による一撃は剣の間合いに比べてもずっと広いのだ。

 セオリー通りに戦うとするならば少年にはギリギリのところでのカウンターを狙うしかない。

 だが、少年は全く退くそぶりを見せず、竜に向かって駆け出した。

 己に向かってくる飛竜との間合いを一気に詰める。


「はあぁぁぁっ!!!」


 少年が裂帛の気合と共に虚空へ向かって剣を横に一閃させる。

 だが、少年と竜の合間には未だに10メートル以上も開いている。

 あまりの恐怖に少年は我を忘れ、剣を振るってしまったのか――――?

 だが、それは間違いであった。

 少年が剣を虚空に向かって剣を一閃させた瞬間、風圧と共に爪や翼が両断されていたからだ。


「ヴァーティカル……!」


 少年が放ったのは『ヴァーティカル』と呼ばれる遠当ての技。

 これは”風”の力を纏った闘気を刃にして遠くの相手を斬り裂くと言う少年の必殺とも言うべき剣技である。

 風の刃によって武器を失ったと言ってもいい飛竜は雄叫びを上げながら悶えている。


「とどめだ―――!」


 少年はその機を逃さず、抵抗する手段を失った飛竜に剣を突き立てる。

 ずぶり、と鈍い感覚と共に剣が的確に飛竜の心臓を捉え、その命を絶ち切った。


「ふぅ……」


 飛竜の命の火が消えた事を確認した少年は漸く、剣をゆっくり引き抜いて一息吐く。

 剣士として生きている身である以上、こうして命を奪う事には慣れきっている。

 だからこそ、少年は確実に命を奪う事を確認しなければ安心出来ない事を知っている。

 瀕死の相手から手痛い反撃を受けた事は指では数えられない。

 そういった経験が若いと言うよりも、幼いと言うべき少年を一流の剣士へと育て上げているのだ。


「これで依頼は完了。さて、戻ろうかな?」


 少年は飛竜を討った事を証明するための物としてその首を斬り取ったところで呟く。

 飛竜を追いかけて随分と山の奥にまで来てしまっている。

 すぐにでも戻らなければ日が暮れてしまうだろう。

 そう思い立った少年が足を踏み出そうとしたその時――――。




 ――――パチパチパチ。




「まったく、この前見た時はちゃんと剣で斬り倒してた気がするんだが……。お前の持ってる剣、本当にレジェンドアームの類じゃないのか?」


からかうような口調に軽薄な拍手と共に物陰から現れた青年が少年の名前を呼ぶ。 


「カイン、ちょっと見ない間に随分と成長したもんだ」


青年が呼んだカインと言う名前。




 ――――カイン=ウィルヴェント。




 これが少年の名前だった。











「コウイチ……! 何故、ここに?」


 現れた青年の姿を見たカインは半ば意外そうにその名前を紡ぐ。

 カインがコウイチと呼んだ青年。




 ――――山馬晃一。




 カインにとっては良き兄貴分と言うよりも友人と言った方が近いだろうか。

 年齢はカインと比べても5つほども歳上だが、かなりフランクに年下相手に接する晃一。

 逆に年齢の割にしっかりしすぎているカイン。

 ある意味2人は精神年齢が近いと言っても良いのかもしれない。

 ただ、互いに旅をしていると言う身の上もあって、こうして顔を合わせるのは久し振りの事だった。


「いや、レジェンドアームでも何でもない剣1本で中級飛竜(ミドルワイバーン)に挑む馬鹿がいると聞いてその面を一つ拝んでやろうと思ったんでね」


「なるほど、コウイチらしいよ」


 晃一の言い分に思わず、苦笑するカイン。

 確かに同じ立場で考えれば、晃一と同じように思っただろう。

 飛竜と単身でそれも剣1本だけで戦うなんて自殺行為に等しい。

 人が神話の時代から受け継ぎし力である『レジェンドアーム』であるならばそれも可能かもしれない。

 またはそういった規格外の装備を使わないのであれば、本来竜とは銃や弓と言った遠くから攻撃する武器を使う。

 もしくは魔導士を大量に用意し、複数の囮役で誘導し圧倒的な火力で制圧する。

 そうする以外に倒す方法は存在しない。

 しかし、カインは魔法を使う事も出来なければ、弓や銃を使う事も出来なかった。

 この崩界と言う世界では大抵の人間は魔法を使う事が出来る。

 カインのように魔法が一切、魔法が使えないと言う人間は少数しかいない。

 しかし、戦う術がない魔法が使えない人間は基本的に銃を使う事によってその力を補っている。

 銃は弓ほど熟練に時間がかからず、殺傷力に長けており、魔力のない人間でも自在に扱える事が出来る。

 しかも、銃弾に特殊な加工を施せば魔法と同じく風や火と言った力も扱える。

 特に魔法が使えなくてもそう言った力が使えると言うのは大きく、魔法を使えない人間からすれば銃ほど効果的な武器もない。

 事実、晃一は銃を自分の得物としており、天才的な銃使いとしてその名を馳せていた。

 彼のように銃を使って戦う人間の数は下手をすれば剣士や魔法使いよりも多いと言われている。

 戦う術を持っている人間の中では魔法が使えなくて銃も使えないと言う人間は逆に少ないと考えた方が良い。

 だが、カインにはそれを補う技能があった。

 その技能とは闘気を使う事である。

 魔力とは違う、人の持つエネルギーである闘気――――。

 本来なら一部の達人と呼ばれる人間が単純なエネルギーとして行使する力。

 それにカインは属性の力を付加して戦う事が出来るのだ。

 しかし、この闘気で風や火と言った属性を操る術どころか闘気を使える人間自体は殆どいないと言っても良い。

 そもそも、闘気を操れるようになるために必要な条件は一切解らないのだ。

 自己を鍛え、達人と呼ばれるまでに至った人間が闘気を操る術を身につけられると言われているのだが――――。

 身につけるに至るまでは個人差が大きく、修行したとしても身につけられない人間が多い。

 少なくとも明らかになっているのは崩界ではありふれた力である魔法とは縁遠い生活を送る事。

 ひたすらに剣術や体術を磨き続けるのみ。

 それが闘気を操る術に近付く道だと言われている。

 だが、魔法が欠かせないものとなっている崩界と言う世界においてそれは困難極まりない事である。

 この特異的な条件を満たしている人間など、崩界全体を捜しても容易には見つからない。

 大抵の人間からすれば闘気を操る術を身につけるよりも銃の扱いを覚えた方が実用的だからだ。

 そのため、崩界以外の世界を含めたとしても闘気を操る術を身につけようとする人間は殆どいないと言われている。

 それに闘気は魔法とは相反するものであり、魔法と同時に操る事は出来ない。

 闘気を使えば、魔法を使用する事は出来ず、魔法を使えば闘気を使用する事は出来ないのである。

 だからこそ、魔法を使えない人間。

 または使わない人間でなければ、闘気を操る意味はないのだ。

 尤も、魔法と闘気の両方に長けた人間もいないわけではないのだが、それは例外中の例外でしかない。

 また、例外と呼ばれるその中でも闘気で属性を纏わせる術は特定の血筋の人物にしか発現しないため、その存在は幻とされている。

 それが、ウィルヴェントと言う血筋。

 だが、カイン以外にはウィルヴェントの血を引き継いだ人間は存在しない。

 魔法を遣える人間以外でそれぞれの属性の力を自分で引き出す事が出来るのはこの世界でも現在はカインのみなのだ。

 だが、カインはその力を継承した唯一の人間であった。

 元はカインの父親が使っていたとされるこの術なのだが、それだけでは決して竜と戦う事は出来ない。

 闘気に属性を纏わせる技能と一流の剣術、それが組み合わさって初めてレジェンドアームなしでの竜殺しは成るのだ。

 とはいっても、カイン自身が既に成長の限界に来ているという訳ではない。

 彼が習得した剣術と闘気の力を引き出す術は未完成の形でしかない。

 そもそも彼が操れる属性の力は風のみ。

 だが、その状態であっても彼は並の剣士を遥かに超えた存在であるカイン――――。

 この崩界において己の身一つ、レジェンドアームなしで竜殺しを生業とする事が出来る数少ない人間の1人なのである。

 だからこそカインは若干、12歳にして竜と単身で戦える剣士として名を馳せているのだった。











「しかし、カインも暫く見ないうちに大きくなったよな」


 数年ぶりに再会した晃一は改めてカインの様子を窺う。

 晃一が記憶しているカインはもっと少年っぽい感じが抜けていなかったが、以前に比べれば随分と大人に近付いている。

 暫くは違う道を歩んできたカインも多くの経験を積んできたのだろうか。

 会わなかった間にカインは遠当ての技で竜を倒せるほどにもなっていたし、動きの鋭さも増している。

 それに竜と対峙している時の冷静な立ち回り――――これは見事と言っても良かった。

 晃一からしてもカインの成長は著しいものがある。


「ま、伊達に成人を迎えたわけじゃないか」


 しかし、晃一はそれを真っ向から褒めるようなタイプではない。

 だから敢えて、成人を迎えたと言う言葉で誤魔化す。

 あまりにも遠回しな言い方ではあるが、一応は褒め言葉だ。

 成人と言う言葉自体、子供が大人になったと言う意味を含んでいるのだから。

 因みに崩界では12歳以上から成人したとみなされるため、カインは形式上は大人の仲間入りをしていると言っても良い。

 一応の点で踏まえれば、晃一に言われなくともカインは既に大人なのである。


「そうかな? 僕はあまり実感なんてないけど」


「ま、そう言うのは自分じゃ解らないもんだ」


 カインは実感がないと言っているが、晃一から見て少年剣士でしかなかったカインは何処となく変わったように見受けられた。

 元からカインが少年らしからぬ雰囲気を纏っているのもあるかもしれないが、やはり成人を迎えたと言う事は大きい。

 大人と子供では意識的なものでも随分と変わってくるからだ。

 それは5年ほども前に成人の儀を経験している晃一自身が良く理解している。

 カインも自覚していないところで大人になったと言うべきだろうか。

 少なくとも晃一はそう思う。


「う~ん……ここで立ち話もなんだし。アップルヒルに戻らないか? 飛竜を討伐した報告もしないといけない」


 晃一がそんな事を考えたところでカインが提案をする。

 現在の場所はカインが拠点にしているアップルヒルと呼ばれる町からも離れている山の中だ。

 幸いにして町からは然程遠くなく、戻るにも大きな支障はない。

 だが、この山の主である飛竜は討伐したが、魔物自体は残ったままである。

 このまま、山にいるのは得策とは言えないだろう。


「そうだな。流石にこんなところでゆっくりしてるわけにもいかねぇか」


 カインの言う通り、依頼が終わった以上、危険な場所に留まる理由もない。

 それに日が完全に沈んでしまえば移動するのも難しくなる。

 晃一はカインの判断に同意する。


「よし、すぐに戻ろう――――」


 晃一の返事を確認したカインが足をアップルヒルへと向けようとしたその時――――。











「きゃあぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」











 1人の女性の悲鳴が辺りに響き渡った。

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