よくある百二話 疑心暗鬼と追って
名前を考えるのは難しいですね……。
「私の名前はセリル・ブィントです。名前の通りブィント軍国の皇女です。」
あ~あ、もうやだ本当……。なんで俺はこんなに厄介事に巻き込まれるんだ?まぁほとんど俺から巻き込まれに行くんだけどな。
「そうか、私の名前はウル・ジャックルス、普通の平民だ。」
父さんがそう自己紹介した。いやあんた普通の平民じゃないだろ……。
「私はミラ・ジャックルスよ。よろしくねセリルちゃん。」
「私はメルン・ディアスです。」
「お、俺はネビュー・ルーガンだ!!」
母さんとメルンとネビューも続けて自己紹介した。今日のネビューはなんかおかしいな……。怒ったりもじもじしたり。
っと俺も自己紹介しないと、
「俺はシン・ジャックルスだ、よろしくなセリルさん。」
「あ、さん付けしないでください。なんか嫌なので……。それに同い年みたいですし。」
ふ~ん……、まぁ俺も呼び捨ての方が良いし、そうさせてもらおう。
「そうか、じゃあ改めてよろしくなセリル。」
「「……………………………。」」
セリルを呼び捨てで呼ぶと母さんとメルンが睨んできた。なんでだよ……。
「それで……、なんでこの国に来たのか、あの森で何が起きたのか、答えられる範囲で教えてくれないか?」
まぁ大体予想できるけどな……。
「はい、先ずは我が国で起きたことを話さないといけません……、」
《回想》(セリル視点)
先ず、十一年前にこの国で起きた王族殺人事件まで遡らないといけません。
あの事件は今では真相が分かっていますが、あの頃は王の妃が犯人となってましたよね……。
ですから私の父上、つまりは我が国の王はいつか自分の妃もそんな風になるんじゃないかと疑心暗鬼になったのが始まりでした……。
そんな王の考えは私の兄弟姉妹にも伝染してしまいました。そして王宮内の空気は陰険になっていきました……。
私はそんな王宮が嫌いで、こっそりと城の外に出て、町に出かけました。
そこで知り合ったのがシミーさんでした。シミーさんは私より十歳年上で風魔法の達人でした。それから城を出る度にシミーさんのところに遊びに行き、たまに魔法を教えてもらいました。
シミーさんのところはあの陰険な王宮より百倍楽しかったです。
そして三ヶ月前、私の生活は狂いました。
そう、二回目の王族殺人事件です。
あの事件でリアス聖国の王族はユーライン・リアスさん以外の王族は全員死亡しましたよね?
その事件のせいで王宮の空気はさらに悪くなりました。陰険なだけでなく殺気も加わりました。
そして、ついに王族の一人が暗殺されました。
それが合図だったかのように次々と王族が暗殺されました。犯人は同じ王族の人でしょう……。血の繋がってる兄弟姉妹で殺し合うなんて私は信じられませんでした。我が国の王はこの事を隠しました。なので王族が暗殺されたことを知ってるのは王族を覗けば私あなた方だけです。
私もすぐに殺されるんじゃないかと思いました。
しかし風魔法の学者になったシミーさんがこの国への亡命を提案してくれました。
私はあの国で殺されるのを待つよりは国での身分を捨ててでも亡命して生きることを選びました。
しかしすぐに追っ手が私達二人の前に現れました。追っ手は二人でした。
私達は、と言うよりはシミーさんがその二人を殺しました。
私は罪悪感で一杯でした。しかしシミーさんが必死に励ましてくれました。
そして逃亡を始めて1ヶ月、一週間前にこの国に来ることが出来ました。
あとは首都にある城に行き、亡命を懇願するだけだと私もシミーさんも思ってました。追っ手はも流石に国境は越えてこないだろうと油断してました。
しかしあの森で追っ手が来ました。私達は油断してて、囲まれてしまいました。
そしてシミーさんは、
「私が囮になるから早く逃げて!!」
と言いました。私は勿論反対しました。しかしシミーさんは私の頬を叩いて、
「いいから逃げなさい!!私も後で追いつくから!!」
と言って、追っての人たちと戦い始めました。
私は無我夢中で逃げました。途中で男の人の叫び声が聞こえましたが無視して走りました。
しかし、追っての一人が追ってきました。
私はもうダメだ、と諦めかけました。ですが途端にシミーさんとの修業の日々を思い出しました。
そして練習してた私オリジナルの『風雅鎌』を追っての人に向かって放ちました。『風雅鎌』は防具を無視して相手を攻撃できる攻撃魔法です。
そして追っての人は鎧には傷ひとつ付いてないのに倒れました。
私は人を自分自身の魔法で殺したことでパニックになりました。もう、何も考えたくありませんでした。
そして直ぐにあてもなく森の中を走りました。
他の追っ手から逃げるために……。
《回想終了》
「そして、走り疲れて、そしてその場に倒れこんで気を失った……と言うことだね?」
「はい……。」
…………思うんだがこれって半分は俺のせいじゃね?
あのとき王様を殺さずに更生させていれば少なくともこんな最悪な状況にならずにすんだんじゃね?まぁ後悔はしないがな。
「ゴメンね辛いことを思い出させちゃって。ありがとね。」
「はい……。」
セリルは涙目で頷いた。まぁ十年来の親友を失ったんだからな……。辛くない方がおかしい。
「セリルちゃん、それでこれからどうするつもりなの?」
母さんがそう質問した。その質問はもっとセリルが落ち着いてからするもんだろ……。
「そうですね……、明日辺りから首都に向かいます。ここにいたらまた追っての人が来る可能性があるので……。皆さんにはこれ以上迷惑をかけるわけにも……、」
…………………やっぱりそうするしかないか。
「なぁ、その首都に向かうまでの護衛、俺がしてもいいか?」
俺がそう言うと、
「「「「「………………………え?」」」」」
この家にいる全員が一斉に唖然とした。
まぁそうなるわな……。
こっからまたカオスです。
『風雅鎌』:セリルオリジナルの風属性の攻撃魔法。防具を無視できる切れ味の鋭い風を放つ魔法。王族じゃないと上手く使えない。




