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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

日枝つぶし

掲載日:2026/03/07

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 は~、ようやく講義も終わったか。

 90分講義って結構疲れるよな。興味のある内容だったらあっという間だが、つまらないとたちまち苦痛の時間に変わる。

 人の集中力は90分が限度、みたいな話をどこかで聞いたことあるけれど、正直どれくらいあてになるかな。現在だともっと短くしかもたない気がしている。時短とかで効率を追求することが多くなった、この世の中だと特にな。

 集中が切れ、かつその場を離れがたいとなると、俺たちはついつい時計へ意識を向けがちだ。少しでも早く、この拘束のときが終わってくれないかとな。

 しかし、そうして見る頻度が増えてしまうと、一回と一回の間の時間が短くなってしまい、かえって時の流れが遅くなったように感じる……なんとも、難儀なものだ。

 自分に都合よく時間を操れたらいいのにとは、多くの人が一度は考えたんじゃないかと思う。昔の人もその願望は持っていたらしくてな、過去にいろいろな試みがあったようなのさ。

 最近聞いた話なんだが、耳に入れてみないか?


 むかしむかし。

日枝ひえだ」なる道具が、とある地域で開発された。

 数か月間山ごもりしていた、とある工匠がもたらしたものらしくてな。いわく、時間をつぶす絶好の道具という触れ込みだった。

 日枝は見た目には、根元から刃で絶った木の枝のよう。完全に同じ姿のものは二本となく、自然にあるものを元としているのは想像がついた。けれども、その枝の片方の先端をのぞいて、全体にはつるりとした手触りを持つ「ろう」のごときものが塗りたくられていたのだとか。

 そのろうが塗られていない枝の先端は、獣のあぶらの臭いを漂わせており、火を近づけてみると簡単に燃え移ったらしいのさ。

 一度、火がつくとめったなことでは消えない。あおぐ、落とす、叩くといった、事故めいた障害を前にして屈せず。大量の水や、岩などの下敷きにするなど、大胆な力押しでもってようやく消し止めることができた。


 これだけでも松明がわりになりそうなものだが、日枝は先に話したように時間つぶしことが目玉。

 この枝に火をつけ、そのままにしておくと、灰も残らないほどに火はどんどん枝を燃やしていく。そうして枝を燃やし尽くしたとき、人は体感していた以上の時間が過ぎているのを知るのだという。

 現代風にたとえると、日枝一本が5分かけて燃え尽きたとなると、実際には2時間あまりのときが過ぎている……といったような感じになるのだそうだ。

 日枝の長さにより、効果を発揮する時間は差が生まれる。時間単位から一日まるまる飛ばすものまでさまざまに存在したようだ。

 仕事の工程である程度ものを寝かせなくてはならず、さりとて他にこなす用事もない……というような人々の間で、日枝はちょくちょくと使われていたらしいのさ。


 ――日枝を使っている人はよくても、周囲の人にとっては効果がないのか? 複数人で一緒に使うことはできないのか?


 ああ、日枝に関しては周囲に人がいない状態だと、特に時の流れに変化は起こらないという特徴があったらしい。そうなると、それこそ松明代わりくらいにしかならない。

 なので日枝を使うのは、まわりの人へ伝えたうえで皆から離れたところで行うのが通例だ。他の皆はそいつが席を外していると思えば問題なく過ごせた、という。

 とはいえ、そのようなものが現代どころか昔の記録でも満足に残っていないのは、とある大事故が発生したためだ。


 とある伝書鳩を使う猟師が、山で遭難したときのこと、と聞いている。

 彼は猟に向かう際には必ず鳩を連れ、山から帰る際にはその旨を記載した紙を鳩へ託して事前に知らせていたらしい。

 しかし、その日の報せは誤って崖下へ転落してしまい、動けなくなってしまったために救助を要請するという内容だったとか。

 すぐに村人たちによる救助隊が編成されて、山の捜索がなされる。猟師の手紙には崖のおおよその場所も記してあり、村人たちが力を入れるべき場所もすぐに判断がついた。

 けれども、ひとりの村人が崖の壁面にある洞穴をのぞいたとき、「それ」を見てしまう。


 洞穴より、わずかに入ったところにはたき火の跡と、猟師のものと思しき荷物があった。

 が、たき火跡より数歩奥の、ぎりぎり外からの視界に入るところにうずくまっていたのは、遭難した猟師ではなかった。

 いずれも真っ黒く身体を染めた無数の子供たちだった、と語られている。彼らは当初、村人へ背を向けていたものの、そのうちの一人が振り返って村人に気づくと、たちまち身を寄せ合っていったというんだ。

 ひとりは左腕となり、ひとりは右足となり、ひとりは胴となり……彼らはたちまちまとまって猟師の姿を構築していく。

 だが、ただ一人だけ。恐れをなしたように洞穴の奥へ逃げていく子供がおり、そいつがすっかり見えなくなるのと、腰を下ろしていた猟師の姿が浮かび上がるのは、ほぼ同時のことだったという。

 そばに燃えかけの日枝と、きれいさっぱり右腕がないことをのぞけば完全な状態の猟師の姿がね。

 猟師の右腕は根元に一切の出血なく、まるで生まれたときからそうであったかのように肩から先がすぼまっていた。痛みもまったく感じていないとは本人の談。

 しかし、そのことがあってから日枝を使う人はあっという間にいなくなり、かつて工匠が伝えたという製造法も、絶えてしまったそうなんだ。

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