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婚約帳

作者:  皐月

今は放課後。先生のいない、教室の前の廊下で。


「ねー!好きな人、誰??」

あたしは、今日も好きな人を訊いている。




あたし、真部美咲っていう。中1。

元気すぎて、悪く言えば落ち着きが無い。精神年齢たったの5才!

これがあたし。

詳しい自己紹介なんて、メンドクサイからこの際しない。


だって、その前に説明しなくちゃいけないものがあるんだもの!



あたしが今、手元に持っている手帳――婚約帳ていうんだけど、そこには学年の人達の、好きな人がずらーりと書いてあるの。


これ、作ったのあたし。



もともと恋愛なんてしないたち(・・)のあたしは、好きな人を聞くことだけは好きで。

でもね。

これ、作っている間に好きな人くらいできたんだ。


それが今、あたしが好きな人だれ?って聞いてる人。


「教えないっつってんだろ!」

早乙女卓也。小学1年生から、ずっと同じクラスの、ちょっとイケテル顔立ちの男子。

全く無関心のはずが、好きになっちゃったヤツ。


最後の1人――他の皆はスルっとまではいかないけど、教えてくれたわけ――のコイツは、どれだけ粘っても、教えてくれない。

まあ、そういう性格なんだけど。


でも、教えてくれたっていいと思わない?



「教えてよっ!」

「いーやーだ」

「教えてってば」

「じゃ、中身見せろよ」

「いーよ!見せてあげるから!」


言ってから思わず口をおさえる。

何いっちゃったのあたし。あたしのカバカバッ!

見せちゃいけないって人、大量にいるのにっ!!!


「・・・それ、本当に俺以外全員書いてある?」


なっ・・なにその疑いの目!


「書いてあるにきまってんでしょーが!最後なんだよ、あんたが!」


「へぇ。そーなんだ。じゃ、見せてもらうぜ」


ひょい、と取られる。


「あっ、ちょっちょいちょい!!!待って!未だ駄目!」


急いで取り返そうと右手を出したら、ひょいと左にかわされた。

こっのぉ~っ!!


運動神経、あたしが1だとしたら、あっちは100。

奪おうとしてもひょいひょいかわされて、あーもうきっと・・・


軽く絶望の気分。


すると卓也が婚約帳から漸く顔をあげた。

その顔は所謂


不☆機☆嫌



「どうした?好きな人が他の人が好きだったとか?」

からかい口調で見上げる。

「違う」

「へ?」


卓也が、あたしを見下ろす。目力半端ないね☆

「どっこが俺以外全員載ってるーだ。嘘吐きが」


卓也の口から吐き出された言葉に、驚く。


「え?どこが?全部載ってr「お前が載ってない」


その言葉にカァア・・・と顔が熱くなる。

それを隠すように卓也から顔を背けた。


「あっ・・・あったりまえじゃん、何言ってんのよ。自分の好きな人載せる訳無いでしょーが」


「ってことは好きな人いるんだ?」

「あ!!!!」


そうだ、いないってことになってた筈なのに!


見上げると、ニヤついた卓也の顔。

ううっ墓穴掘ったっ!


「いっ・・・いないしっ!」

「いるくせに」

「いないってば!」

「いるって言ったのと同じことさっきおまえ自身が言ったぜ?」

「・・・それはいい間違い!」

「そんないい間違いあるかよ」


ふぅ・・・とため息をつく卓也を見て、かぁ・・と顔が熱くなった。

これは恋の所為じゃなくて、怒りの所為!


「あんたに見られちゃ困るのよ!」

怒鳴る。

途端に卓也の目が訝しげに変わる。


「・・・何故に?」

はぅっ!また墓穴掘ったぁあ!


「あんた、口軽そうだし、」

「俺そんな軽くねーよ。だってお前が小1のとき、おもらししたこと黙ってt」

「ああああああああやっぱ口軽いじゃない!!!!!!!」



全くなーにが口堅いよっ!


本当は、口が軽いからじゃないんだけど、そんなこといえる訳が無い。


そう思った途端、また火照る頬。あーもう、聞けないよ、あたしがこんな状態じゃ!

ううん、だめ。しゃんとしなきゃ。


「明日絶対、暴いて見せちゃうんだからね!!!」


べーっと、舌出して。

赤く色づき始めた空を見やり、たっと駆ける。


ぐいっ


駆けようとしたら、なにか変な感じが、服の裾からした。

引っ張られた?と思うのに、あまり時間は要らなかった。


でも。

反動で後ろに倒れる!


どーせ運動神経は1ですよ!って、心の中の自分に言い訳する。

あああもう地面に後頭部強打確実!

ぎゅっと目をつぶる、と。




ぽふっ



気がつけば、卓也に後ろから抱きすくめられてるあたしがいた。


「ち、ちょっとっ!早乙女!?」

「今、・・・教えてやるよ」


は?

「何を?」

「俺の好きな人」


はぁあ?

「どういう心情の変化?どうしたの?」


訳わからない!どうしてこんなタイミングでっ・・・!


「まなべ。知りたいんじゃなかったのか?」

「い、いや知りたいですけれどもですね!」


意味がわからないって・・・!!!


「だから、言ってやるっつってんの。なんか文句でも?」

いやいやいや!だからどうしてこのタイミングっ・・・!

でもノってくれてるし、今のうちかも!てか今のうち!

「文句なんかありません!教えてくださいませ!!!」



ぺこっ。きっかり斜め45度。

正しいお辞儀の仕方のマニュアルに出れそうなくらい、正しいお辞儀。






「・・・俺の、好きな人は・・・」

耳元で囁かれて、耳たぶが熱くなる。

「ふむふむ。」

それを隠すように、あたしは大袈裟にうなずいた。



すると卓也の抱きすくめる腕の強さが、強くなる。


「ちょいっ・・・卓也、くるしっ・・・」



途端。

パッと離れる、卓也の腕。

急に離れた所為で、前につんのめる。


「だーれがお前なんかに、教えてやるかよっ!」


そういって、あたしのおでこにデコピンして。

校門に向かって走り去っていった。


「はぁ!?教えてくれるんじゃなかったの!?」


ギロっと睨みつける。

くっそぉ、結局あたしはからかわれてただけなのか!!!



なんだか、あたし一人興奮してたみたいで、恥ずかしいじゃない!



さっきまで、卓也の吐息が触れていた耳を押さえた。


「あたしだけ好きで、莫迦みたい・・・」



あたしだけ、卓也なんかに翻弄されて。


空と同じ色の熱を持った頬っぺたを隠すように、そっと包み込んだ。

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