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遺跡で耳をすます

「うるさいうるさいうるさーい!!」


依頼主の少女、コレットは両耳を塞いで泣きそうな顔をしていた。


背景にそびえるのは、苔むした古代遺跡。そしてその中央に立つ、大きな石像――


「……ほんとに叫んでるな」


タクヤは眉をひそめた。

石像からは微かな振動と音が出ている。それは確かに、叫びのような、不定形の音声だった。


「ウォーーーーンとかギャリギャリギャリィィとか、何語でもないよね」


フェリスは耳を覆いながら呻く。


「遺跡の防衛装置か、メッセージ機構が暴走してるのか……どちらにせよ、これは普通の騒音じゃないわ」


リアナは真剣な表情で石像を睨む。

バルドは石像の台座に近づき、何かを確認していた。


「おい、こっちに古代文字が彫られてる。ちょっと待て、こいつ――記録装置だぞ」


「記録装置?」


「声じゃなくて、保存された音を再生してるってことだ」


タクヤは遺跡の中心に進み、スキル《万能補助》を発動させた。


すると頭の中に、小さなノイズとともに意味が流れ込んでくる。


――シンカ・セズ、カイゼン・フカノウ。

――カンリシャ・フテキカク。

――シュウリ・ヨウキュウ……


「これ、メッセージだ。遺跡が助けを求めてる」


一同が息を飲む。


「助けを……?」


「進化不能・改善不能・管理者不適格って……これ、誰かを評価してる?」


タクヤは一歩後ずさる。

だがその瞬間、像の目がわずかに光った。


――カクリ・カイホウ・ジッコウ。


「今、何かが……始まる!」


像の台座が震え、遺跡全体が脈打ち始める。


空気の流れが変わり、魔力の波が地下から吹き上がる。


「逃げる? それとも、修理してみる?」


タクヤは振り返って言った。


「……前者はきっと、後悔する」


肩の猫が、静かに「ニャ」と鳴いた。





「やっぱり、これ……ただの遺跡じゃないわね」


フェリスが呆れたように言いながら、耳を塞いでいた。像の叫びはまだ続いている。いや、むしろ音量が増していた。


「ギャァアアアアアアアアアアアアアア!」


「誰か!誰かこの石像に耳栓してあげてぇぇ!」


リアナが剣の鍔で額を押さえ、バルドは地面に寝転がって震えていた。


「バ、バルドさん!? 大丈夫!?」


「うるさすぎて鼓膜が鍛えられちまう……」


タクヤは、像の根元に触れながら、《万能補助スキル》を発動していた。


(これは……魔力の共鳴? 像の中でループして、増幅して、音に変換されてる?)


まるで録音された絶叫を永遠にリピートしているような、不自然な魔力の流れだ。しかも、像の素材――この黒い石、タクヤにはどこか見覚えがあった。


「思念伝導石だ……!」


かつて見た古い管理装置の欠片。それと同じ、思念を増幅・記録・再生する特殊な石。つまりこの像は、古代の記録装置だ。


「タクヤ、この像は……」フェリスが察する。


「記録してるの?」


「たぶん、誰かの最後の叫びを」


静まり返る一同。その瞬間、像が再び吠える。


「ウワァァアアアアアアア!!」


「はいカットォ!もうおなかいっぱいです!!」


リアナが限界だった。


タクヤは像の台座に手をかざし、《補助:流れの修正》《補助:記録解除》を選択する。


(こっちのスキルが通れば、ループ再生が止まる……!)


魔力が像に流れ込む。まるで何かが応えたように、像の魔力が一度、すうっと静かになった。


そして――


「……ありがとう」


像の口が、静かに呟いた。誰かの本当の最後の言葉だった。


直後、像はひび割れ、ゆっくりと崩れ落ちた。




「記録は、何百年もこの遺跡で叫び続けてたのね」


外に出たフェリスが、風を受けて髪をなびかせながら言った。


「魂が消えてないってことは、記録がうまく整理されなかったのか」


バルドも真面目な顔をしている。


タクヤはその場でメモを取っていた。像の材質、魔力の流れ、再生条件――どれも、管理されていた痕跡。


(つまりこの遺跡は、ただの観光スポットじゃない。古代の情報中継所だった……)


思い返せば、スキルを発動したとき、遺跡がまるで歓迎してくれたような感覚があった。


「タクヤ」


リアナが歩み寄ってきた。


「あなた、やっぱり……普通の人じゃないのよね」


「そう見える? ただの便利屋だよ?」


「便利屋が、遺跡の魔力と共鳴して、記録の修復なんてできるわけないじゃない」


タクヤは少しだけ笑って、肩をすくめた。


「でも、依頼だったから」


その一言で、リアナは苦笑した。


「……ずるい」


「タクヤ。次の依頼、もう来てるわ」


フェリスが巻物を広げる。


『王都の貴族の消えた靴下を探せ』


「……なんでそうなるの!? 情緒が台無し!!」リアナの叫びに、バルドの笑い声がかぶさった。


タクヤは空を見上げながら、静かにメモを閉じる。


(でも、この遺跡はきっと……何かの前触れだ)


物言わぬ石像が叫び続けた意味。その叫びが止んだ今、また次の声が――世界のどこかで、タクヤを呼んでいる気がしてならなかった。


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