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鍛冶屋の恋は燃えやすい

「でかいな、これ……」


タクヤは、肩に担がれた鉄球を見上げてつぶやいた。


直径60センチ、重量は推定80キロ。愛の鉄球とは思えないほどの物理的質量がある。


「どうして告白にこんなものを使うの……?」


呆れ顔のリアナがつぶやく。フェリスは感心したように鉄球を撫でた。


「でもこれ、すごい合金だよ。魔力の流れを熱で固定してる。もしかすると幻のレダイト鋼かも」


「愛重すぎじゃない?」


依頼主は、鍛冶師ギルドの若手――ロロ。短く刈り上げた赤髪と強気な口調が印象的な女性だった。


「アイツは昔から何でも力で測るんだ。なら、私の気持ちも重さで伝えるしかないでしょ!」


「いや、気持ちじゃなくて、金属塊なんだけど」


タクヤのツッコミも聞かず、ロロは鉄球の表面に刻まれた言葉を指差した。


《あのとき叩いた火花を、私はまだ覚えている》


「……詩人かよ」


依頼は、これを相手の鍛冶屋――ジムの工房まで届けること。ただし「正面からは行くな、恥ずかしいから」とのこと。


「つまり、夜中にこっそり窓から投げ込んでおいてってこと?」


「それはもう嫌がらせの領域だな……」


しかも、ジムの工房は今、技術盗用の噂でギルドから調査対象になっている。妙な騒ぎを起こせば、事件として処理されかねない。


「これは単なる宅配じゃない。ギルドと人間関係と技術のもつれを、うまくほぐす必要がある」


タクヤは鉄球を慎重に下ろすと、周囲を見回した。


「……これ、ひと工夫しよう。受け取る側が拒めない形にするんだ」


「え、どういうこと?」


「鉄球に共鳴装置を仕込む。あいつの工房の炉と同調するようにすれば、これは自分しか扱えない金属だってなる。そうすれば、受け取らざるを得ない」


「気持ちじゃなくて戦術じゃん!」


それでも、ロロは嬉しそうに笑っていた。


「うん、それでいい。あいつらしいよ、そういうの」


タクヤたちは夜の町へ向かう。火と鉄の想いが交錯する、ちょっと重たい配達を手に。





夜の鍛冶街は、昼間とは別の顔を見せていた。


炉の灯りは落ち、煙突から立ち上る煙もない。代わりに、静寂が石畳を支配していた。


「……ここだな、ジムの工房」


タクヤは手にした鉄球の共鳴装置を確認する。温度と魔力の流れを微調整し、ジムの炉と同調するよう設定済みだ。


まるで「おまえにしか扱えない金属」かのように思わせる仕掛けだ。


「本当にそれで受け取るの? 技術者のプライドって、そんなに単純なの?」


リアナが小声で訊く。タクヤは頷いた。


「……だからこそ、だよ。自分にしか扱えない何かに出会ったら、技術者ってのは黙って拾ってしまうものさ」


工房の勝手口に鉄球を静かに置く。


その表面には、ロロの言葉が刻まれていた。


《あのとき叩いた火花を、私はまだ覚えている》


ほんの少し、仕掛けを起動させておく。触れれば、炉が共鳴し、金属が反応を返す。


あとは――運を、火と鉄に預けるだけだ。



====



翌朝、鍛冶ギルドは騒然としていた。


ジムの工房で、未確認の試作合金が発見されたという報告が上がったのだ。


「すげぇもん拾ったよ、あいつ。『誰が持ってきたかわからんが、これは俺にしか扱えない』って言ってた」


ギルドの年長鍛冶師がそう笑う。


一方、依頼主のロロはというと――


「……見た?」


「うん。ちゃんと、炉の中に吊ってあったよ。しかも、磨かれてた」


「ふーん、そう」


ロロはそっけない返事をしつつ、どこか顔が緩んでいた。


その手には、同じレダイト鋼の端材が握られていた。きっと、次の言葉を鍛えるために。


タクヤたちはその光景を見届けると、静かに背を向けた。


「愛って、けっこう高温高圧で鍛えられるんだな」


「しかも、鍛え直しが効く合金なんだね。ちょっと感心した」


「でも私、告白に鉄球は使わないよ」


リアナの言葉に、タクヤは思わず笑った。


今日もひとつ、少しだけ世界が修復された。誰にも気づかれず、けれど確かに。


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