9話
ジェルドと名乗ったローブの集団が去った後、星愛達は、広場に戻りました。
「エレ、ジェルドというのは」
「言っちゃだめなの」
「ジェルドに関しては、神獣達ですら知る事のできない領域だ。この程度なら良いけど、これ以上踏み込み事はおすすめしない」
「ふみゅ、おすすめしないの……おねぇちゃんも関わっちゃだめだよ。愛魔法は貴重だけど、ジェルドと関わりはにゃいから」
エンジェリア達は、そう言って宿舎の方へ走って行きました。
「なんでしょう。愛魔法とは」
「伝説の魔法の一つだ。愛魔法は、愛を知る事で使えるようになると言われている」
「そうなんですね」
エンジェリアの言い方だと、魔法の才がないと言われた、星愛が愛魔法を使えるという事になります。ですが、星愛には、そんな魔法を使う事ができるという自覚はありません。
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祭りの日、日中は、研究発表に参加して、夜は星愛は月鬼と二人で夜店を回りました。
「可愛い生き物がちゅくる、可愛いあくちぇちゃりーでちゅ。恋人に贈るとえいえいの愛をもらう事ができまちゅ」
「エレ、可愛い生き物はいらないし、そんな呪いかけてないよ」
「永遠の愛だと呪いじゃねぇだろ」
「……ぷぃ、ゼロもフォルも意地悪なの。エレは頑張って看板むちゅめやってるのに。しちんかちぇぎのために頑張ってるのに」
エンジェリア達が、夜店を出しています。
星と月のペアネックレスを売っています。
「エレ、一セットもらえる?」
「はい。こちら、ちゃーびちゅでちゅ。愛をえいえいにちゅるおまじないでちゅ」
「永遠よ」
「えーえん?」
「……そっちの方が近いわね」
エンジェリア達の夜店に、アチェとノービィンがきて、ネックレスを買っています。
他にも、恋人、夫婦客がいっぱいきて人気なようです。
「早くちないと売り切れるでちゅ。早いもの勝ちでちゅ。そんなところでちゅったてないで、とっとと買えでちゅ」
「エレ、看板娘がそんな言葉使っちゃだめだよ。もっと、可愛らしく言わないと」
「……エレ、買ってほちいの。ほちいの。ネックレス買ってほちいの。お願いなの」
エンジェリアは、星愛達の事をじぃっと見つめながらそう言います。
「……買おう」
「ふみゅ、お買い上げ、ありがとうごじゃいまちゅ」
「エレ、なでなで」
「みゅ、頑張ったからなでなの。えーえんの愛が叶うおまじにゃいもちゅけておきまちゅ」
「だから、そんな呪いかけられないでしょ」
「愛のエリクルフィアの加護もらったの。これちゅくる時」
「……それは……永遠の愛も叶いそうだね」
月鬼は、エンジェリアからネックレスを受け取り、星のネックレスの方を、星愛につけました。
「ふみゅ、分かってるの」
「星の御巫は女性が多いと聞いたからな」
「多いには多いけど、そうじゃない時もあるよ。なんなら、同性って事だってある。御巫の素質に性別なんて関係ないんだ」
「……フォル、ねむねむ」
「もう遅いからね。寝に行こっか」
「えっ、まだ閉店時間」
「月鬼、全部買うか、ゼロと店やっといてくれる?」
「全部買おう」
月鬼が、今残っているネックレス二組を買いました。
「お買い上げありがとうございます。エレ、これでやっと寝れるよ」
「ふみゅ。おやすみなの」
「おやすみなさい」
エンジェリア達が、宿舎に戻るます。
「これ、本当に永遠の愛なんて叶うんでしょうか?」
「……叶うかもしれない。エリクルフィアといえば、神の代行者とも言われる神聖な種族だ。その名持ち、しかも、愛のエリクルフィアとなれば、永遠の愛の加護の一つや二つくらいは」
「その、これエリクルフィアというのは、そんなにすごい種族なんですか?それに愛魔法も……分からない事ばかりです」
星愛はまだ勉強始めたて。そこまで学んではいません。
「そうだな。エリクルフィアを信仰する国は多い。それだけ偉大な種族という事だろう。愛魔法に関しては、まだ研究が進んでいない。確か、エレが使えると聞いたが、一度も使ったところは見た事がない。愛という前提条件ができていないからかもしれないが」
「でも、エレは」
星愛の目には、エンジェリアがフォルを愛しているように見えています。エンジェリアが誰も愛していないとは思えません。
「どうなんだろうな。本当に愛しているんなら、使えるはずだ。なのに、どんな事があろうと使わないのは、今は使えないという事だろう」
「……愛は、すぐに冷めるんでしょうか?」
「そんな事はない。星愛が疑うなら、この身を持って証明しよう。経験がないから、不慣れではあるが、そこは多めに見てもらえれば」
「見ますよ。それに、私も、初めてなので、よく分かりません」
星愛は、月鬼にそう言うと、アチェとノービィンが視線に入りました。二人は、仲良く手を繋いでいます。とても楽しそうに笑っています。
「あの、手を」
「そうだな。迷子になるといけない」
「なりません」
「この辺りは人が突然いなくなると有名だ。目を離した隙にどこかへ連れて行かれるかもしれない」
「誘拐犯でもいるんですか?」
「それはない。精霊の悪戯だろうと言われてはいるが、実際に目撃された事例がなく、いまだに原因が分かっていない」
「それは、気をつけないといけませんね。それに、早く原因が分かって、いなくなった人達が帰ってきて欲しいです。その人達を今もずっと待っている人達もいると思いますから」
目撃者がいないとなれば、戻ってきた人もいない。一度消えれば二度と戻ってこられないかもしれない。
星愛は、月鬼と手を繋ぎました。月鬼が巻き込まれないようにと、願って。
「もう少し見てから帰るか?」
「はい」
夜店を見て回る途中、人とは思えないような声が何度か聞こえました。ですが、その度になにかいるのかと探してもなにもいません。
星愛は気のせいだと思い、気にせずに、夜の祭りを楽しみました。
夜店の他にも、魔法具の祭典などもありました。
日付が変わる頃、祭りの一日目の終了です。
星愛は、月鬼と手を繋いだまま宿舎に戻りました。
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宿舎に戻り、部屋に着くと月鬼と別れました。
一人で部屋に備え付けられているシャワーを浴びます。
シャワーを浴びて、寝ようとした時、また声が聞こえてきました。
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声が聞こえて、明かりが突然消えて、光魔法具を起動すると、そこは宿舎の部屋の中ではありません。
紫色の怪しげな光を放つ木々の森。
クスクスと笑う声が聞こえます。
これが、月鬼の言っていた突然人が消える現象の中なのでしょう。
「お星様。お星様」
「珍しい。こんなところにお星様」
「ミディリシェル以外のお星様」
「名前、名前」
「棲家、棲家」
小さな精霊達。見た感じは、友好的なようです。
「星愛です」
「可愛い」
「星愛、やっぱりミディリシェルじゃない。間違えちゃった」
「帰すね、すぐに帰すね」
「ミディリシェル以外は遊んでくれない。ここでの事忘れて帰すね」
「愛の魔法の気配したから、ミディリシェルだと思った」
精霊達は、子供のようです。誰かと一緒に遊びたいだけの子供。星愛は、そんな精霊達を放ってはおけません。
「あの、私でよければ、遊びます」
「遊ぶ、なにして遊ぶ?」
「追いかけっこ?かくれんぼ?」
「他にもあるよ」
精霊達は、星愛が知らない遊びを次々と言っていきます。
「他の人巻き込んじゃだめなの」
「エレ」
「ミディリシェル、久しぶりなの」
「ミディリシェル」
「うん。ひさちぶり。ここにくるたびに呼ぶけど、たまには違うあちょびちたい。魔法いっぱいちゅかうあちょびちたい」
ここへきたエンジェリアは、精霊達の扱いに慣れているようです。
「魔法いっぱい?」
「どんな遊び?」
「ここどれだけ破壊ちてもすぐに元に戻るから、ゼロとフォルにあいてちゃれずのエレの鬱憤ばらち」
「良いよ。楽しそう」
「いつも通り力かすね」
「ふみゅ、お願いなの。ちょれと、おねぇちゃん。ここの事は誰にもちられちゃだめなの。だから、偶然ここにきた人達もみんなここの記憶だけはせちゅめいちてけちゃちぇてもらってる。おねぇちゃんも、ここでの記憶はけちゃちぇてもらうね。ちゃんと、お部屋に戻ってるから、ちょこはあんちんちて」
行方不明者は戻ってきている。それに安心しますが、記憶を消さなければいけない。その事には、はいと返事ができません。
「誰にも言いませんから、記憶は残しておくというのはできないのですか?」
「ふみゅ、それはできないの。納得いかなくても。エレはジェルドの兵器とちて、姫とちて、この場所を誰にもちらちぇない。誰の記憶にも残ちゃない。今は、まだ、ここに触れちゃだめなの」
「……分かりました」
「ふみゅ、ありがと、おねぇちゃん。みんな、お願いできる?ちゅでに、お礼とちて、愛魔法の事ちゅこちだけおちえてあげて。エレよりみんなの方がくわちいから」
「分かったー。教えておくー。記憶に残しておくー」
「朝起きたら、なんか愛魔法を知っているーってしておくー」
「ふみゅ、ありがとなの」