8話
星愛は、月鬼に抱きついています。
「月鬼様、これ美味しいですよ」
「もう飲むな」
「なんででしゅかー。飲みたいでしゅー」
「ノービィン、可愛いですか」
「アチェ、暑い」
「ふみゅぅ。フォルちゅきちゅき」
「……フォルちゅきちゅき」
「……なんでゼロまで」
「マークル、そろそろ、子供も考えても良い頃じゃないかねぇ」
「そうじゃのぅ。そろそろそういうのも考えて良いかもしれんのぅ」
酒で酔った、マークルと二ギア。ジュースで酔った、星愛達。
酔っていないのは、月鬼と少年だけでした。
「……これどう収集つけるつもりなんだろう」
「……」
「フォルちゅきー」
「エレ、ぎゅぅしてあげるから、大人しくして」
「ちゅきちゅき」
「……月鬼様ーちゅきちゅきー」
「フォル、そこの姫どうにかしろ」
「どうにかしろって言われても」
星愛が、エンジェリアの真似をし始めました。
「フォルちゅき。きちゅちて?」
「エレ、二人っきりになったら好きなだけやって良いからここではやめよっか」
「やだやだー」
「……月鬼様」
「フォル、エレを部屋に連れ帰れ」
「エレ」
「やだやだ」
「……睡眠の花使うか」
生命魔法の一つ、睡眠の花。
酔っていた星愛達が、眠りました。
「エレ、一緒に部屋に戻ろうね」
「……」
「ふふ、寝てる時は、おとなしくて可愛い」
「……」
少年は、眠っているエンジェリアを、愛おしそうに眺めています。
「月鬼、後の事よろしく。僕は、エレ寝かせてくるから」
「せめてゼロは連れてけ」
「……蝙蝠にして頭乗せるか」
少年が、エンジェリアとゼーシェリオンを連れて、部屋に戻りました。これで、ここで起きているのは、月鬼だけになります。
「……」
月鬼は、連絡魔法具を出して、ヴィマ達にここへ来るように連絡して、星愛を連れて部屋へ戻りました。
**********
翌朝、ジュースを飲んだ後の事は何一つ覚えていない星愛は、気持ちよく目覚めました。
机の上を見ると、洗顔セットと化粧品セットが置かれています。
手紙も一緒に置かれていて、星愛は手紙を読みました。
【エレゼロの出張可愛い依頼です。出張サービス承っております。可愛いが合言葉です。今後ともご贔屓にしてください】
丁寧で綺麗な字でそう書かれていました。
星愛は、身支度を済ませて部屋を出ます。
「……おはよう」
「おはようございます。疲れているみたいですが、どうされたんですか?」
「……」
部屋から出ると月鬼に会いました。月鬼は、朝から疲れている様子です。
「今日は、準備の最終日だ。朝食を済ませたら、広場に集合らしい」
「はい……あの、まだでしたら、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
「……ああ」
昨晩の事を覚えていない星愛は、月鬼が疲れている原因を知りません。先ほどから、月鬼が目を合わせようとしない原因も、当然知りません。
「あの、嫌でしたら、断ってください」
「嫌ではない」
「でも、さっきから、ずっと目を合わせてくれません」
「……覚えてないのか?昨日、エレに影響されて、部屋であれだけキスを強請ってきたというのに」
「えっ⁉︎本当ですか?」
「……ああ」
「申し訳ありません!私、あのジュース飲んだ後から記憶がなくて」
「ジュースだからと止めなかった俺も悪い。もうあのジュースは飲むな。それより、早く行かないと遅れる」
「はい」
昨晩、星愛は部屋についた後、目を覚まし、月鬼にキスして欲しいとねだりました。
それを聞いて、星愛も、月鬼と目を合わせられなくなりました。
「星愛、エレ達も一緒でいいか?」
「はい」
「フォルあたりが起きてはいるだろうから。呼べばすぐ来るだろう」
エンジェリア達の部屋の前に来ると、月鬼が、扉を軽く叩きました。
「ふぁぁ、早起きねむねむなの」
「昼寝させてあげるから我慢して」
「フォルのお膝で以外うけちゅけないの」
「分かったよ。それで良いから」
エンジェリア達が部屋から出てきます。エンジェリアの頭には、蝙蝠が乗っています。
「珍しくゼロが寝ているか」
「省エネモードだって。高級なのは品薄で、残り少ないから。ゼロが安い方で我慢してくれれば良いんだけど」
「いくつか持ってきているのを分けようか?」
「ありがと。でも、飲んでくれないから良いよ。常に最高級品がいるような状態じゃなければ飲んでくれたんだろうけど」
少年が、エンジェリアを見ながらそう言います。
「品薄の高級品というのは、エレの味を模して作られたというあれか」
「そう。ゼロは、人工のだとあれ以外飲んでくれない。確か、君も一度飲んだ事あったよね?本物」
「ああ。以前、大怪我した時に一度だけ。あの味は、エレ以外には出せないだろうな」
「それはそうでしょ。エレは、全ての世界が破壊される前に産まれるジェルドの……エレは、ゼロのお気に入りなんだから」
「フォル、あまあまさん逃げちゃうから早く行くの」
「あんまり、食べすぎちゃだめだよ」
**********
星愛達は、朝食を済ませた後、広場に向かいました。
「星愛、この保存箱に、作ってきたものを入れておけば祭りで買ってくれる」
「はい」
星愛は、事前に作っておいた料理を保存箱に並べました。
「星愛お嬢さんは、料理が上手だねぇ。うちのアチェも見習って欲しいよ」
「そうだのぅ」
「料理くらいできるわ。それより、エレ達どこにいるの?」
「さっきまでここにいたはずだけどねぇ」
準備をする前までは広場にいたエンジェリア達が見つかりません。
「私、探してきます」
「わたしも行くわ」
「月鬼坊、二人だけじゃ心配だから、ついて行っておやり」
星愛は、月鬼とアチェと一緒に、エンジェリア達を探しに行きました。
**********
広場を回って見つからず、森の方まで来ました。
森の中で、エンジェリア達が、ローブを着た集団と一緒にいます。
「貴女があの噂の」
「ふみゅ。はじめまちて、エンジェリルナレージェ・ミュニャ・エクシェフィーでちゅ」
「……そこにいるのは誰だ!」
ローブの集団の一人が、そう言いました。
「邪魔をしたのは謝罪する。俺達は、突然いなくなった姫達を探していた者だ」
「姫?」
「貴公でしたら興味あるのでは?この島に伝わる禁忌に近い子と、聖獣の血を継ぐ人間の子。それに、かのロスト王家の装置生まれではない聖月を色濃く受け継ぐ子」
「ほう。それは興味深い。だが、よろしいのか?この話を聞かせて」
「いつかは知られる事だ。それがいつになろうと関係ない」
エンジェリア達が黙っていなくなったのは、これが目的だったのでしょう。星愛達をこの場に来させる。
エンジェリア達は、誰が探しに来るのかも全て分かっていたのでしょう。
「貴女はよろしいのか?」
「ふみゅ」
「先ほどは失礼した。我々はジェルド。世界の魔力と密接な関係のある種である。貴殿達にもこうして自己紹介は初めてであるな。我が名は、レグラ。長い付き合いになる。互いの名くらいは知っておいて損はない」
「そうだね。僕は、フォル・リアス・ヴァリジェーシル。エレの」
「お嫁しゃん……間違えた。エレがお嫁しゃんなの」
ここぞとばかりに主張するエンジェリアに、フォルは否定しません。
「そのような関係だったとは」
「予定なの。エレはフォルのお嫁しゃんになる予定なの」
「否定はしないけど、どこまで広める気なの?」
「フォルが、それ以外の選択肢なくなるくらい広めるの」
「……えっと、それで呼んだ用件教えて」
「我々の拠点の一つがこの近くにある。そこにあった、旧ジェルドの遺産の一つを譲ろうと思って呼んだ」
「ジェルドの遺産って危険な香りしかしないんだけど」
「エレのゼロが気になるほちいって言っているの。どんないちゃんなの?」
「それは、これだ」
「まるまるほうちぇき?ふみゅ?なんだかほかほか」
エンジェリアが、丸い宝石を受け取りました。
「我々が触った時は何も感じなかった。やはり、適合者という事か」
「ふみゅ?」
「エレが持ってて。ジェルドの遺品類は、研究もする必要がないから」
「ふみゅ。分かったの。なんだかぽかほかで気持ち良い。ふみゅ。これを持ったまま眠ったら良い夢見れちょう」
「良い夢?それってもしかして、未来視を防ぐために使われていたものなんじゃない?」
「そういうものなのか」
エンジェリアは、胸の前でぎゅっと、宝石を握りました。
「ふみゅ。分かんないけど、とっても、ねむねむになってきているの。これ持っていると不思議な感じなの。ぽかぽかでほかほかで、安心できて、だいちゅき」
「ここで寝ないでよ」
「お近づきの印にと持ってきてはいたが、ここまで気に入ってくれたとは。しかし、これは、何が起こるか分からない遺産だ。気をつけるように」
「うん。ありがと。エレにも気をつけるように言っておくよ。聞くかは分からないけど」
「ふみゅ。エレからも、これあげるの。エレとくちぇい栄養ドリンクなの」
「ありがたく頂戴しよう。我々は、意外と多忙の身。こういうものはありがたい」
「ふみゅ。なら、今ローシャリナ王国で可愛い依頼ってお店やってるから来て良いの。いっぱいプレゼントするの」
「こちらも、また何かあれば渡そう。貴殿達とは、良い関係を築きたい」
「ふみゅ」