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8 王都から来た青年(2)

「それはそうと、考えたんだが」

 ケイラムが切り出すとレイナージュは不思議そうな顔で聞いている。

「俺は確かに存在を隠さなければならない。しかし隠れて暮らすのは面倒だ。この際、君の遠い親戚とか、兄とか言って町でも出歩けるようにしてもらえないか」

「え。あ、あのね、私捨て子だったの。それをベイカおばあちゃんが拾って育ててくれたのよ。だから、兄とか親戚とかいないのよね。それにおばあちゃんにも血縁はいなかったみたいだし。急にそんな人が出てきたら町の人がびっくりすると思うんだよね」

「それでは一芝居打ってみるか。君は風呂にでも入って家にいるといい」

「え?」

 言うなりケイラムは家を出て行った。

 魔法で身なりを変えているのが目に入った。

 最初から魔法で服も用意できたんじゃ、と気がついたレイナージュだったが、魔法が万能でないことは聞いたことがある。無から有を作り出すことは無理なのだ。だから来ていた服を作り変えたに違いない。

 レイナージュはそれよりも、と目を輝かす。せっかく作ってもらったお風呂が気になり、ソワソワしながら風呂に入ることにした。

 しばらく湯船を堪能し、天井から落ちてくる柔らかい水飛沫に歓声をあげ、彼女は風呂を満喫した。

 着替えてほっこり湯上がりのお茶を飲んでいると外が騒がしくなってきた。

 不思議に思って、彼女が扉を開けてみると、向こうからヨハンを始めとした町衆が大勢やって来るのが見える。しかもヨハンの隣にはケイラムがいる。

 彼女はパッと部屋の中を振り返り、彼の上着がないことに気が付いた。

「魔法で元に戻せるんだ」

 そんなことに感心しているうちに、町衆一行がレイナージュの家へ到着してしまった。

「レイナ、驚かずに聞いてくれ」

 ヨハンを押し除けて町長が彼女の前に現れる。彼はアンドレの父親だ。レイナージュとアンドレとの交際を快く思っていないはずだが、レイナージュに笑顔を向けてくる。そのことに僅かに身を引いて彼女は町長から距離を取った。

「こちらの王都からいらっしゃった騎士様がお前に用があると言う。この偉いお方に失礼がないように、よおく聞くんだ」

「はい?」

「いいかい、お前は実は王都でも高貴な公爵家の行方不明になっていたお嬢様だと言うんだ。ベイカ婆さんの手紙で発覚したらしい。しかしな、お前は狙われていて、なんとここにもお前を狙った魔物が出たんだ。それを運良く現れたこの騎士様が退治なされて、お前を探していると言うじゃないか。これも運命なのだよ。それでだな、狙われているお前を今すぐ王都へ連れて行くわけには行かないと言うので、この騎士様の護衛の元、しばらくこのままこの家で暮らして、時が来たら王都へ向かうことになった。このことは、町の者以外に話しちゃあいけないよ。みんなに箝口令を敷いてある。誰かが漏らさない限りお前は安全だからな」

 町長は一気に喋って興奮気味にケイラムを降り仰ぐ。

「騎士様、どうかこの子を守って下さい」

「ご安心を。私が命に代えてもお守りすると誓います。お嬢様が生きてこの町の皆さんに大事にされていると知ったら公爵閣下も喜ばれることでしょう」

 圧倒的美貌の青年、それも田舎では見たこともない騎士が優美な所作で微笑みながら話すと町民から吐息が漏れる。

 人心を把握する術に長けているケイラムにレイナージュはただただ感心して言葉を発することなく彼を見上げる。

「騎士様、うちの息子も王都で騎士をやっております。王都へお帰りの際は、どうぞよしなに」

 アンドレの両親がケイラムの両手を握り締めんばかりに近寄って言うと、彼は眩しすぎる笑顔を彼らに向けた。頷きもしなければ言葉も発しなかったが、勝手にアンドレの両親は解釈してるのだろうな、とレイナージュは詐欺師のようなケイラムの所作に驚くばかりだ。

 身分のことはよく分からないなりに、子爵家とケイラムの家では格が違いすぎるのではないかとレイナージュは思う。それでも恋人が取り立てもらい出世するのは本人が喜ぶと思うので良いことだとは思うのだ。

 本当はアンドレに帰ってきて欲しいし、出世なんかしなくても、彼の朗らかな性格そのままで、ここにいる時と変わらず人気者のままに過ごしていて欲しいと願うばかりなのだが。


 

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