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挿話「君に捧げる」

いつも読んで下さりありがとうございます。

本編が三十話書けたので箸休め小話でございます。

楽しんで頂けたら嬉しいです。

 君はいつだって太陽のようだ。

 眩しすぎて手を伸ばしても届かない気さえする。

「アンドレ?」

 目の前で無垢な笑顔を見せる恋人に彼は笑みを返す。

 森の奥、二人だけの逢瀬。

 なのに心に線を引かねばならない重荷。

 父親の言葉がいつも彼を踏みとどまらせる。

『決してレイナージュに触れてはいけない』

 そんなの無理に決まっている。

 綺麗で可愛くて、この世のものとも思えない純粋な女の子。恋に落ちるのは一瞬だった。小さな頃から彼女だけが世界の全てだった。

 それなのに。

 幼い頃は許された触れ合いを、お互いの性別が体を作りだしてからは必要以上に監視され禁止されることになって不満がないわけがない。

 誰かに先を越される前に自分のものにしたかった。

 その可憐な唇に自分のものを重ねてみたい。

 その柔らかな肌に手を滑らせて恥じらう顔を見てみたい。

 欲望は大きくなるばかりだった。

 レイナージュは焦茶色の長いスカートを鬱陶しそうにしながら切り株に座ってこちらを見ている。アンドレは知っている。本当は活発なレイナージュはズボンを履いてみたいことを。そして他の年頃の娘たちがしている短いスカートやおしゃれなアクセサリーをつけたり薄くて透けそうなブラウスを着ていみたいってことを。

 でもレイナージュはしない。おばさんのような格好で、色もくすんだものか地面の色かくらいしか身につけない。そう育てられたから。

 なんて町だろう。

 クソみたいな町だ。

 アンドレはいつかこの町を絶対に出ると決めている。その時はレイナージュも一緒だ。二人で新しい街に住み、おしゃれな格好をしてイケてるカフェでデートする。

 王都へ行って騎士になるのもいい。そうしたらレイナージュも惚れ直すだろう。なんと言っても年頃の娘たちは騎士に夢中になるのだから。

 ずっとそうやって妄想していた。

 想像は果て無く、美しい。

 レイナージュは最高の相手だ。美人なだけでなく、気立ても良い。いつも信頼の眼差しで彼を見ては頬を赤く染める姿がいじらしい。

 早く自分だけのものにしたい。

 なのに、なのに。

 父親の呪縛のような言葉のせいで容易に触れられない。誰も見ていないところで触れてしまえばいい。そう思うのに、できない。それがどうしてなのか身に沁みるほど分かっている。

 彼女は孤高の花だ。

 最近教えられたレイナージュの本当の素性を聞いて理解した。

 亡国の姫君なんて信じられない。でも彼女が昔から特別な存在だと知っている。汚そうとしても汚せない崇光な魂を持っている人なのだから。

 レイナージュが時折見せる神々しい気配。そして年々増す美しさ。

 他の誰も持っていない気高い雰囲気。

 国のない姫君など只人と同じはずなのに。

 未だに手が出せないでいる。

 それは自分に自信がないからでもある。本当にレイナージュに釣り合う人間なのか。疑問を持ってしまえば、もう臆病な自分はその先には行けない。

 そんな時に湧いて出た話に飛びついた。

 母の実家から養子にならないかという誘いだ。後継になり騎士になる。

 なんて魅力的な話だろうか。ずっと願ってきたことなのだから。

 まずは騎士になる。まだレイナージュを連れて出られないのだから待っていてもらおう。彼女も分かってくれる。

「レイナ、話があるんだ」

 そう声をかけると澄んだ瞳が彼を映す。

 ああ、この目だ。そう思う。

 跪きたくなる衝動に駆られる。

 君に全て捧げる。

 君の騎士になるよ。待っていて。

 その誓いを口に出すことはない。彼女はずっと待っていてくれると信じているから。

 


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