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3 ある日の拾い物(2) 

 レイナージュはお湯を沸かし、少し熱めのお湯に浸した布で青年の汚れた顔や体を拭いていく。苦しそうに喘ぐので上着を何とか脱がし、シャツのボタンを外したが、思いのほか酷い傷に涙が出そうになる。逞しい体に走る無惨な傷跡から流れ出る血は止まることを知らず、レイナージュは途方に暮れそうになりながらも、自らを叱咤して彼を助けることに専念する。

 体を清潔にしないと、と血を拭い、何度もお湯をかけて、どうにか綺麗にし、ズボンに手をかけるのを躊躇うが、意を決して同じように脱がす。流石に彼の重みで苦戦したが、下着はそのまま履いたままにして、他のものを全部脱がし終えると足も拭いていく。

 シーツにも血がついたが、流石に彼を起こしてまで交換するべきではないと思い、そのままにした。それから傷口を消毒し、ベイカの調合した切り傷の塗り薬を塗る。そして清潔な布で覆う。全ての傷を処置し終え、レイナージュはほっと一息ついた。

 何か着るものを、と探すが、老婆と娘の生活では男の着るものなど持ち合わせていない。仕方なく、肌の当たりが良い自分のとっておきのネグリジェワンピースを裂き、彼の体に巻きつける。流石に彼の体を覆うことはできなかったが、ないよりはマシだろう。それから冬用の掛け布団を出してきて彼にかける。体温が下がらないようにするためだ。これはいつかベイカが言っていたのを思い出したからだ。

 ベイカの残した薬を探して彼の口元へ持っていくが、苦しそうに呻くだけで彼は飲もうとしない。

 レイナージュは迷った末、それを自分の口に含み、彼の口へ流し込む。

 むせるようにして嚥下したのを見届けると、やっと彼女は安堵した。

 ベイカの薬は驚くほど効く。彼女の残した最高級の物を惜しみなく使ったのだ。もう心配することはないだろう。

 彼女は彼の呼吸音が落ち着いてきたのを確認して側を離れた。

 血だらけの布やお湯を片付け、一息つく頃には朝日が窓から差し込んでくる。

「もう朝なのね」

 レイナージュは呟いて、泣きすぎて腫れぼったい自分の目に気がついた。

 ベイカの残した薬の棚を探し、目の腫れを抑える目薬をさす。

 じんわりとベイカの愛情が身体中に染み渡るようだった。

 疲れた体を引きずって、寝台に眠る青年の側に行き、その手を握ってみる。レイナージュの手を包み込むくらい大きな手だ。

 ぽてっと寝台の彼の腰あたりの位置に頭を乗せていると目が勝手に閉じていく。

 彼女は床に座ったままスーッと寝息を立て始めた。

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