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25 王都への道のり(3)

 レイナージュはケイラムにエスコートされて馬車から降りる。

 ここは山間の街で旅人が多く行き交う休憩のために栄えた町のようだった。

 街道を通らず迂回路のような道を通ってきたレイナージュ達だったが、ヨハンの提案で物資の補給を兼ねてちゃんとした街で休むことにしたようだ。

 馬車の中では座っているだけだが、逆に体を動かさないことで疲れが溜まるのだとレイナージュは実感して思い切り体を伸ばしてみる。ふと顔を上げるとケイラムが微笑んでレイナージュを見つめている。

 そして彼女は気が付いた。

 ケイラムの回りだけ別空間になっている。いや、そのようにレイナージュには見える、と言うことなのだが。いつもの普段着なのに、キラキラした美貌に近付き難いのか誰もが遠巻きにしている。そんな彼に臆することなくヨハンが声をかける。今後の予定を確認するようだ。彼はレイナージュに「少し待っていて」と声をかけてヨハンの方へ向く。彼が動くたびに彼を通す道が出来上がるのが面白い。

 町にいた時には気が付かなかったケイラムの別次元の輝きにレイナージュは新鮮な驚きを覚える。これが王族の気品とか言うものだろうか。まじまじと一歩引いて彼を見ていると、あちこちに指示を出していたケイラムが訝しげにレイナージュを見た。

「レイナ、どうしてそんなに離れているんだ?」

「どうしてって、邪魔にならないように?」

 首を傾げて答えたレイナージュに納得いかないような顔を向けてケイラムはその距離を詰める。青銀色の光が近づいてきて彼女の心臓が妙に力強く打つのを感じる。

「レイナ、具合が悪いのか。顔が赤いぞ。軽く食事を用意してもらっているが、食べられるか」

「うん、平気」

 ケイラムの差し出した手を取って、レイナージュはレストランに向けて歩き出す。その後ろをアンドレとヨハン、そして町で大工をしていた二人の青年が付き従う。

「ヨハンさんたちも一緒に食べられるんですよね」

 レイナが振り返って、アンドレを見ないようにしてヨハンに問うと、彼は人の良い笑みを浮かべて首を振る。

「いいや。私たちは護衛だからね」

「え、でも」

「レイナ、彼らの役割に口を出してはいけないよ」

 穏やかにそう言われただけなのに、何も反論できない圧力がそこにある。

 人の上に立つ者としての格が違う。レイナージュはケイラムが普通の貴族とも違うのだと新たに認識する。

 ケイラムからにじり出ている気品にも怯んでしまうレイナージュは何か色々決断を早まったかも、と思わないでもない。

 そっとケイラムに肩を抱かれて、レイナージュは思考を振り払った。

 ケイラムが素敵なのは知っていたし、その彼が自分を必要としてくれている。それだけでいいじゃないか。

 この笑顔を他の誰にも渡したくないのだから。

 食事後、レイナージュは完璧なエスコートで彼女を連れ回すケイラムにやられっぱなしである。壮絶なる色気に当てられて、レイナージュの息も絶え絶えな様子にケイラムは気付いているのかいないのか、ご機嫌である。

 人混みに足元が危うくなれば自然と腕を引き、興味の引きそうな店があればエスコートする。レイナージュが誰かの視線に留まりそうならばさりげなくその体で彼女を隠す。護衛の必要性を感じない、とレイナージュは背後で周りを警戒している四人にさっと視線を流す。

 彼らは無の境地にいるような表情だが、流石に護衛として選ばれている人物だけあって、警戒は怠っていない。それが分かるようになったのは、レイナージュがただ護衛されているだけというのは申し訳なくて自分も周囲に目を走らせている結果だった。

 短い滞在を滞りなく終えて、ケイラムが馬車にレイナージュを乗せ、人員の配置を確認して自分も乗り込んだ。

「しばらくまた街道から外れる。辛かったらすぐに言ってくれ」

「うん。ケイラムも言ってね」

 そう返すと彼は微笑んで「ああ」と応えた。

 ふ、と強い視線を感じて窓の外を見るとアンドレと目が合う。

 その様子に気がついているだろうにケイラムは何も言わず、ただ穏やかな目をレイナージュに向けてくるだけだった。

 レイナージュは何となく気まずくなって、何か明るい話題がないかと頭の中を検索する。

「王都って」

「うん?」

「どんな所?」

 精一杯の質問だった。

 レイナージュは気にはなっているが今更聞くのもな、と思っていたことを聞いてしまった。

「そうだな」

 ケイラムは可笑しそうにレイナージュを見て、それから腕を組む。そんな仕草も色っぽくてレイナージュは見惚れてしまう。

「まず騒々しい。人が多いということもあるが、噂好きな人間が多いのだろうな。街はそれなりに賑わっている。商店も多いから探索しても退屈しないだろう。それに散歩道もあちこちにあるな。レイナージュならすぐに馴染める」

「そうなんだ」

 田舎者だという自覚はあるのでついていけそうにないと不安に思っていたりしたが、ケイラムが言うなら大丈夫かもしれない。

 レイナージュの気持ちが明るくなっていくのを感じたのかケイラムの笑みが深くなる。

 それを見るとまた頬が自然と赤くなってくる。

 この男は本当に目の毒だ。

 そう思うレイナージュには圧倒的に恋愛経験が足りないのだった。





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