12 魔物との遭遇(2)
ケイラムは今まで見せたことがないような鋭い目でレイナージュに家を出ないように言い、外へ出ていった。
彼の気の張り方は尋常ならざる警戒体制のように感じ、レイナージュはあまりの不安に手先が冷たくなっていくのを感じる。
しばらくすると森から突風が窓に吹きつけてくる。ガタガタと窓を揺らすような風は今まで一度も吹いたことがない。何かあったのかと思っていると次に獣の咆哮のような恐ろしい声が聞こえてきた。ブルブルと震える手を握り合わせ、レイナージュはケイラムが心配で外に出ることを決心した。
自分では何の役にも立たないとは思うが、彼が心配でしょうがない。
レイナージュは目を閉じていても歩けるくらい知っている森の道を奥へ進み、そして目にした。
森の木々よりも大きな体躯で鋭い爪を持ち、翼を持つ生き物が、そこにいた。絵本でしか見たことのない「ドラゴン」だ。とても危険で人間が太刀打ちできる相手ではないことはレイナージュでも知っている。
そんなドラゴンの前に青銀色をした髪を揺らしながら剣を振り上げて攻撃を仕掛けているケイラムがいた。息が止まるかと思うくらいの衝撃にレイナージュは彼の姿に釘付けになる。
彼は恐ろしく強かった。
普通の剣では切れないはずのドラゴンの火をも防ぐ硬い皮膚を、彼が力も込めずに振るった剣が引き裂いていく。流れるような身のこなしでどんどんドラゴンを追い詰めていく。いっそ一瞬で殺してしまいそうな力の差なのに、彼はドラゴンを痛めつけるだけで殺そうとはしない。そこに何らかの意図を見つけてレイナージュは震えを止めた。
ケイラムは負けない。きっとどんな敵が来ても勝つ。
レイナージュが見守る中、ケイラムが倒れたドラゴンに片足をついて見下ろした。
「誰の差金だ?誇り高いドラゴンがこうして俺を襲いにくるんだ。あらかたアイツの仕業だろうが」
『答える義務はない』
「そうだろうな」
ケイラムはそう言って、剣をドラゴンの肩に突き刺した。本来なら剣を弾く皮膚は最も簡単に彼の剣で傷つく。
「使役の紋を入れられて反抗できないのか?それとも自らアイツに従ったか?何につけても俺の神経を逆撫でる行為だが」
『……そなたは分かっておらぬ』
「何を」
ケイラムはドラゴンの答えを待ったが、ドラゴンは何も言わなかった。
「俺の役に立たぬのなら死ね」
ケイラムがドラゴンに対して大きく剣を振り上げる。
「待って、ケイ」
思わずケイラムのいるところへ走り出して、レイナージュは彼の体に抱きついた。
「レイナ、危険だから外に出るなと言っただろう」
「ごめんなさい。でもね、あなたがとっても強かったから心配する必要なかったな、って思って帰ろうと思ったんだけど、気になってしまって」
「気になる?」
「ええ。この人の回りを鎖が巻き付いているみたいで」
レイナージュはケイラムの足元のドラゴンを見た。
「レイナ、これは人ではない。魔物だ。人を害するから抹消せねばならない」
「分かってる。理屈は分かるの。でもそれではいけないのよ」
必死に言い募るレイナージュの様子にケイラムは剣を納める。どのみち、剣でなくとも彼は魔法でドラゴンを倒すことができる。それも瞬殺できる範囲で。