1・王都からの手紙
拝啓 レイナージュ様
温かな季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。
僕は正式に騎士見習いから騎士へと昇進し、今まで以上に精進しています。
君はまだ家の手伝いしかしていないのかな?
当分、忙しくて手紙を書けそうにないから、僕のことは気にせずに過ごしてください。
アンドレより
白いだけの淡白な便箋を胸に抱きしめてレイナージュは目を閉じる。
幼馴染で恋人のアンドレが王都へ旅立ってから半年になる。その間に来た手紙は三通だ。
初めは王都へ着いたと知らせた手紙。そこには君に会いたい、愛していると書かれていた。長文で丁寧に書かれていて、便箋も花の香りのする模様の入った手紙だった。
次に騎士見習いが辛いといった内容の手紙。でも仲間がたくさんいて楽しく過ごしているという内容。レイナージュのことに触れる文章は一切なかった。それでも、可愛らしい柄の便箋二枚だった。
そして今回の手紙は、いや手紙というよりもカードのような白いだけの紙。書き殴ったような乱雑な字。それも出すのを放置して数ヶ月経っているようだった。
それでも愛しい恋人の手紙にレイナージュは心が躍る。
無事な知らせは嬉しいし、きっと本当に忙しくて手紙を書いている暇もないのだと思うと、彼の身体の心配をしてしまう。
きちんとご飯は食べているのかしら。
レイナージュは大事そうに手紙を封筒にしまうと、エプロンのポケットに入れてカゴを持ち上げる。
カゴの中には森で採れた果実や木の実、そしてカゴを編む蔓や薬草なんかがたくさん入っている。
レイナージュは森の入り口にある我が家に急いで戻ると中にいるはずの育ての親であるベイカを探す。
「おばあちゃん?」
だが、中には誰もいなかった。
老齢のベイカはあまり外へ出ず、代わりにレイナージュが外の仕事をしている。薪割りに水汲み、ベイカの作った薬や干した果実を町に売りに行くのだ。
「いないの?」
レイナージュはカゴを定位置に置き、外に探しに出る。
辺りはしんとしていて誰かがいる様子はない。
今までベイカが黙って家を空けたことはない。不安になって彼女は町まで探しに行こうとの道を足早に急ぐ。
すると前方からいつも薬を買ってくれる日用雑貨の店のヨハンが焦った様子で向かってくるのが見えた。
「ヨハンさん、大変なの。おばあちゃんが家にいないのよ」
レイナージュが不安そうに声をかけると、彼は最初グッと詰まったように押し黙ったが、すぐにレイナージュの両腕を優しく掴み、目線を合わせてくる。
「いいか、レイナ。気を確かに持って聞いてくれ。ベイカ婆さんが倒れたんだ。俺が家を訪ねた時には意識はなかった。すぐに医者のところへ運んだんだが、既に手遅れだったんだ」
「手遅れ?」
ヨハンは何を言っているのだろうか。
レイナージュは理解ができないという風にヨハンを見つめる。
「そうだよな、急にそんなこと聞かされて受け入れられないよな。でも事実なんだ。ベイカ婆さんは亡くなったんだ」
ヨハンの言葉にレイナージュは世界が崩れたように打ちのめされた。