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書は人の夢を見る  作者: ほしぎしほ
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10-1 書人は籠の中

 ポディマーニ村には一人の書人がいました。その子は珍しく、生まれた時から肌が黒い書人でした。

 図書院では肌の色が違うことを気にすることはなく、書人皆が普通通りに遊んで暮らしていました。

 そんな肌が黒い書人を気に入り、買い取った貴族がその書人をポディマーニ村に連れて来ました。

 しかし、その肌の色を村の人は気味悪く感じ書人に対して冷たく接しておりました。それに貴族は書人を家に閉じ込めることしかできませんでした。

 書人は小さな部屋の中で1つだけある窓から外を眺めることしかできませんでした。

 しかし、そんな書人の元に1人の男の子が現れたのです。


□ □ □


 ロプ達はエモ・イングニルフスム王国を目指してポディマーニ村にやってきた。

 ポディマーニ村にはこれといった特色はなく、ジュスティが特に夢を見てもいなかったので、あくまで休息のために寄った形である。

 ポディマーニ村にある宿に部屋を取り、宿の1階の食堂で食事を取っていると、村の女性の会話が耳に入った。


「アスチル、またあの悪魔のところに行ったらしいわ。親御さんも困っているみたい」

「シュミットさんも大変ね。長男が変なものに魅入られてるなんて。他に子供もいないのに」

「……悪魔?」


 ジュスティが思わず声を漏らす。その声に女性たちは口を噤んでしまった。ジュスティだけでなくラピュも会話が気になる様子であることに気付き、ジャンが女性たちに笑顔を向けた。


「もしよければ、その悪魔のことを教えて頂けませんか? 旅をしている我々は、そういう変わった話が好きなんです。ああ、勿論それが村の悪評に繋がるのであれば外には漏らしません」


 ジャンの言葉に女性たちは戸惑ったようにお互いの顔を見合わせている。それを見てジャンは声を潜める。


「むしろ、悪魔という単語が気になりすぎて他で口に出てしまうかもしれません。教えていただけませんか?」


 潜めた声を女性たちに聞こえる様にジャンが顔を近づけると、女性たちは頬を赤らめる。少しの沈黙の後、女性の1人が周りに聞こえないように口にする。


「この村の村長がある日他所で買ってきたという子供がいるんです。その子がとても恐ろしい見た目で、私達は悪魔と呼んでいるんです」

「恐ろしい見た目、ですか」

「ええ。この村にやってきたとき、真っ白な長髪に真っ黒な肌だったの。そして赤い瞳がおぞましかったわ」


 真っ白い長髪、の言葉にフォークを動かしていたロプの手が止まる。


「恐ろしくて、皆が村長に悪魔を追い出せと言ってからは姿を見る事はなくなったけれど、村長の家の傍に建てられた塔の中にいるそうよ。私は見たことがないけれど、子供達が見たって言っているの」

「なるほど……そういうことだったのですか」


 ジャンが礼を言うと、女性たちは頬を赤らめつつ食事を終えて去って行った。それを見送ってからジャンはロプを見る。


「ロプ、悪魔って書人のことだと思うか?」

「可能性はあると思うわ。偶然白い長髪の人間の可能性もあるけれど」

「そうなんだろうけど……黒い肌って聞いたことがないな」


 ジャンの言葉にロプは目を丸くする。


「あら、ジャンは会ったことがないのかしら?」

「いるのか?」

「いるわよ。書人では見たことが無いけれど、この世界には少ないとはいえ黒い肌の人間がいるわよ」

「小生も、本で読んだことはあります。数は本当に少ないと聞いてはいますが」

「はるか昔、奴隷として使われていることが多い人種だったけれど、古代の国では姫のように扱われる者もいたようよ。今度図書館に行く機会があれば、その本を紹介しましょうか?」

「……頼む。古代の話は夢物語だと思って読んだ事ないんだ」

「読んでみたい」


 ジャンよりもラピュの方が目を輝かせている。2人に頷いてみせてからロプはジュスティを見る。


「ジュスティが古代の物語を読んでいたのは意外ね。黒い肌の人間の話はそ

の物語に書いてたわよね」

「はい。図書院で時間があれば色んな本を読んでいたので。司書になるには知識も必要かと思ったんです」


 それに、司書さんが勧めてくれましたし。

 そう言ったジュスティの瞳が懐かしさに細められる。そんなジュスティにロプは特に声をかけることなく、ナイフとフォークを置いた。


「やることもありませんし、村長の家に行ってみましょうか。探している書人ではないと思うけれど、興味があるわ」


 ロプの言葉に反対する者はいなかった。




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