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書は人の夢を見る  作者: ほしぎしほ
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7-3 書人も家族である

 そこは、知らない部屋だった。薄暗いその部屋には必要最低限の家具しか置いておらず、そのどれもが年期が入っている。

 そして、ジュスティの目の前にあるベッドに1人の老婆が横たわっていた。目を閉じていた老婆はゆっくりと目を開きジュスティの姿をその目に捕らえたようだった。

 彼女は皺が刻まれ、骨と皮ばかりになった手をジュスティに向かって差し出し、何か言葉を紡ぐ。しかし、その言葉はジュスティには届かなかった。




 朝起きたジュスティは真っ先にロプに夢の内容を伝えた。ジュスティの話を聞いたロプは驚いたように目を丸くした。


「この村に、書人がいるということですの?」

「今までの夢を見るタイミングを見ると、恐らく」


 ジュスティの人生を大きく変えるような内容でない限り、予知夢は起きる当日、もしくは前日に見ることが多い。そう考えれば、この村でその予知夢で見たことが起きるのだろう。

 にしても、とロプは額を抑える。

 予知夢の内容を聞いても、特に重要視するべきものではないとロプは思うのだ。ただ老婆が手を伸ばしてくるなんて特に追う必要もない情報だ。

 そんな内容の予知夢を見たのは、昨日の内にでもジュスティがその夢に出た相手と関わったからであろう。昨日の出来事で関係してきそうなことといえば、イズキという少年だろうか。


「……あの、主?」


 ジュスティがロプに声を掛けるが、ロプは考え込んでしまっており、反応が無かった。

 部屋の掃除も終わってしまったジュスティは仕方なく、ロプを置いて部屋を出て、すぐ隣の部屋の扉を叩いた。少しして扉が開き、ジャンが顔を出した。


「お、おはようジュスティ。1人か?」

「おはようございますジャン殿。今日の予知夢の内容を伝えたら主は考え込んでしまって……」

「1人暇を持て余してたってことか。ラピュも着替え終わってるし、中に入れよ」


 ジャンにそう言われ、ジュスティは遠慮なくジャンとラピュが寝泊まりした部屋にお邪魔した。

 ジャンが使っていたベッドに腰掛け、2人に予知夢の内容を伝える。それを聞いてラピュはジャンを見る。


「ジャン、イズキのこと気になる」

「え、まだあの男に話がしたいのか?」

「……話で聞いただけだけど、老婆がイズキと関係ある、気がする。死の臭いが気になる」


 ラピュの言葉にジャンは複雑そうに顔を歪ませ、ジュスティに視線を向ける。


「ジュスティはどう思うよ? その老婆とイズキって奴のこと」


 ジャンの問いにジュスティは少し考えてから口を開いた。


「小生が夢に見るってことは、その老婆と自分達が関係することがあるってことなんです。関係があるなら調べたいと、小生は思います」

「んー」


 ジュスティの意見を聞いたジャンは腕を組み考え込む。しばらく唸ってから下がっていた顔を上げた。


「わかった。2人が気になるならもう一度イズキに会ってみよう。俺としてはラピュに男を近づかせたくないが、これで止めたらラピュに嫌われそうだしな」


 ジャンの言葉を聞いてすぐにラピュは立ち上がった。


「じゃあ、すぐ行く」

「いや、待ってくださいラピュさん。主にも声をかけないと」


 そう言ってジュスティも立ち上がり、善は急げとジュスティとラピュが寝泊まりした部屋に戻ると考え事が終わったらしいロプが本を読んでいた。ジュスティが入ってくるとロプは本から顔を上げる。


「ジュスティ、隣の部屋に行っていたのですの?」

「はい。それで、3人で話し合ったんですけど、イズキさんにもう一度会おうということにもなりました」


 ジュスティの言葉にロプは不機嫌そうに眉を寄せた。


「僕なしで決めてしまったの?」

「すみません。でも主もわかってくれると思いまして」


 ジュスティの言葉にロプはため息を吐き、読んでいた本を閉じた。


「わかりましたわ。僕も気にはなりますし、それに乗りましょう」

「え、いいのですか?」

「昨日の様子を見るに、貴方がたに任せるのは心配ですからね」


 本を鞄にしまい、立ち上がったロプは嬉しそうに笑うジュスティに気付き、首を傾げた。


「何故そんなに嬉しそうなんですの?」

「いや、主はなんだかんだ小生たちのお願いを聞いてくれるなと思いまして」


 ジュスティの言葉にロプはしばらく黙り込み、それからジュスティの足を思いっきり踏んだ。


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