本物の世界
目に留めていただき有難うございます。
これは作者が
「もしもこっちの世界が鏡の世界で、本当はあっちが本物の世界だったらどうしよう。」
と思って考えた作品です。
短いのですぐ読めますので隙間時間に読んでみてください。
私はにっと笑う。
そうすると、姿見の中の自分もにっと笑う。
自分は、自分。
そう自分に言い聞かせる。
私はこの春に入学した中学校でいじめを受けていた。
そんな時に、作り出したのが鏡の中の自分の「ゆきちゃん」。
霙と雪は似ているから。
いじめを受けているのは鏡の中のゆきちゃんで、私は普通の暮らしをしていると、自分に思わせる。
そうすることで気持ちが少し楽になった。
私は鏡に触れる。
その途端すうっと手が鏡の中に入った。
「⁉︎」
鏡を見るとそこだけ切り取った湖を持ってきたみたいに表面が揺れてる。
私は恐る恐る鏡の中に体を入れた。
白く眩しい光で思わず目を細める。
光が収まると私の部屋にいた。
いや、正確には私の部屋ではない。
なぜなら、
「みぞれちゃん?」
そこにはゆきちゃんがいたからだ。
「ねえ。ここって鏡の中の世界?」
私が聞くとゆきちゃんがにっと笑った。
「みぞれちゃんにとっては鏡の世界。私にとっては本物の世界。」
どきん。と心臓が跳ねる。
ワタシニトッテハホンモノノセカイ?
この日から私はゆきちゃんの世界に遊びに行くようになった。
ある日。
俺、みぞれの兄のヒョウはみぞれがどこかに遊びに行ったことに気づいた。
玄関を確認する。
靴がある。
「みぞれ?」
もしかして…と、俺は思う。
それは2年前。
俺はいじめを受けていた。
そんな時に、作り出したのが鏡の中の自分の「あられ」。
雹と霰は似ているから。
いじめを受けているのは鏡の中のあられで、俺は普通の暮らしをしていると、自分に思わせる。
そうすることで気持ちが少し楽になった。
ある日、鏡が水面のようになり、あられの世界へ遊びに行けるようになった。
あられはこっちの世界に来られない。
と、聞いて首をかしげた。
あられと遊んでいるうちに俺は気づいた。
もしかして、俺がいる世界が鏡の中の世界で本当はあられのいる世界が本当の世界なんじゃないかと。
その途端背筋が寒くなった。
その日に、あられのところからから帰って来た時に俺の腕は少し透けていた。
俺は考えた。
そして、結論を出した。
多分に、あっちの世界が本当の世界で、こっちが鏡の世界。
その場合、本物の世界を真似しているこの世界の俺ががあっちの世界に遊びに行くとあられの姿が鏡に映らなくなる。
それを繰り返すと本物の世界のあられと鏡の世界の俺の存在が消える。
それからヒョウはもう二度とあられに会いに行くことはなかった。
もしも、みぞれが今2年前の俺みたいになっているのだとしたら、助けなければいけない。
存在が消えないように。
次の日。
俺はみぞれの部屋に入った。
私が鏡の中に体を入れようとした時に、
「みぞれ。」
と、いうヒョウくんの静かな声がした。
「何?」
と、聞き返す。
「その鏡の中に入るな!実は。」
そこでヒョウくんが言葉を切った。
「こっちが鏡の世界で本当は鏡の中の世界が本物の世界なんだ!」
ああ。と、私は思う。
ずっと分からなかったのはこれなんだ。
でも、
「私は鏡の中の人として本物の世界を真似するだけの人生を送るにはやだよ。私は自分の意思で自由な人生を送りたい。」
私はそう宣言する。
「お前の体、透けてるだろ。」
ビクン、と、私は反応する。
「すごい透けてるぞ!きっと次入ったら消えてしまう。」
お前には、とヒョウくんは続ける。
「消えてほしくないんだよ。存在ごと消えちゃうなんて絶対に嫌だ!兄として許せない。」
今、鏡の世界に入らなければヒョウくんを悲しませずにいられる。
でも、きっとそれからも鏡の世界に入ることはなくて自由な人生を送ることはないんだろう。
でも、今鏡の世界に入れば…。
頭の中にヒソヒソと悪口をいう声が響く。
頭がガンガンと痛くなる。
私の存在が消えれば…。
「ごめんっ。」
私は鏡の中に飛び込む。
「みぞれ!」
と、俺は手を伸ばす。
間に合わなかった。
みぞれが行ってしまった。
鏡を見る。
まだ海面のように揺れている鏡の奥で似てる少女が二人、抱き合っているのが見えた。
読んでくれて有難うございました。
チミーは何作か作品を作っていますので是非読んでみてくださいね。
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