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なんでもいいけど、実家の連中なんとかしてくれません?-虐げられたお姫様、宗主国の皇帝陛下に拾われたついでに復讐する-

作者: 下菊みこと

「お前」


「はい、皇帝陛下」


「俺と一緒に来ないか」


「…はい?」


この瞬間、エルネスティーヌ・ブランシュ姫君五歳はオーレリアン・アルバン皇帝陛下十八歳の第一夫人…アルバン皇国の皇后となることが決まった。


「…夢みたい」


エルネスティーヌはオーレリアンに連れられてブランシュ王国を出発した。オーレリアンが皇帝として君臨するアルバン皇国は、エルネスティーヌの生まれ育ったブランシュ王国の宗主国だ。エルネスティーヌがオーレリアンに嫁ぐことが決まると、ブランシュ王国は大慌てとなった。なぜなら。


「私を虐げたブランシュ王国が、私より下の立場になる…」


エルネスティーヌは、ブランシュ王国で虐げられて育った。エルネスティーヌは、ブランシュ王国の国王の子供の一人である。しかし、妾の子だったのだ。母を幼いうちに亡くしたエルネスティーヌは、王妃から冷遇され虐げられた。それでも、エルネスティーヌはなんとか生き延びてきた。


「まさか、皇帝陛下が私を見つけてくださるなんて」


エルネスティーヌは皇帝陛下がやってきたこの日、皇帝陛下の目に留まることがないようにと〝秋の森〟の奥に連れていかれて放置された。実質、死んでもいいとされたのだ。なのに、皇帝陛下は秋の森に入ってきた。神託があり、皇后となる人を迎えにきたのだという。


「私が神託の皇后…」


エルネスティーヌには実感がない。が、望みはある。


「復讐…」


自分を虐げたブランシュ王国への復讐だ。


「…でも、何が出来るだろう」


エルネスティーヌは悩む。そんなエルネスティーヌを馬車の中で膝に乗せていたオーレリアンは、エルネスティーヌに言った。


「我が皇后よ。そんなに思い悩んでどうした?」


「…皇帝陛下。なんでもいいけど、実家の連中なんとかしてくれません?」


明け透けなエルネスティーヌの言葉に、オーレリアンは一瞬固まった後大笑いした。


「我が皇后は胆力があるな。復讐したいのか?」


「はい」


「エルネスティーヌ。お前がどんな扱いを受けてきたかは聞いている。全てお前の望むようにしよう。お前は、神託で選ばれた皇后なのだから」


エルネスティーヌは、オーレリアンの耳元でしたいことを全て口にした。













後日、オーレリアンとエルネスティーヌはアルバン皇国に到着した。アルバン皇国では、神託で選ばれた皇后を歓迎する準備が整っていた。しかし骨と皮だけと言っても過言ではないエルネスティーヌに、皆戦慄が走る。次の瞬間には、我が国の皇后をこんな目に遭わせたのは何処のどいつだと怒りに震えた。


「皆、出迎えご苦労。俺は皇后に食事を摂らせる故、もう下がっていい」


オーレリアンはそう言うとさっさとエルネスティーヌを抱き抱え食堂に向かう。エルネスティーヌは改めて、えらいことになったなぁと自分の立場を再認識していた。


「我が皇后よ。あーん…美味いか?」


「とっても美味しいです」


エルネスティーヌは、オーレリアンに膝抱きにされて手ずから食事を与えられている。もはやこの状況に疑問も持たない。ブランシュ王国を出発してから、食事の時間はずっとこうだから。


「それで、さっそく明日には皇后の望みを叶えようと思う」


「お父様とお義母様ですか?」


「ああ。二人を拷問にかけるよう通知した。明日には魔法でその映像が見られるぞ」


「よかった」


エルネスティーヌはほっと息を吐く。オーレリアンはそんな歳の離れた妻エルネスティーヌを守らねばと決意を新たにした。

















「皇帝陛下、皇后陛下に申し上げます」


「なんだ」


「ブランシュ王国で、国王と王妃への拷問が始まりました」


「見せて」


「かしこまりました」


エルネスティーヌが見せてといえば、侍従は魔法で映像を流した。


「まずは、皇后陛下が飲まされたという雑巾の絞り汁」


「うぇ、おぇええええええ!」


「次は、皇后陛下が食べさせられたゴキブリ。皇后陛下が食べさせられたのは死んだものらしいが、お前たちには生きたままのゴキブリを食べさせてやろう」


「うぎゃぁああああっ!」


エルネスティーヌはオーレリアンの膝の上で、冷めた目で映像を見つめた。


「我が皇后よ。溜飲は下がったか?」


「うん。でももっと」


「わかっている」


拷問はさらに続く。


「皇后陛下が受けたという鞭打ち。その背中が赤く爛れるまで続けるからな」


「ひぃいいいいい!痛い、痛い!」


「これが終わったら殴る蹴るの暴行、それも終われば次は針の入った黒パンを食べさせてやろう」


「後は何があったか…」


「バカ、毒入りの紅茶を飲ませるんだろ」


オーレリアンは思う。これだけの仕打ちを毎日のように受けて、エルネスティーヌはよく生きていてくれたものだと。


「…いい気味」


エルネスティーヌは拷問の様子に溜飲を下げた。今まで受けてきた虐待のほんの一部とはいえ、本人達に返すことが出来てすっきりしていた。すると別の侍従が走ってやってきた。


「皇帝陛下!さっそく神の奇跡が降り注ぎました!寒波の影響で育ちの悪かった北部の畑の食物や家畜達が元気を取り戻しぐんぐんと育っています!」


「さすがは我が皇后。神に愛されているな」


「私のおかげなの?…ですか?」


「そうだ。神託で選ばれた皇后の望みを叶えれば叶えるだけ、国は守護神の奇跡により栄える。本来なら貧しい北の大地に根付くこの国は、そうして大きくなってきたのだ」


エルネスティーヌは不思議な国だなぁとどこか他人事だ。


「さらに、南部の海域では大量の漁獲を得られたそうです!」


「これはめでたい」


「そして、国中の臣民とそのペット達のありとあらゆる怪我と病気、身体の欠損などが治ってきたと報告があります!」


「エルネスティーヌ。お前は本当に幸運の女神だな」


「そう?」


首をかしげる幼妻に、オーレリアンは笑った。


「ここまで凄まじい加護は例を見ない。生まれてきてくれてありがとう、我が皇后よ」


その言葉に、エルネスティーヌは不思議な気持ちになりそのまますやすやと眠ってしまった。


エルネスティーヌが眠っている間に、エルネスティーヌ自身気づいていなかった、愛されたいという強い願望が叶ったことでアルバン皇国は国所有の鉱山から金銀がザクザク出るなどさらに栄える。エルネスティーヌの加護にアルバン皇国の貴族達でさえ恐れ慄いた。


「我が皇后。お前は俺が守るからな」


今まで傷つけられてきた可愛い可愛い皇后のため、オーレリアンはさらにブランシュ王国の国王と王妃を痛めつけたのだが、満足してしまいもう興味がなくなったエルネスティーヌはそれを知らない。


その後エルネスティーヌはオーレリアンから愛されて、臣民の幸せを心から願う優しい皇后となり、臣民達を愛して守っていった。オーレリアンの治世はそんなエルネスティーヌのおかげで、とても臣民達にとって幸せなものとなった。エルネスティーヌは臣民達からも愛されて、幸せな生涯を送った。

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