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ᓚᘏᗢ 猫のみパニック ᗢᘏᓗ

作者: 山目 広介

 猫のみパニック、これは猫だけ(・・)がパニックになった、というわけではない。

 猫ノミ、ネコ(のみ)によってパニックになってしまったという意味だ。





 ◇寂しい


 今年の4月、春になり暖かくなったある日。

 飼い猫の一匹――仮にKとしよう――を深夜うるさいので散歩に連れて行った。

 近所をぶらりとして、猫がついて来るだけのものだ。

 Kちゃんはアスファルトの上でごろんと転がり、背中を擦りつけるようにダンスを踊る。お腹を見せて可愛い。

 少し歩くと付いて来る。そこでしゃがんでKちゃんを撫でる。転がった影響で砂が毛並みに付着しているので、それを払うのが目的だ。

 尻尾をぴんと立てて、喜んでいる。

 春とはいえ、夜中だと肌寒いので、すぐにUターンする。ある程度歩くとKちゃんがこちらを見て座っているので、口笛を吹いて呼び寄せる。とことことやってくるのを待つ。

 それを繰り返し、途中で抱き上げ家へと帰る。



 そんなことをしたせいか、それから何度もせがまれるようになる。

 雨が降っていたり、私が眠かったりしたら行かなかったけど。


 5月になり、本格的に暖かくなるとKちゃんが家の中で寝なくなった。

 いや、ベランダにはいたし、部屋でも寝ていたりもした。正確に言うと私の布団の上で寝なくなった。

 猫が触れる距離にいないと寂しいものだ。

 部屋の見える位置にある、本の山の天辺、頂上でしばらく寝ていた。散歩の要求は続けながら。

 だが6月に入ると本格的に部屋で寝なくなり、ベランダで寝ていた。朝起こしに来たりはしていたんだが。





 ◇虫刺され


 そして問題の7月。

 ふと、腕を掻いた。搔きむしった。腕を見ると虫刺されの痕。その数、50を超える。右腕の前腕だけで、だ。上腕や手の甲も含めたら70に迫る。左腕も20以上、両足もそうだ。


 ヤバい。


 一番に考えられるのはもちろん蚊だ。しかし、6月下旬ごろから某アースノーマットの黒豚が活躍していた。

 だから敷布団のシーツの上をよく見てみた。

 黒い点がある。猫が外と家を出入りしているわけだから砂が布団の周りにあるのが普通だ。

 指を近付ける。

 すると黒い点が消えた!

 最初は嫌厭し、手を引き戻す。

 ノミだ。ネコノミ。

 だが背に腹は代えられないので、潰すことに対する躊躇はすぐさま消えてしまった。


 ピンセットを持ち出す。それも毛抜き用のだ。

 普通のピンセットだとノミを挟んだ時に潰せないのだ。毛抜き用のピンセットだと硬く、挟んで潰すことができる。


 しかし、ノミを挟むのは容易ではない。

 まずそのジャンプ力。一瞬で視界から消える。だがノミはジャンプはすごいが着地が出来ない。連続で跳ぶには僅かに時間が必要だ。しかしランダムワープの如きジャンプは捕捉も難しい。少し引いて視界を広く取り、着地後に指で押さえる。言うは易し、行うは難し。


 そして、そのまま離すとまた逃げられる。これで何度逃げられたことか。

 指ではノミを潰せない。でも弱らせることは可能。ぐりぐりと圧迫することで即座にジャンプが出来ない状態にし、ピンセットで挟んで潰す時間を作る。

 もしくは、指で捕まえた後、指を少しづつずらして黒い影が見えたらピンセットで摘まむ。そして畳や布団に押し付けて潰す。血を吸っていると布団に血が付いちゃうのが欠点だ。他にも小さいのだと潰しきれない可能性がある。止めが必要ということだ。

 他にもガムテープなど粘着質のものに押し付け、拘束してから潰す。


 何故こんなに殺意が高いのか。

 それは痒いからだ。めっちゃかゆい。

 特にぶり返しだ。なかなかかゆみが収まらないのだ。蚊なら一度忘れてしばらく放置すればかゆみが収まっているし、痕もすぐに消える。

 だがノミに刺された痕は長期に亘り残り続ける。かゆみも何度でも復活する。

 だからだ。





 ◇ノミの姿


 皆さんはノミの姿を見たことがあるだろうか?


 それはどんな姿だろうか。

 あるとしたら、それは横からではないだろうか。

 ノミは昆虫の一種らしい。

 普通の昆虫は背中から左右対称にした姿で図鑑やら標本やらで映っている。

 しかしノミは横向き。

 何故だろうか?


 これに似たもので魚の図鑑なども横向きが多い。

 たぶんこれは同じ理由だろう。

 正面から見ると縦に扁平なんだ。


 哺乳動物は獣、ケモノだ。毛むくじゃら。その毛の中を素早く移動するために身体が薄くなっているのだろう。魚が水の中を泳ぐのに水の抵抗を減らすため、その体が流線形なのと一緒だ。

 なので素手で潰す場合は爪の甲同士で合わせる必要がある。ある程度硬くて隙間を作らせない様にしないと逃げられてしまう。





 ◇実験


 部屋のノミを確認した私は次は猫を見る。Kちゃん、その親の猫――仮にTちゃん、もしくはウシさん――、もう一匹のBちゃん、の三匹がうちにはいた。

 KちゃんとTちゃんは外によく行くので、身体の毛を掻い潜り捜索すると、かなりいた。


 しかし家族が6月にノミを退治する薬をやったという。

 今回だけ使い方が悪かったのだろうか。

 それとも今まで十ン年効果があったのになくなったのだろうか?

 とりあえず薬――某フロントライン――を購入し、Kちゃんに使用。

 Tちゃんはとりあえず保留した。理由は外出頻度と対照実験のため。

 対照実験とは薬がちゃんと効果があるのかを確認するという意味。

 去年――2021年――までは効果があったはずなのに今年になって効かない、ということがよく分からないからだ。


 薬が効くのかどうか。これは実験する必要がある。

 程度の問題であったとしても、だ。

 それがどの程度効くのか、も重要だからだ。





 ◇湯あたり


 薬を使って数日。

 猫を洗う。即日だと薬も洗い流してしまうことになりかねないからだ。

 久しぶりに猫を洗う。

 私が実家に居なかった間、帰ってきてからも洗っているのを見たことがなかった。

 案の定、猫を洗っていなかったらしい。私も気付いていなかった。昔は洗ってたのにな。


 風呂桶が小さいのしかなく、仕方なく、浴槽に猫と入る。

 お湯をかけ、暴れるのを左手で両前足を掴み押さえた。

 お湯が溜まって浸かるぐらいになると少し落ち着いてくる。

 Kちゃんは長毛種だから抜け毛が多い。

 シャンプーを手に付け、泡立てる。

 背中に塗り付ける様にして洗っていく。尻尾を扱き、足を揉み、お腹を擦る。


 思ったより汚れが酷かったから、もう一度洗う。

 一度暴れられて逃げられそうになった。が浴槽が深いものだから即座に対応できた。


 ここで誤算があった。

 家族が猫を引き取りに来たのだが、風呂の出口でノミを取り始めたのだ。

 ノミがお湯に慌てたのか、うじゃうじゃ湧いてきたのを見かねたらしい。

 私が出られなくなって、ついでに猫の腕を掴まえている役をすることになった。


 そして今年の7月初めは暑かった。なので、のぼせた。

 風呂から上がってからもノミ捕り。150は捕っただろうか。風呂でもかなり捕っていたはず。





 ◇薬効


 次のTちゃん。

 のぼせたので翌日になった。

 洗っているとお湯のせいでTちゃんが暑くて舌を出してはぁはぁ言い始めたので水に切り替えたりした。

 

 こちらもかなりの数がいた。200は捕った。風呂入れる前にも家族が70は捕っていたみたいだ。

 Kちゃんを風呂に入れるまでの四日で一気に増えたという証言がある。最初は同数程度だったらしい。

 Kちゃんが少なめだったのは薬の効果だろうか。



 すぐにまた風呂に入れるつもりだったのだが、時間が取れず、2週間以上経ってから再度猫を洗う。

 風呂桶の大きいのを購入したから浴槽じゃなくなる。

 椅子も使えて洗いやすくなった。

 だが両方にまだノミがいた。

 卵が孵ったりして増えたのか、はたまた外で拾ってきたのか。




 8月に入り、薬を今度は二匹ともに使用し、風呂に入れる。

 Tちゃんの方、間隔が薬を使用してから以前よりも早い段階で入れたからだろうか、ノミが5匹ほどとほとんど捕れなかった。

 薬が一応効果あったのだろうか。

 しかし以前ほどの効果は見込めない。


 そして、Kちゃんはちょっと時間を置いたからか、そこそこ数がいた。





 ◇忘却


 その後、ちょっとトラブルがあり、猫を洗う余裕がなく、9月になる。

 このトラブルの影響でBちゃんもベランダに出るようになったので、一緒に洗うことにした。というか普通にノミが猫のお腹を走っていた。

 Bちゃんはデブいので力がある。

 しかも信頼関係もないからか、暴れる暴れる。

 洗うだけで疲労困憊だ。


 Kちゃんも洗う。


 ここでTちゃんを洗い忘れた可能性がある。

 トラブルの影響だ。




 しかし9月の下旬。台風一過で気温が急激に下がった影響か、ノミによる虫刺されに悩まされることがなくなった。

 だからだろうか。私はノミがいなくなったのかな、なんて勘違いしていた。





 ◇まだ、いる。


 10月。部屋でノミを発見した。そして猫の体も見たら、その身体にもいた。

 寒くなって人には刺さなくなったけど、猫の体にいたら暖かいしエサは足元だ。ノミはまだ活動出来ているようだった。

 ヤバい。

 すぐ洗おう。猫どもの体からノミを追い出そう。

 ということで、K、B、T。三匹一日づつ洗う。




 ノミの撃墜数。


 Kちゃん、70ぐらい。

 Bちゃん、100足らずぐらい。

 Tちゃん、250越え……!?


 途中で数を減らさなかった影響だろう。たぶん。

 しかもかなりデカいノミが多かった。

 前回トラブルでTちゃんを洗うの忘れたんじゃないだろうか、とこのとき思いました。





 ◇パンデミック


 寒くなって来て、猫を洗うと猫がブルブル震えてしまう。

 ドライヤーで乾かすと、ノミが濡れて身動きできない状態から脱してしまうために使えない。

 濡れていると捕まえやすいのだ。


 だからと言って、暖房つけると私たちが困ってしまう。此間は額から汗が滴り落ちていたぐらいだからだ。


 今日も猫の腹にノミがいたが、捕まえられなかった。

 お腹はぶよぶよとしてなかなか捉えられないのだ。だからこそ風呂に入れるのだ。濡れた状態で拘束されたノミを捕まえやすいように。




 もしかしたら、うちの近所では某フロントラインの薬効が効かない、耐性のあるノミが増えているのだろうか。

 これがもし全国に拡がったら……。



 ノミに刺されたことがなく、薬以外の対策が分からない人の飼っているペットにそのノミが付いたら。


 またそのノミに変な感染症まで持ってしまったら。

 ペスト菌はネズミにつくノミが原因で拡がったらしい。ノミを媒介する病気などに現在私は感染していない。

 だが、これからもそうだとは言えない。




 近い将来、ノミを媒介する感染症などが世界に拡がったら、関係ないのだけど、私の責任にされそうで怖い。

 それよりその感染症に罹るのが先だろうか。




 今のうちに私の家の近所のノミを殲滅した方が良い気がする。

【ノミ退治のための道具】

◇毛抜き用ピンセット

◆ガムテープ

◇ノミ捕り用の櫛(使ったことないけど家族の知り合いが梳くってはプチっとしていたらしい)





11月を最後に猫は洗っていない。

Tちゃんが風邪を引き、Bちゃんも感染し、取りやめた。Bちゃんの方は酷くて、激痩せしてしまった。

年も変わろうとしているのに、未だにノミが猫の身体に居る。

活動自体は低下しているようだが……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 私の家も同様に、2021年までは大丈夫だったのに 2022年 猫のフロントラインが効かずノミが大発生しました。 それまでは年に1・2回最もノミが増える時期のみ使用していればほぼ問題なかった…
[良い点] ぎゃああああああ! せなかがぞわぞわ致しました……!!
[良い点] 赤裸々にノミとの戦いを公開してくださってぎゃー!となりつつも解決に向けて我が家でも戦った日々を思い出しました [一言] 我が家でもノミが発生した時は大変な目に遭いました 心中お察しします …
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