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ホスト王子 悪役令嬢溺愛中のため ヒロイン達と戦います  作者: 白まゆら


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命は大事にしましょうね

 目が覚めたクラリスの証言から、全てが判明した。

 主犯はクラリスの義父、レイ子爵。

 レイ子爵はまさに小悪党といった言葉が似合う男である。世間体をとても気にするため、裏では小金を稼ぐために脱税や詐欺まがいの事を繰り返していたが、表では優しい領主様と民には思わせるため、慈善活動にも熱心なフリをしていた。

 その日も表の顔を取り繕うために、たまたま自分の領地にある孤児院に訪問に行った。そこで目にしたのは立派に耕された畑。

 この枯れた土地に作物が実るとは。興味を惹かれたレイ子爵は、馬車から降りて自分の足で畑に近寄ってみた。そこで見慣れない葉を目にする。ただの葉っぱだと思いながらも、何故か気になる。自分はこういう勘は働くのだ。これは金になる葉なのだと。

 数枚千切り、家に帰って部下に調べさせた。そうして分かった事は、これには幻覚作用引き起こす成分があるとの事。

 レイ子爵は早速試しで、その葉の使用方法を模索させた。どのような状況で使用すれば、どのような効果が得られるのか? 金にするにはどのようにすればいいのかをだ。

 分かった事は少量ならば高揚感を与えるという事。やる気をおこさせ、疲れ知らずになる。だが、依存性が高く限度を超えると脳に異常がみられるようになる。そうして、下手をすれば命にかかわる場合も。

 だが、そんな事は服用する本人の問題だ。

 ただでさえ人は甘い誘惑には弱い生き物。疲れを忘れ、快楽に酔いしれる。そんな薬は多量に服用すれば害になると知っていても、やめる事はできない。

 売れる薬。儲かる葉。

 レイ子爵は薬の開発と同時に、この葉を栽培した少女の話を耳にする。孤児の少女は、どうやら豊富な知識を持っているようだ。利用できる。もしこれ以上に何もできなくとも、いざとなれば彼女が栽培したという事実だけでも、彼女に責任を押し付ける事ができる。

 そう考えた子爵は、すぐに彼女を養女として迎えた。

 すぐに大量生産へと進む。だが公にはできない商品だ。どこか安全な場所で、人目に触れずひっそりと作るには……。

 原材料の葉は、そのまま孤児院で作らせる事にした。少しでも彼女とのかかわりを持たせておくために。そうして商品化は貧民街で。どちらも余程のもの好きでない限り、一般の人間は滅多に立ち寄らない場所だ。バレるはずはない。

 薬が軌道に乗った頃、不満が一つ出てきた。豊富な知識を持つはずの養女は懸念した通りなんの役にも立たない。その可能性はあると思っていたが、まさかこれほど協力しないとは。孤児院では自慢げに話していた内容の一つも屋敷では語らないのだ。そしてお強請りだけは一人前にしてくる。貴族の娘になったのだからと、自分を着飾り最低限の教育を強請る。

 それでも立派な淑女となるよう努力するのならば顔も充分に可愛いらしいし、もしかしたら高位貴族の令息に見初めてもらえるかもしれないと思い許可もしたが、最低限の振る舞いを身につけたところでやめてしまった。自分には必要ないとそっぽを向くのだ。

 知識を引きずり出そうにも何やらブツブツと行っては、勝手気ままに動いている。孤児のクセにと憤懣やるかたないが仕方がない。当初の予定通りいざとなった時には捨て駒になってもらう。それまでは貴族の生活を満喫して自由気ままにやればいいさ。と思ったのが仇となった。

 なんと彼女は、この国の第一王子であるハリオス様の婚約者を攫ったのだ。

 しかも婚約者を攫う際に、貧民街を利用したのだという。なんて事をしてくれるのだ。婚約者の事件は公にはされなかったが、水面下で騎士が動いているのは分かった。

 薬の製作所が見つかるのも時間の問題か。

 養女の犯罪にどう責任を取るか。義父として、また貴族の家長としての考えを述べよと呼び出されたが……それだけだろうか? 次第に不安は募る。

 こうなればあの場所を捨てるしかない。全てが明るみになる前に。

 だが、先にあの娘を処分しなければ。

 彼女はあの薬の存在を知っている。知っていて何も言わないのだ。多分切り札になるとでも思っているのだろう。私が彼女を切り捨てたのがバレたらどうなる? 好きにしてくれと処罰を国に任せた事が娘の耳に伝わったら……考えるまでもない。当然彼女は私を売るだろう。薬の存在を明らかにして。

 そんな事させるものか!

 貧民街で知り合った者に、暗殺者を紹介してもらった。その者の腕は確かで、城の中にも極秘のルートを確保しているという。

 数日後には彼女の処分が決まる。最早一刻の猶予もない。レイ子爵は決行に及んだ。

 暗殺者に彼女を殺すよう依頼したのだ。


 確かに凄腕の暗殺者だった。

 あっさりと城内の潜入を果たしたかと思うと、今回の事件の罪人である者の場所へとたどり着いた。だが、彼も完璧ではなかった。下調べをする時間がなかったのだ。彼が潜入したのはもう一人の事件の犯人、イルミス・アロウェンの元だった。

 失敗したと舌打ちするが、イルミスを見ていて思う。こいつを暴れさせておけば話は早いかもしれないと。

 暗殺者は倒れている護衛を踏みつけるとイルミスのそばへと行った。

「これ飲んで、良い夢見ながらあの世へ逝きな。どうせこの世に未練はないだろう」

 そうして小瓶をあけると、イルミスの喉へと流し込んだ。

 ゴクリと大きな音を立てて飲み込んだイルミスの目には、最早なんの景色も映されていなかった。

 ふらりふらりと廊下を歩きだすイルミス。

 その隙に暗殺者はクラリスの元へと進む。騎士の目は奴に向くだろうと。

 ……誤算だった。何故かイルミスはフラフラと動いた挙句、クラリスの元へと来てしまった。

 これはどういう偶然なのだろうか? イルミスに邪魔をされるかと勘ぐった暗殺者だったが、彼には薬がしっかりと効いていた。クラリスに逃げられる寸前だったので、結果的にはイルミスが娘を刺したのは、暗殺者にとって嬉しい誤算となった。

 暗殺者は、仕事は終わったと混乱に生じてそのまま姿を消した。

 残されたのは刺されたクラリスと、暴れまわった全ての犯人だと思われたイルミス。

 だが、イルミスは何故か薬の小瓶を持っていた。

 その小瓶が、レイ子爵の存在を明るみにした。

 どうやらそれは暗殺者が薬を飲ませようとイルミスに近寄った際に、暴れたイルミスにより放り出された薬だったようで、イルミスはフラフラと歩く中、また自分の監禁されていた部屋に戻ったようだった。

 その際に果物ナイフ二本を手にし、近くにあったこの薬の小瓶までポケットに入れたようだ。



 クラリスは朦朧とした意識の中で、はっきりとレイ子爵の罪を口にした。自分はイルミスに刺されたが、黒幕は暗殺者を雇ったレイ子爵だと、暗殺者本人から聞いたのだから間違いはないとハッキリと言い切ったのだ。

 そして貧民街の件もその暗殺者もまた他国の薬に関わっている者だとも、自分の知る限りの情報を洗いざらい話したのだ。己の保身のためだけに。

 流石自分勝手なお姫様。逞しい。と言ったのは、聞き込みをしていたマーロン。ソラもここまでくれば天晴れだと、どこかスッキリとした表情で語っていた。

 ただ一人、浮かない顔をしていたのはハリー。

 暗殺者が簡単に出入りできる城の警備体制にかなりの不安を感じているらしい。

「ユリアがいる城でこんな警備体制じゃあ、不安で夜もおちおち眠れない。一緒の部屋で休もうか、ユリア?」

「自然に自分の部屋に囲い込もうとしないで、殿下。前にも言ったけど、俺は結界をはれるようになったんだ。話を聞いてすぐに城中に張っておいたから、もう同じような事は起きないよ」

 心配そうにそっと私の肩を抱くハリーに、ソラがお菓子を頬張りながら言う。

 無言のままチッと舌打ちをするハリー。

「……余計な事を」

「何か言った、殿下?」

「ソラハタヨリニナルナア」

「わあ、気持ちの一欠けらもないような誉め言葉、初めて聞いた」

 そう言いながらも楽しそうなハリーとソラ。やはり幼馴染だ。私はそんな二人を眺めながらマーロンにチラリと視線を向ける。クラリスはどうなるのかと。

 二人のやり取りを呆れながらも聞いていたマーロンは、私のそんな様子に気付き話の続きをしようとハリーを促す。

 ハリーはコクリと頷くと、改めて皆の顔を見回す。

「一応、今回の件はクラリスも被害者ではあるし、刺された傷は右足に後遺症を残すかもしれない。レイ子爵の悪事の証拠も証言も全て彼女のお蔭で集める事ができた。それによって薬の製作所は壊滅できたし、暗殺者も他国の薬に関係した者達と共に捕まえる事ができた。よくクラリスが他国、ナシア国の者特有のなまりに暗殺者の言葉から気付いたものだ。貧民街でなんとなく耳にしていたから覚えていたと言ってはいるが、それにしたってたいしたものだ。それをヒントにこちらの国で暗躍していた者達のアジトを見つける事ができ、一網打尽で捕まえる事ができたのだからな」

 そう、クラリスは他国の者と言った暗殺者の国を正確に指摘する事ができたのだ。それにより貧民街でナシア国の者達がアジトにしている場所を探し当て、後は一斉に検挙したのだ。クラリスが栽培したという葉を使った薬物は、液体に精製できたばかりでちょうど本国に流す手前だったらしい。未然に防げたという事だ。後はレイ子爵が街に売りさばいた薬が残されているかもしれないが、製作所がなくなり葉の栽培も禁止となった。いずれ全てがなくなるだろう。

「まあ、そう言う事で彼女には温情を与えようかと思うのだが、どうだろう?」

 そう言ったハリーは、私達が頷くのを承知の上で話しているのだろう。ニヤニヤと笑っている。私はその顔が癪に障ったので、ハリーの高い鼻をムニッと摘まんでやった。ちょっと痛がっている。ごめんなさい。

「本来なら彼女は国外追放だが、カノン・グーラス男爵令嬢と同じ修道院に入れるというのはどうだろうか? つまり国の監視下の元、衣食住は保証されるという事だ」

 私とソラは共に頷く。

「ありがとう、殿下。どうせ玲ちゃんの事だから俺の事を恨みながら生きていくんだろうけど、その中で少しでも前向きに考えられるような楽しい事があってくれたらいいと思う。まあ、無理かな?」

 ハハハと笑うソラの手を、私は握る。大丈夫だよ、ソラ。彼女は逞しいから、どんな状況でもちゃんと自分の楽しみを見つけて生きていけると思う。

 私は願う。ソラの思いがクラリスに届きますように。

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