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ホスト王子 悪役令嬢溺愛中のため ヒロイン達と戦います  作者: 白まゆら


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謎の液体って

 どれくらい時間が経ったのだろうか? コンコンというノックと共にハリーとマーロンが入って来た。

「母さんから聞いた。状況を知りたいって。他の奴の口から噂話を聞くよりも、俺達から真実を聞いた方がいいと思って、顔を出した」

 そう言ってソファに座ろうとするマーロンをよそにハリーは壁の方に歩いて行き、白い高そうな重量感のある棚をズズズッとずらし始めた。

 ……………………。

 うん、その棚の後ろって、もしかしてハリーの部屋につながっていると言われていた扉がある所なのかな? ジョアンナさんがすぐに指示して、兵士二人で運んでいたもんね。

 あ、扉が見えた。

「これで何かあったらすぐに俺の部屋に来られる。安心だろ、ユリア」

 扉を開けて自分の部屋を指さすハリーは、満面の笑顔だ。

 うん。まあ、いいよ、それで。多分ジョアンナさんがもう一度塞いじゃうと思うから。

 先に座ったマーロンとソラは、呆れた目をしている。

 そうして一人掛けのソファにハリーとマーロンが座る。私とソラが二人掛けのソファに寄り添うように座っているからだ。流石のハリーもこの状態でソラに交代してくれとは言わない。

「結果としては、今はまだクラリスは生きている。ただ数か所刺されているため、この先は分からない。医師に頑張ってもらうほかないな」

 改めて聞かされた言葉に、ソラはヒュッと喉を鳴らす。生きている。生きているけれど、その先は……。

「俺が……俺が、玲ちゃんをここに連れて来たから……俺がイルミスを転生させたから……」

 とうとうソラが俯いてしまった。体が震えている。だけど涙は流していない。一生懸命耐えているのが伝わってくる。

「今更そんな事言っても仕方がないだろう。それよりもソラ、この液体なんだか分かるか?」

 そう言ってマーロンが、胸ポケットからハンカチに包まれた小瓶を出してきた。

 マーロンってば、もう少し言いようがないのかな? ソラの事心配なくせに。私はムッとして守る様にソラを抱きしめる。

 そんな私にソラは苦笑しながら、大丈夫だよと言ってマーロンからその小瓶を受け取る。

 小瓶には透明の液体が入っていた。

「えっと……見ただけじゃ分からないな。開けてもいいか?」

「いいけど口にはしない方がいい。イルミスが持っていたものだが、もしかしたらあの異常な様子はそれが影響しているのかもしれないと思ってな。違法な薬物の類とか」

 私とソラは吃驚して、パッとその小瓶を見つめる。

「この世界にも、そんな物あったの?」

「そりゃあね。この国ではかなり厳しく取り締まってはいるけれど、どうしたって抜け道はある。人身売買でイルミスが他国の者と繋がりを持っていたのと同じようにな。貴族の中にもそれを手にする者は少なからずいる」

 私はビクッと体を揺らす。そうだ、イルミスは私を他国に売ろうとしていた。伯爵令息であるイルミスにそんな伝手があるのなら、薬物だって手にする事はできるはず。

「ただ問題は、こんなにも無味無臭の透明な液体が存在していた事なんだ。今までの薬物なら少なからず違和感は生じていたはず。微かに異臭がするとか舐めたら苦いだとか。だがこれには全く何もない。水だと言われたら納得するしかないほどに。確かめるにしても、証拠はこれだけだ。飲んで実験する訳にもいかないしな」

 ソラは小瓶をあけて匂いを嗅いでみる。確かに無臭のようだ。見た目も水にしか見えない。けれど、もしこれがハリー達の言う通り薬物の類で幻覚を引き起こしたり、体をボロボロにしていくような物ならば大変な事になる。そしてそれが既に街に出回っていたならば……。

 そう考えてゾッとした。

「玲ちゃんかイルミス、どちらか一人でも話を聞く事は……できないだろうね」

 ソラがマーロンに確認するが、首をすくめられてしまった。そうだよねというようにソラも溜息を吐く。クラリスはもちろんの事、イルミスもまだ話ができる状態ではないのだろう。

「今のところ、街に出回っているというような報告は受けていない。急がないから調べてみてくれないか、ソラ」

 ハリーの言葉にそれまで深刻な顔をしていたソラは、ふと顔を上げてハリーを見つめる。

「いいよ、別に。ただ……もしかして殿下、俺が玲ちゃんの具合を気に病むと思って、気を逸らせるために仕事を与えたとかじゃないよね?」

「………………マサカ。ソンナ事ナイヨ」

「「「……………………」」」

 ニコリと微笑むハリーの胡散臭い笑顔に、ソラをはじめ私もマーロンも胡乱な目をハリーに向けた。

「間があり過ぎ。分かった。殿下の優しさに気付かないフリしてあげる。例えそれが薬剤師が解明できる仕事であっても、呪術師の俺が調べてあげる」

 そう言ってソラはニヤリと笑う。ちょっとバツが悪そうな顔をするハリー。うん、そういうところ、そういうところが……。

「好きだよ、ハリー」

 私がニコリと微笑むと「突然どうしたの、ユリア?」「姫さん、やばい」とソラとマーロンが引き気味に言う。失礼だな。

 ただ一人、言われたハリーははじめキョトンとした表情をしていたが、その後ニッコリと微笑むと「後で部屋においでね」と言ってきたので「ジョアンナさんの許可がおりたらね」と言っておく。

 目に見えて顔を引きつらせるハリーに、私はもう一度にニッコリと微笑んだ。



 イタイ、イタイ、イタイ、イタイ……クルシイ。

 どうして私はこんな所で、あんな奴に刺されないといけないの?


 空ちゃんはやっぱり王子のそばにいて、やっと会いに来たと思ったのに私より綺麗な服を着て男に守られていた。

 ありえない、許せない、空ちゃんのクセに。ソラのクセに。

 転校してきた空は、真っ黒な長い髪が暗い印象で、地味な服に身を包んでいた。完全に私の引き立て役。オセロのようだと評した男の子もいた。真っ白で明るく可愛い私に真っ黒で暗いブス。それが空。

 再会してもそれは変わらず、黒いローブに身を隠したソラを私は以前と同じように利用できると思った。それなのに次に現れた姿は……私を馬鹿にしているのか。

 ヒステリックに暴れてしまった私には、裁きを待つ時間しか残されていなかった。こんな事なら元の世界に帰りたい。こんな所で罰せられるのは絶対に嫌。

 項垂れていた私は、目の前に兵士が一人立っている事にやっと気付いた。

 初めて見る顔だ。けれどそんなのはどうでもいい。

「じろじろ見るな。なんか用? まさか私を助けてくれるわけじゃないでしょう?」

 そう言って皮肉な笑みを向けてやると、コトリと机の上に何かが置かれた。それはガラスの小瓶に入った透明の液体だった。なんだこれはと私は首を傾げる。

「お前の養父からの最後のプレゼントだ。これを飲んで安らかに眠れだとさ」

 私はヒッと体を跳ねさせる。

 まさか毒? レイ子爵が作っていたのは孤児院で栽培させていた大麻に似た葉、幻覚作用を引き起こす薬だったはず。あれは葉を細かく砕いていただけ。こんな液体ではなかったはずだ。それではこれは、私を殺すために用意した毒薬。

「い。いやっ」

 私はガタッと椅子を引き、体を後退させる。それ以上は動く事ができない。椅子に繋がれた縄が足の自由を許さない。

「なに、いい夢を見るだけだ。警戒する事はない」

「するわよ! それは毒薬なんでしょう? 私を殺すつもりなのね」

「お前が栽培した草から抽出した薬だぞ。どうせなら自分自身で試させてやろうと思ってな」

 私は大きく目を見開く。

「嘘よ! 私が作ったのは幻覚を見せるだけのものよ。直ぐに死んでしまうような代物じゃないわ。そりゃあ多用すれば体を蝕んでしまうかもしれないけれど、即効性なんてないはずだわ。そもそもそんな液体化なんてしてなかったじゃない。葉を乾燥させただけのもののはず……」

「ほう。やはりお前は知っていたのか。子爵の懸念していた通りだったようだな」

「!」

 私の言葉を聞いて、男が口角を上げる。しまったと口を押さえるがもう遅い。子爵の裏の顔を知っていた事がバレてしまった。

「俺は子爵に雇われた殺し屋だが、本当は他国の者だ。お前の言う通り、子爵はあの葉をそのまま乾燥させて売っていたが、我が国の者はそれを抽出して液体化させた。すると、どうだ。あの葉は今までにない効果を発揮させた。全く水と変わらない無味無臭の薬、他の飲み物に混ぜても確実にバレない毒薬が完成したのだ」

 男はそう言って私の顔を覗き込む。口角は上がっているが、全く笑っていない目がとても気持ち悪い。「他の薬とは段違いなほどの即効性。精神は乱すがその反面、体を活性化させ死ぬまで動き続ける。普通に殺すよりも面白い」

 ガタガタと震える体。この男は人を殺す事をなんとも思っていないプロだ。

「お前も興味があるだろう。自分自身で体験してみればいい。この一本分ならば捉われた思想に身を包み、悦楽のままに行動できる。お前は確か王子が好きだったのだな。それでこの様な場所に縛られている。ならばその思いのまま王子の元へ行けばいい。ほら、口をあけろ」

 そう言って私に大きな手を差し出してくる。恐怖で目の前が真っ暗になる。

「いやあ、助けて。誰が助けて!」

 不意に私が席を立ち暴れ出したので、男も驚いたのか私を押さえつけようと私にとびかかる。その拍子に机と椅子が倒れた。

 凄い音がして、男の足元に転がる机。男はその衝撃に、足を取られる。

 私はチャンスとばかりに足首に縛られたままの椅子を引きずり、扉を勢いよく開けた。そこには何故かイルミスがいて、濁った瞳で私を見つめていた。

「お前が……お前が、僕を誘わなければこんな事には……。どうしてくれる? これで僕は運命の相手である王子様と引き離されてしまった。全部お前の所為だ!」

 そう言って、振り上げた手にはきらりと光る物があって……。


 目を開くと、私は床に寝そべっていた。起き上がらなければと思うものの、体がいう事をきかない。ゆっくりとだが、動く手で辺りを触る。ぬるりとした温かなものが触れる。嫌な感触だ。そっと手を上に上げると、それは真っ赤に濡れている。血? 私の血?

 そういえば、先程からお腹が痛い。もしかして……私は声にならない悲鳴をあげる。


 これは罰? 空ちゃんが死んでも構わないと、身ぐるみ剥いで置いて行った罰? 孤児院の皆を騙して、作物を作らせた罰? 義父が孤児院を利用して、薬物製造しているのに知らないふりをしていた罰? 王子様に振り向いてもらうため、婚約者を攫った罰? 私は自分の行いを振り返ってみる。

 まさか、そんな些細な事で私は罰せられたの? おかしいわ。私はこの世界のヒロインで、女神様の役目までこなしてあげた聖女なのよ。

 それなのにこんな訳の分からない事に巻き込まれて、死んでしまうの?

 嘘よ、嘘よ、嘘。冗談じゃないわ。私は死なない。死んでたまるものですか!


 ――そうして私は気が付けば、ずっと監禁されていた部屋の寝台に横になっていた。

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