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ホスト王子 悪役令嬢溺愛中のため ヒロイン達と戦います  作者: 白まゆら


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ごめん、反省してます

 ナイフを向けて私に突進してくるイルミスを、私は目を反らさず睨み続ける。そうして微動だにしない私の目の前でイルミスが……吹っ飛んだ。

 あれ?

 ……………………。

 無言の中、ハリーが片足を下ろす。

 イルミスは、というと壁にめり込んでいた。え? 壁?

「ユ・リ・ア」

 血の底から響くような低い音に、私はひぃ~っと震え上がる。

 ズンズンと私に近付いてくる魔王様、いや、ハリー様。壁付近まで後ずさった私に壁ドンをする。ひいぃ~、マジで怖い。

「いい加減にしろはユリアだろ! なんであんな場面でわざわざ出て来た。いや、言わなくても分かる、分かってるけど……」

 最初は険しい顔で私を覗き込んでいたハリーだったが、次第に視線は下へと向けられた。そうして盛大にはあ~っと息を吐いたかと思うと、ぎゅっと私を抱きしめた。

「寿命がいくつあっても足りない。前世の事がフラッシュバックして……本当、勘弁して」

 抱きしめられている私は、やっとそこで気付く。ハリーが震えている事に。

 ああ、そうか。そうだよね。私がハリーを心配したように、ハリーも私を心配しているよね。特に前世の死因が今のような出来事だったし。

 私はハリーの腕の中で、反省する。

「……ごめんなさい。もうやらない」

「信じられない。こんな事二度もおこされて、信じられる奴は馬鹿だろう」

「ううう~、じゃあ、どうしたら許してくれるの?」

 一向に顔を上げてくれないハリーに、私は泣きそうになる。だって、だって、本能でつい動いちゃうんだもん。でもちゃんと反省はしてるよ。本当に。

「ソラ、動けるか?」

 ハリーは、扉の付近で固まるソラに声をかける。私が飛び出したのを心配して廊下まで出てきてくれたけど、緊迫した雰囲気に動けなくて扉に張り付いていたらしい。

「う、うん。ごめん、何もできなくて……」

「仕方がない。ソラの呪術は攻撃には使えないからな。それよりもこのもらったユリアの指輪に、一時でも本人の動きを止める呪術は込められないか?」

 なんですと? それはあれですか? 私の動きを一時封じるという事ですか?

 私は急いで首をブンブンと横に振る。できてもできないと言っておくれと。

 ソラは私の意図を読んで……ニヤリと笑った。

「うん、任せて。一時と言わず二時でも可能だ。急いで追加するよ」

 ひょえぇぇ~~~!

 ソラに裏切られた。打ちひしがれる私をソラに任せると、ハリーは壁にめり込んでいたイルミスを確保するために動いているマーロンや騎士達の元に向かった。

「ううう~、酷い。酷過ぎる~」

「酷いのはどっち? 殿下じゃないけど俺だって寿命が縮んだよ。ユリアに何かあったらどれだけの人が悲しむと思っているの?」

 そう言って睨みつけてくるソラに、私はハッとする。

 そうか、そうだよね。(本日二度目)私が皆を思うように、皆だって私の事を思ってくれている。今それがハリーに抱きしめられて分かったところだったのに、結局ちゃんと分かっていなかった。

「……ごめんなさい。謹んでお受けいたします。指輪をよろしく」

 そう言って、右の中指にはめていた指輪を外してソラに渡す。

 ソラはコクリと頷くと、指輪をハンカチに包んで懐にしまう。そうして項垂れていた私の頭を撫でながら、優しく声をかける。

「うん。あのね、ユリア。俺が言うのもなんだけれど、殿下は強いよ。ユリアを守るために子供の時から一日も休まず鍛練して、強くなったんだよ。もちろん、天賦の才もあるだろうけど、努力もしている。だからそれを信じてあげて」

 私はソラを見上げる。

「強いのも頑張ってるのも知ってるよ。でも、それでもハリーが危ないと思ったら体が勝手に動いちゃうの」

 私はどうしたらいいのかなぁという様に、眉を八の字にしてソラを見上げる。

 苦笑するソラは「ユリアは本当に殿下が好きなんだなぁ」と笑っている。

「信じて相手に任せるのも、愛だと思うけどね」

 そう言ってのけるソラをマジマジと見つめる。

 目が合うとソラはハッとして真っ赤になり「い、いや、愛なんて知らない俺が言うなって話なんだけれどさ」とキョロキョロと視線を彷徨わせる。

「なんの話してるんだ?」

 そこにマーロンがソラの上に被さって来た。

「うわわわわ、やめろ、マーロン」

 慌ててソラがマーロンを振り払う。

「なんだよ? おかしな奴だな。それより二人共、部屋に入ってな。今から騎士やら何やらが押し寄せて来て、ここは何かと騒がしくなる」

「この部屋でいいの? 出入りしにくくならない?」

「俺の部屋の隣を使えばいい。元々ユリアに過ごさせるつもりだったから用意はできている。案内してあげて」

 そう言って話に入って来たのはハリー。年配の侍女さんに案内を頼む。良く見るとその人はハリーの乳母。マーロンのお母さんだ。

「ジョアンナさん、お久しぶりです」

「げえ、母さん」

「あ、どうも」

 私が嬉々として挨拶する中、マーロンが体を引き、ソラがペコリと頭を下げた。

「この度は大変な思いをしましたね。殿下が仰るように部屋はもう用意してありますので、すぐに参りましょう。こんな血なまぐさい事は男達の仕事です」

 そう言って私とソラを優しく誘導しながら、ジョアンナさんはマーロンの背中をパシリっと叩いた。相当痛かったのか、座り込んで震えているマーロンをよそに、ジョアンナさんはハリーに向き直ると、人差し指をハリーの前に突き立てる。

「殿下、一つだけ言っておきます。こんな状態ですのでユリアーズ様は殿下のお部屋の隣に暫く滞在してもらいますが、決して、ケ・ッ・シ・テおイタはされませんように、慎みをもっていただけますようお願い申し上げますよ。いいですね」

 なるほど。ハリーは元々私を自分の部屋の隣に住まわせたかったのね。けれど方々から(多分、ハリーの暴走を懸念した私のお父様や彼の両親でもある両陛下、ジョアンナさん等のハリーの性格を知る使用人)の反対で仕方なく王族居住区ではあるものの、ハリーの部屋からは一番遠いこの部屋をあてがわれていたんだ。

 おかしいとは思っていたんだよね。ハリーがこの部屋の距離感に納得しているなんて。けれど今回の件でこちらの部屋が使えなくなってしまった以上、チャンスとばかりに周りを言いくるめたに違いない。

 私は彼の心情を考えてクスリと笑う。本当に可愛い人だ。

 そして何故か得意そうな表情で、ジョアンナさんにニッコリと笑っているハリーを見つめる。

「信じろ、ジョアンナ。俺が君の信頼を裏切るような事をした事があるかい?」

 ジョアンナさんも負けずと素晴らしい笑みを返す。

「ございませんわね。ええ、このジョアンナ、殿下を信じておりますので、部屋から部屋へ移動できる扉は、決して開かない様に家具で塞いでおきますわね」

「ジョアンナ!」

「……母さん」

「さあさあ、参りましょう」と後ろで苦悩している男達を、素知らぬ顔で切り捨てるジョアンナさん。カッコよし!



 流石、第一王子の私室。ハリーの隣は今までいた部屋も王族の居住区に存在するので立派なものだったのだが、それとは比べようもない程の素晴らしい豪華さだった。

 その上、私好みの小物やら本やらを用意してくれていて、プライベート空間も充実させてくれている。

 流石ハリー。いや、ジョアンナさんかな? ジョアンナさんも私の事を幼い頃から知っているから好みはもちろんの事、洋服サイズもしっかりと把握してくれているので今まで困った事は一度もない。

 最近は女性と知ったソラの事も構っているらしく、今も部屋に入るなりソラのフードを除けて髪を手櫛で直している。皆のお母さんだな。

「全く殿下の足癖の悪さは、筋金入ですね。まさか暴漢を回し蹴り? ですか、それをして倒すなんて。貴族なら剣でやり込めればいいものを。殿下は剣の腕も近衛騎士の団長を三回に一回は仕留められる腕をお持ちなのに、それを全く披露しないなんてもったいないですわ」

 そう言って、他の侍女と共にテキパキとお茶の用意をしてくれるジョアンナさん。

 近衛騎士の団長って自分の旦那さんだよね。マーロンのお父さんだ。そういう人にも勝てちゃうんだ。凄いなハリー。とか思いながらも、やっぱり蹴りで解決しようとするのは、元ホストだからかな? 喧嘩殺法的な方が得意なのかもしれないね。

 確かに私を助けに来てくれた時も蹴りまくっていたという話を、後からティモン様に聞いたような気がする。

 あの時もイルミスはハリーに顔を踏まれていたと思うが、本人は覚えていないのだろうか?

「あの、城の様子はどうですか?」

 他の侍女が下がったのを見計らって、私はジョアンナさんに聞いてみる。

「まあ、今はそんな事気になさらなくても大丈夫ですわ。ユリアーズ様もソラも疲れているのだから、まずは落ち着いて。それからですよ」

 ジョアンナさんは優しく笑って、今はゆっくりしていたらいいと言ってくれる。けれど私はどうしても気になる。それはソラもだろう。だって、クラリスは……。

「でも、私はハリーの婚約者ですし、ハリーが動いているのに私だけのんびりしているのは、申し訳ないです。せめて現状を知っておいて、話についていけるくらいはしておきたいです」

 私はもう一度、ジョアンナさんに食いついてみる。どうだろう? どうかな? やっぱり駄目かな?

 私の必死さが伝わったのか、ジョアンナさんは苦笑するとコクリと頷いてくれた。

「本当にユリア―ズ様は素晴らしいお嬢様ですわ。分かりました。今はまだ私もよくは把握しておりません。詳しく調べなおして報告いたします」

「ご面倒おかけいたしますが、よろしくお願いします」

「承知いたしました」

 そう言ってジョアンナさんは出て行った。残されたのは私とソラ。

「大丈夫だよ、ソラ」

 私がソラの手を握ると、彼女は苦笑する。

「変だよね。玲ちゃんなんて顔を見るのも嫌だと思っていたのに、いざ刺されたなんて聞くと、心配する自分がいるんだ。やっぱりいくら嫌いでも死んでほしいなんて、そんな事は思えなくて……国外追放したら死んじゃう可能性だってあったのに俺、凄く矛盾してる」

 そう言うと、俯いてしまった。

 うん、分かる。分かるよ、ソラ。どんな悪人だって死んでほしいなんてそんな事、思う訳ないものね。

 私とソラは何も言わずに、暫くジッと二人で寄り添っていた。

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