戻ってきました
めっちゃくちゃ嫌がったお爺さんを無理矢理引きずりながら、私達は城に戻ってきた。
ソラが「爺さんを一人にしておいたら、どっか行っちゃう~」と本気でお爺さんを森に残していくのを嫌がったからだ。極めつけは「爺さんがここにいるなら、俺もここを離れないぞ~」と本気で泣いた。いや、もう、本当に。三歳児かと思うほどの豪快な泣き方だった。
そんな様子にハリーが溜息を吐いて、マーロンに目配せをする。了解という様にマーロンがコクリと頷くと、お爺さんの服を離さないソラの元へと近寄る。
お爺さんはソラを無理にでも連れて行ってくれると思ったのか、ホッとした表情をうかべたが、次に「ギョエ~!」という悲鳴を上げた。
マーロンがお爺さんを米俵のように、肩に担いだからだ。
「マーロン、お前、何をする。離さんか!」
「正直、煩いし面倒くさい。爺さんが一緒に行けば問題は解決だ」
「ワシは隠居を許されたのだぞ」
「仕事はしなくていい。ソラの守りをしていろ。ほとぼりが冷めたら帰してやる」
そう言ってお爺さんを肩に担いだまま、お爺さんの服を離さずグズグズと泣くソラを引き連れて馬車までノッシノッシと歩いて行く。
「マーロンは盗賊なの?」
「素質はあるよな」
私達はのんびりと、そんな会話をしながら皆の後をついて行ったのだ。
城に戻って一通り落ち着いたソラは、スッキリとした顔つきでクラリス・レイと会う事を承諾した。
「いいのか、本当に?」
「大丈夫なの?」
そう言う私達に、ソラはニコリと笑う。
「もとはと言えば俺が玲ちゃんを連れて来たのが原因なんだ。ちゃんと話ぐらいはするさ。けれど助ける気はない。彼女がここで犯した行動は、自分自身で責任をとってもらう。俺だって置いて行かれたんだ。助ける義理はないさ」
そう言うと、隣にいたマーロンが「俺が付きそう」と言う。そして「お前達はどうする?」と聞いてくる。
正直、ソラが心配だから様子は見守りたい。けれど私、特にハリーが顔を出したら彼女はどうするだろう。縋る? それとも暴れる? どちらにしろ話が進まない事だけは分かる。
私とハリーが顔を見合わせていると、お爺さんが仕方がないと腰を上げた。
「殿下達は大人しく別室にいろ。ワシが鏡を通して見せてやる。ソラはマーロンがしっかり守れ。何かあったら許さんぞ」
「嫁にもらう訳じゃないんだぞ。まあ、ちゃんと守りはするさ。任せろ」
何気なく言ったマーロンのセリフに、一同は無言になる。
ソラは真っ赤になり、ハリーとお爺さんは胡乱な目をしている。本当にマーロンはソラの事をどう思っているのだろう?
そして私はパッと閃いた。そうだ、クラリス・レイに意趣返ししてやろう。
「ねえ、ねえ、ソラ。クラリス・レイに会うのなら、私が戦闘服を用意してあげる。それを着て、彼女に対峙しない? 絶対に彼女に一泡吹かせられるから」
「良く分からないが、ユリアがそう言うならいいよ。ユリアに任せる」
ソラは首を傾げながらも、ユリアの言う事ならと快く頷いてくれた。
私はほくそ笑む。ソラを馬鹿にしていたレイちゃんに、悪役令嬢からプレゼントよ。ハリーが好きでヒロインになりたいという気持ちは仕方がないけれど、人を傷付けた報いは受けてもらわないとね。
フフフと私が黒い笑みで笑っていると、ハリーが首を傾げてくる。
「何を企んでいるの?」
「女には女の戦いがあるのです。とりあえずはソラを下に見た事、後悔させてあげないと」
「おお、悪役令嬢らしい顔つきだね。楽しそうだ」
ハリーは私が楽しんでいると思い、それ以上は何も言わない。好きにしていいって事だよね。了解です。エリーゼ達、悪役令嬢の集合だ。
マーロンの間抜け面が見れて、私は大満足だ。
結論から言おう。ソラは想像通りの美女に変身した。
あの後、私はエリーゼ、バーバラ、マリアーヌ様、キャノン様を城に呼んで、嫌がるソラを無理矢理紹介した。
はじめはソラの風貌に驚いていた四人だったが、流石悪役令嬢。私が攫われた時に呪術で見つけてくれた私の友達なのだと紹介すると、すぐによろしくと手を取ってくれた。そしてそんな四人にソラも戸惑ってはいたが、次第にユリアの友達だもんね。こんなもんだろう。と力を抜いてくれた。
皆が落ち着いたところで、私は私を攫ったクラリス・レイに一泡吹かせたくて、ソラに協力してもらうのだと説明する。
ソラは以前よりクラリス・レイと顔見知りなのだが、姿を隠すソラを何かと下に見ている。そんな彼女にソラの美しさを見せつけてやりたいから皆の力を貸してほしいと頼むと、皆は一斉に目をキラキラとさせて「「「「喜んで!」」」」と声を揃えて、居酒屋の店員のような返事をしてくれた。そして、私とソラをそっちのけでバタバタと動き始めたのだ。
「……嫌な予感しかしないんだけれど、ユリア、君は何を頼んだの? 俺に何をする気?」
表情のなくしたソラが、遠い目をしながら私にたずねてきた。私は両手を組んで口元に添え、首をコテンと傾ける。
「ソラがだ~い好き♡」
「騙されないぞ! 素直に信じた俺が馬鹿だった。殿下に訴えてやる」
「ハリーの了承は得ているよ」
「グルだった!」
そうしてエリーゼ達に捕まったソラは、美女へと変化を遂げた。
日本人特有の顔は化粧映えをする。黒髪はこの世界にはない艶やかさで、神秘的な黒目はカールで巻かれた長いまつ毛でくっきりと映える。線の細い小柄な体は、胸下を締め付ける事でバランスの良い高さを保ち、幾重にも重ねた薄い布のスカートはひらひらと儚さを表す。華奢なソラにはピッタリなドレスだ。
悪役令嬢達はすっかり遊んで……ゲホン、ゲホン、頑張り、出来上がったソラを見た時には、皆大満足の顔をしていた。
「ああ、楽しい。人を着飾るのがこんなに楽しいものとは思いませんでしたわ」
「ソラさんが化粧映えする方だからですわ。もっといろんな色も試してみたいです。きっと違う雰囲気を醸し出してくれますわよ」
「黒髪がこんなに綺麗なものだとは知りませんでした。私の髪と同じ真っすぐでも、雰囲気が全然違いますね。素敵ですわ」
「もっと色んな衣装も試してみたいですね。今度はいつにしましょう? 私もっと沢山用意しますから、試してみてくださいね」
四人の迫力と人生初、人に装飾されたソラはすっかり魂を抜かれていた。
椅子に座りながらもフラフラと揺れるソラに、もう少し頑張ってもらおうと私はハリーとマーロンを呼んだ。幼馴染二人に褒めてもらえたら、ソラも力が増すかもしれないと。
結果、先程も述べたようにマーロンが間抜け面になった。
これで彼もソラを男扱いできなくなっただろう。
数分後、全く動かないマーロンとソラが心配になり、私はハリーに余計な事をしてしまったかとたずねる。
「まあ、ソラが女である事が分かった以上、今まで通りにいかない事はマーロンだって分かってはいたさ。遅かれ早かれソラのこういう姿を目にする機会はできる。別にいいんじゃない。現実を知る事は大事さ。それよりもソラを覚醒させないと、今日中にクラリス・レイと対峙できなくなるよ」
ハリーの言葉に私はハッとする。
隣で聞いていた悪役令嬢四人組が「でしたらまた近いうちにソラさんを着飾れるんですね」と喜色を浮かべた。
その言葉にソラが覚醒する。こんな苦しい事を近いうちにもう一度?
「冗談じゃない。無理です。もう大丈夫です。行こう、マーロン。気合を入れて玲ちゃんと対峙するぞ~」
パッとマーロンの手を取ると、ソラは部屋から出て行こうとした。するとおもいっきりスッ転ぶ。当たり前だ。人生初のドレスにはヒールが付き物。初めて履くヒールにバランスがとれないのも無理はない。
しかし、派手に転ぶ事はなかった。マーロンが咄嗟にソラの腹に腕を回して支えているから。
「……そんなカッコしている時くらい落ち着け。爺さんとも約束したんだ。ちゃんと守ってやるから俺に任せろ。エスコートしてやるから手を出せ」
そう言ってソラの手を握る。
「ガルノヴァ様はじめ皆様には、ソラが大変お世話になりました。殿下、ユリアーズ様。クラリス・レイの元へ参ります。報告は後程」
ペコリと頭を下げるマーロンに従って、ソラも頭を下げる。
おお、マーロンが初めて頼もしく見えた。
私がホクホクしていると、エリーゼ達に二人の関係について聞かれた。私も良く分からないと首を振る。
近いうちにエリーゼ達にはっきりとした報告ができるといいなと思いながらも、四人には丁寧にお礼を述べて引き揚げてもらった。
さあ、とうとうソラとクラリス・レイの対決だ。




