ソラの反応
ソラが目を覚ましたので、私達は寝ている間の話をもう一度ソラに話して聞かせた。
彼女も驚いていたようだが、どこか納得できたというような顔をする。
「俺、今まで自分の過去が全く分からなくて、凄く不安だったんだ。けれど爺さんや他の呪術師のように俺にも産まれた世界があって、同じ世界を共有できる人間が他にもいるんだって思えたら、うん、凄く安心した」
そう言ってニコッと笑ったソラは可愛くて、思わず私はソラを抱きしめる。
あ、なんかハリーがいちいち私を抱きしめる気持ちが、ちょっと分かった気がする。
照れ臭そうに私の腕から逃れるソラと同時に、ハリーが私の腰を引いてソラから離す。わざわざ回収しなくてもいいじゃない、プンプンだ。
「レイちゃんは、俺の事分かってるのかな?」
ソラからクラリス・レイとの前の世界での関係を聞いた。決してとびきり仲が良かった訳ではない。けれど友達だった。お互いに楽しかった時間も共有している。そんなレイからの誘い。会いたいけれど会いたくない。それがソラの本音だろう。
不安そうに皆を見上げるソラ。マーロンはそんなソラの不安を消し去るかのようにニカッと笑う。
「お前を呼んでいたところからすると、十分にその可能性はあるんじゃないか」
「懐かしむため、なんて事じゃないよね。やっぱり今の状況から脱するために、俺を利用しようとしているのかな?」
「若しくは強制的に、自分の思い通りに動かそうとしているのかもしれない」
ハリーが私の腰を抱いたまま、考えるそぶりをする。
「黒の石、まだ持ってるのかな? あったとしても俺にその力は効かないんだけどなぁ。ああ、もちろん、その指輪で殿下もユリアも大丈夫だよ」
私達はソラにもらった指輪を見る。この指輪があれば大丈夫だと言うソラに、私はとても頼もしいものを感じた。ニコニコと笑っていると、隣からジト目でハリーに見つめられている事に気付く。
「何、ハリー? どうかした?」
「必要以上にソラに懐いてないか」
「う~ん、そうかな? でもハリーだってソラの存在は頼もしくもあるでしょう?」
「それはそうだけど……」
ちょっと拗ね顔のハリーにキュンとした。なんで拗ねているのかは分からないけれど、前世の推しハリー様にはなかった表情だ。なんかこういう表情も好きだなぁ。
ジッとハリーを見つめていると、私の視線に気付いたハリーが拗ね顔のまま「何?」と聞いてくるので、気持ちのままに答えてみる。
「そんな表情はゲームのハリーには見られなかったなと思って」
「どうせエセ王子だからね。すいませんね、心狭くて」
「ハリーは心狭くなんてないでしょ? ちゃんと皆を導いて立派な王子様やってるよ。それにそんな表情も新鮮で可愛いなって思っただけだよ」
「!」
ハリーが俯いてしまった。あれ? 私何か酷い事言った?
そんな私達の様子に、ソラが感心したように息を吐く。
「殿下も大概人誑しだと思っていたけれど、ユリアには負けるね」
「ユリアは前世から俺以上に人を誑し込んでたからな。俺もそのうちの一人」
「筋金入かぁ。そりゃあ誰も勝てないね」
なんか、またもや失礼な会話が取り交わされる。おかしいなぁ、人誑しはハリー一人だけのはずなのだが。
「お前らのイチャイチャはもういい。先に進まないだろう。それよりもクラリス・レイの要求はどうする? このまま無視しとくか? 本人の自供は取れなくても、証拠や証人は十分だからな。内密に処罰する事は可能だぞ。それとも要求通り一度会ってみるか? 前の世界からいいように使われていたんだろう。決着付けるなら会ってみてもいいかもしれないが」
選ぶのはソラだ。という様に見つめるマーロン。正直、ソラにはここで答えを出すのは難しいだろう。
「まあ、主犯格のクラリスとやらも前世でお前達を刺したイルミスとやらも、捕えて今は監視下にいるのだろう。そう焦る事はない。今日はここに泊っていけ。ちょうどいい匂いがしてきた。飯を食おう。脳を休める事も必要だぞ」
黙って成り行きを見ていた呪術師のお爺さんは、ソラの困り果てた姿を見て休憩を申し出てくれた。確かにその通りだ。こんなに色々と大変な話を聞いた後、すぐに今後の話を聞かれても困ってしまう。ゆっくり考える時間は必要だ。
ハリーがマーロンを肘でつつく。マーロンも分かったよという様に肩をすくめると、料理人に食事はできたかと聞きに部屋を出た。
ソラは大きな溜息を吐く。処理しきれない情報が山の様にあるのだろう。
「大丈夫、ソラ?」
私がソラの背中に手を置きたずねると「ユリアの方こそ」と苦笑された。
「ユリアもまさか前世で、自分が刺されて死んだなんて思ってもみなかったんじゃない? その上その犯人が一緒にこの世界に転生して、また自分に襲い掛かって来るなんてその……怖くない? ごめんね、無意識とはいえ元凶は俺なんだよね」
そう言うとソラは俯いてしまった。そうか、ソラはその事も気に病んでいたんだな。
確かに理由はどうあれ、前世自分を殺した犯人がまたもや自分を襲ってくるなんて、普通で考えたら怖くて仕方がない案件だと思う。けれど……。
「実は私、自分が死んだ時の事、一切覚えていないんだよね。その時もハリーと一緒にいたようだけれど、前世でハリーに会った記憶も全くないの。お爺さん曰く死のショックが原因でその辺りの事を全て忘れたんじゃないかとも言われたけど……。だから今回の件は別として、前世と合わせてイルミスに怖がれと言われてもピンとこないってのが本心」
「そう……なの?」
「うん。ハリーは前世の事バッチリ覚えているようで、しかも私に隠し事いっぱいしているようだから、また後でしっかり聞かせてもらうの。とりあえずはお爺さんの言う通り、怖がる前にキッチリ休憩とりたいな。だからソラが気に病む事は、今のところクラリス・レイだけにしときなよ。あれもこれも一人で抱え込んでたら、息もできなくなるよ」
私がニッコリと笑ってそう言うと、ソラは吃驚したように目を真ん丸にしていた。そして「ユリアは強いね、ありがとう」と言って笑ってくれた。目にはうっすらと涙の膜をはりながら。
さあ、休憩とったら次はハリーの番だ。洗いざらい話してもらうからね。




