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ホスト王子 悪役令嬢溺愛中のため ヒロイン達と戦います  作者: 白まゆら


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衝撃の事実だね

 ――全て思い出した。

 俺は爺さんが言っていたように、ここではない世界。日本という国の〔藤井 空〕という名前の小学四年生の少女だった。

 転校したての俺は友達が欲しくて、近付いてきた隣のクラスの〔黒沢 玲〕の話に合わせた。

 彼女は我儘で自分本位の性格だったけれど、ゲームの話さえ合わせていたら機嫌が良かった。中でもXXXシリーズ一作目のメイン攻略対象者ハリオス・イーブ・デュラリオン、彼の話をすればどんなに仏頂面をしていても、コロッと表情を変えていた。

 進められるがままにやったゲームだったけれど、俺もそのゲームにはとても興味を惹かれた。美しいイラストに、意地悪な悪役令嬢をギャフンとさせる展開はとても面白く、彼女を持ち上げながらもゲームの話をするのは、嫌ではなかった。

 あの日も、普段の日常となんら変わりはなく……。

 普通に朝起きて、お父さんとお母さんに行ってきますと声をかけ、学校に通った。まだ遠慮気味に声をかけてくるクラスメイトを相手にして、黒沢玲と共に学校を後にした。

 そうしておきる悲鳴。

 訳が分からないながらも逃げなければと思ったその時、地面が揺れた。それと同時に隣の玲が抱きついてくる。意識が遠のく前に見えた光景は、近場でありながらも大通りにいる自分達には建物の死角になっていて決して見えるはずのない路地裏での光景。

 ヒステリックに何かを叫ぶ女性が派手な男性(殿下そっくりな金髪)に体当たりして行く。隣にいた女性(男性の隣にいるには余りにも地味)が彼を庇って彼女との間に入った。そのまま倒れる女性。

 男性は必死で彼女を抱え込み何かを叫んでいる。そう「ゆりあ」と。その姿を見たヒステリックな女性は奇声を発すると、そのまま男性へと刃物を振り落とす。

 二人はそのまま重なる様に倒れた。地面には赤い血が流れている。

 そばにいた近くの会社員風の女性が悲鳴を上げ、逃げながら「人が刺された」と叫び「救急車、警察」と近くの高校の制服を着た女性が携帯に手をかけている。そばには小学生の姉妹が二人、身動き取れず抱き合っていた。

 そうしてヒステリックな女は次々とそばにいる者を手にして、最後に自分の喉元を掻き切った。

 全滅……。



 走馬灯のように見えたその光景を、俺は口にしていたようだ。マーロンが「もういい」と言っている。

 そうか、もういいのか。そうだよな、過ぎた事だ。あれは前の世界。彼らにしたら前世の話なのだから……。



 倒れたソラを横抱きにして、マーロンが寝台に寝かせる。

「今の話は……」

 真っ青なソラの顔色を見ながら、ハリーが隣にいるお爺さんにたずねる。

「殿下に身に覚えは?」

「……あるな。刺された男性は、俺だ。そして俺を庇ったのがユリア。当時俺が惚れていた女だ。俺達を刺したのは客だった女。俺はホストの仕事をしていたからな。爺さんも元日本人ならどういう仕事か分かっているだろうから、説明は省くぞ。あれはゲームに夢見て、俺をその主人公と錯覚した女が引き起こした事件だった。俺は自業自得だけど、ユリアは……」

「なるほど。それで一致した。ワシは以前よりお前達の話をソラから聞いたり、呪術で覗き見したりしていた。殿下の周りに嫌な空気が纏わりついていたからな。そして黒の石にまつわる内容を全て見た。ワシの見解を聞くか?」

「そうだな。頼む」

 私はそのまま話し込むハリーの腕を掴む。まって、ねえ、まって。

「ハリー、以前私に死因は急性アルコール中毒だって……」

「ごめん、あの時は本当の事が言えなかった。ユリアが……ゆりあが、また俺から離れるんじゃないかと思って……」

 どういう事? と首を傾げる私に「この話はまた後日。二人の時に」と言って、お爺さんの話を聞く体勢に戻ってしまう。

 今はお爺さんの話の方が大切だという事は分かる。けれど……。私は頭をブンブンと横に振る。そうして掴んだままのハリーの腕に力を込める。

「分かった。ちゃんと後で話してね。逃げちゃ駄目だよ」

 ギュッと腕を握りしめ、逃がさないという様にに真っすぐ見つめる私に、ハリーは真ん丸な目を向ける。次の瞬間、プハッと笑いだし「了解」と言って、二人でお爺さんを見つめる。

 腕を掴んでいた手は、そのままハリーの手の平に収容された。ギュッと二人で手を握り合う。どんな事を聞いても平気。二人なら大丈夫。大丈夫。


「まずは先程も言った通り、周期的にあの木には不思議な力が宿る。それが樹液となり黒い塊が数十個できあがり、木の根元へと落とされる。その塊は宝石のような艶をもち、そうして異世界であるはずの地球に住む力ある者を引き寄せる。単体ではあの塊の力など、せいぜい個人の望みを叶える程度のものだが、集まれば信じられない力を発する。無理矢理転移させられたソラは、自分の力でお前達の、自分のそばにいた者達の運命を見たのだろう。そうして無意識にお前達を自分が引き寄せられている世界に転生させた。ソラの力と集まった塊の力で」

「爺さんは知っているんだろう。日本で見たゲームの主人公として生まれ変わったヒロイン達が、ゲーム通りの行動をおこしている事を」

 ハリーの手に力がこもる。緊張しているのが伝わる。

「それも塊の力だろう。話を聞いていれば転生した者は皆、そのゲームを知り尽くしている者ばかり。皆が各々、その主人公になりたいと願ったのではないか? 殿下とユリアは少し違うかも知れないが、もしかしたらその場にいた者が、お前達にその役を担わせようとしたのかもしれない。お前達はお前達の願望でその役をこなしていたにすぎない」

 確かにそうかもしれないが、それにしてもいくら人気のあるゲームとはいえ小説まで知っているような者達がよくあそこに集まったものだと少し感心してしまう。あれ? そういえば人数が……。

「ちょっと、待って。あの場にいたのはソラを合わせて九人と言ったわ。クラリス・レイはソラと来た転移者として、私とハリーを除けば五人。ヒロインはクラリス・レイを除いたら四人よ。一人多いわ」

 お爺さんは私の質問にいとも簡単に返す。良く考えて見ろと。

「異常な人間が一人いただろう。最も奴はあの場でも正気を失っていたようだから、この世界に転生しても前世の記憶はないのだろうが」

「異常な人間って……」

「イルミス・アロウェンか?」

 私の言葉の後を引き継いだのは、ハリー。確かに異常といえば、彼だわ。

「前世の記憶がないわりにこの世界ではありえない程虫に詳しく、そして性格も全く違う。お前達やヒロイン達の性格が違うのは、前世を思い出しているからだろう。それなのに奴だけは何も知らなくて、あの性質。おかしいとは思わないか」

 お爺さんの言葉に、何かに気付いたハリーが顔を青くする。

「……俺を、あの場にいる者全員を刺した女か?」

 お爺さんは頷く。

 前世の私の死因に関係した人。あの人がイルミス・アロウェン?

「そうだろうな。男なのに異常に殿下に固執しているのもおかしい。まるで自分が殿下の、王子の隣に立てるかのような発言を繰り返しているだろう。もしも殿下が同性愛者であっても、殿下はこの国の王の後を継ぐ者。跡継ぎが必要な王子の横に男が立てるはずもない。それが全く分かっていないのだ。自分こそが王子の隣に相応しいと本気で思っている。ある意味ヒロイン達よりもおかしな思い込みをしている」

 ここまで聞いて、私は気になる事を聞いてみた。それぞれの望みを叶えてゲームの世界の住人に転生したのであれば、どうしてあの人だけ男性である攻略対象者になったのか?

「あの人はどうして男性に転生したのかしら? 女性であれば、それこそクラリス・レイとして転生していれば、まだ可能性はあったのに」

 立たせたくはない。ハリーに選ばれてなんかほしくはない。けれど可能性の話。ハリーの隣に立つ未来を望むなら、ヒロインに転生するのが一番の近道だ。

「おそらくソラだろう。無意識に転生させたはいいが、その場にいた関係のない者まで刺した女も転生させてしまった。ソラの女の思い通りにさせたくないという意志が、それこそ無意識に働いたに違いない。だからこそ男として、絶対に王子の隣には立てない存在として転生させた。そんなところではないか」

 成程と頷く。その女は自分をヒロインと勘違いしていたというのだから、そのままクラリス・レイになろうとした。だけどそれをソラが邪魔をして、クラリス・レイのポジションが空いたんだ。そこをソラと共に来た黒沢玲に取られた。それならば転移してきた彼女が、クラリス・レイを名乗っても問題が生じない理由になる。

 今まで黙っていたマーロンが、ソラの寝ている寝台に座りながら、声をかけてくる。

「爺さんよぉ、こいつらがゲームの主人公に転生した理由は分かったが、どうしてゲームの他の人間も存在するんだ? ティモン様とかエリーゼ嬢がいるのは、不思議じゃないか?」

 確かにその通りだ。私達だけがゲームの住人に転生して、ゲーム通りの動きをしたとしても、そこにエリーゼ達が一緒に存在しているのはおかしい。

 私がチラリとハリーを見ると「それも塊の力か?」とハリーがお爺さんに問う。

 コクリと頷いたお爺さんは私達を見て、上を見上げる。

「本当に不思議なものだな。ワシら異世界人がどういう訳かこの世界に引っ張り込まれ、不思議な力を発する。歴代の呪術師の中には、この世界の歴史を変えた者もいるだろう。良くも悪くも、その中にソラは含まれる。ワシなんかより潜在的な力が強いのだろうな」

 そう言うと、寝ているソラの頭をふわりと撫でた。

 我が子として育てたソラに、同じ体験をしたソラに、深い情が湧いているのだろう。愛しくて仕方がないといった優しい目に、私は温かな気持ちになった。

「ソラがこちらに引っ張られた時、玲を連れて来たのも一つの要因かもしれんな。奴はお前達がいうゲームの世界に心酔していた。過去見で見てみたのだが、この世界に来て、意識を失っているソラの持ち物を、それこそ衣服まで盗み、そばにあったであろう塊、黒の石を盗んで去って行った。そのままワシが気配を察知しなければ、ソラは死んでいただろう。それから自身をクラリスと名乗り、ヒロインであろうとした。いや、自分がヒロインであると思い込んでいるのかもしれない。そういった異世界人の思い込みが、塊の力を借りてこの世界にゲームの世界を作り上げたのかもしれない。ティモン殿達が存在するのは、そういった不可思議な力だろう。ああ、いや、これはワシの想像だがな」

 お爺さんの説明に、最早反論する気は毛頭ない。だって初めから、不思議な力で私達はここにいるのだから。

 もう木の力だろうが呪術師の力だろうが、それこそ女神様の力だろうが、どうでもいいや。

 それよりもムッとする事を聞いた。そっちの方が重要。

 私はクルリと勢いよくハリーの方を向くと「クラリス・レイの処罰はまだだよね」と問う。私の行動に吃驚したハリーは、コクコクと頷く。

「ちゃんと罪を償わせてね。私が攫われた事を公にしないために気を使って内々で動いているようだけれど、罪を問えるなら公にしてもいい。だってあの人、私を攫うだけじゃなく、過去に気を失っているソラの身ぐるみまで剥いで逃げたのよ。許せないわ。ソラは死ぬかもしれなかったんでしょう? 絶対に許せない!」

 私が勢い込んでいると、男性三人はポカ~ンと私を見ている。

 ん? なんだ、その顔は?

 私が眉を寄せると同時に、ブハッとお爺さんが笑いだした。それに連動してハリーもマーロンも爆笑している。

 なんだ? なんだ? なんだ?

「いや、ユリア。君いいね。なるほど、殿下が前世から惚れている意味が分かったよ」

「やらないからな。これは未来永劫、俺の」

「いや、いらない。この感性は、俺ではさばけない」

 男性三人が笑いながら言いあう。お爺さんの言葉にハリーが言うセリフもおかしいが、マーロンのセリフも気に入らない。

 なんか失礼だぞ、君達。

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