真実は爺さんのみぞ知る
ここは、前呪術師のお爺さんの住居。ソラが捨てられていたという森の奥の近く。
私達はあの後、すぐに準備をして三日後にこの地へとやって来たのだ。
ソラの部屋で聞いたお爺さんの声は、呪術で作った前世の世界でいうお爺さんとの電話のような物。常に繋げているから、あのように会話を聞かれている事があるらしい。ソラはいつもの事と気にもしないが、私達にしてみたら吃驚もいいところだ。
因みに「ソラ、プライバシーって知ってるか?」と言うマーロンに「俺と爺さんの間にそんなものは必要ない」と言い切ったソラ。マーロンはとっても複雑な顔をしていたが、ハリーは俺(王族)と同じだなと笑っていた。
ここに来る際、私とソラは病み上がりのため城の女医さんには散々文句を言われた。だけどハリーに置いて行かないでと上目遣いで縋った結果、どうにか女医さんを宥めすかしてくれたようだ。置いて行ってもどうにかしてついて来ようとするでしょうと言われたが、ハリーだって私と離れるの嫌でしょう? と言ってやったら頬を赤くしてそっぽを向かれた。可愛い。
お忍びでやって来たので、私達以外には護衛にマーロンの部下五人と料理人を一人という第一王子の移動にしては極少人数となった。
本当は部下だけで良かったのだが、お爺さんの手料理に危機感を感じたハリーが無理矢理連れて来たのだ。
女の子は私とソラと部下さんの中に一人だけ。淑女としてはどうかと思うけれど、私は前世の記憶もあるので自分の事は自分でできる。ソラも居住ではほとんど一人なので侍女さんとかは必要なし。何かあれば女性部下さんが対応してくれるとの事なので問題ない。まあ、元々私にはおかんハリーが付いているからね。困る事は一切ないのだ。
総勢十名。小屋のような一人暮らしのお爺さんの家には全員が入れるはずもなく、今話している間にも部下たちは辺りを探索しながらも、小屋を中心に野営の準備に取り掛かっている。
私とハリー、ソラとマーロンが椅子に座ってお爺さんと話している中、料理人はお爺さんの手料理という名の遺物に手を加えるべく、奮闘していた。どうにか人の食べれる物にと。
先程料理人がハリーと私にだけは持ってきた材料で新たに作らせてほしいと言ってきたが、ハリーはそれを却下した。皆と同じでお爺さんの料理を食べると。
自分達だけならばどうにか食べれる物に作り変える事もできるが、王族のハリーの口に入る物だ。簡単に味を調えるという訳にもいかない。ハードルが上がってしまった料理人に同情するものの、そういうところがハリーの良いところでもあるなと私は密かに微笑んだ。
連れて来た者達、それぞれが己の役目に没頭する中、人払いをしてお爺さんは私達に話し始めた。
「最初に言っておくぞ。お前達二人が転生者だという事は知っているし、ワシとソラは転移者だ。その上で話を進めるが、良いな?」
「「「「………………」」」」
はっ?
「おお、そうだ。ヒロインとか呼ばれていた者達とイルミスとかいう男も転生者だな。クラリス・レイだけはソラと一緒にやって来た転移者だが。関係ないのはマーロンだけだな。ワハハハハ」
「「ちょっと待て、爺!」」
ソラとマーロンが席から立ち、お爺さんの胸倉を掴んでいる。ハリーは首を振っている。
私はというと……思考が追いついていません。固まってます。えっと……どうしたらいいの? 困った時のハリー様。
「あ~~~、とりあえず全員落ち着こうか。戻っておいで、ユリア」
ハリーが私の背中を撫でる。ハッと気付き、首をブンブン振って我に返る。
お爺さんが爆弾を投下した。いつものハリーと同じように爆弾を落とすのはいきなりらしい。けれど、これは今まで聞いた中でも一番の衝撃だ。命中して頭が真っ白になったよ。
「今の発言に聞きたい事は山ほどあったが、とりあえずはあんたが転移者だという事について話してもらおうか」
ハリーの言葉に立ち上がっていたソラとマーロンは、渋々といった感じでお爺さんを離して椅子に座りなおした。
そんな私達を見て、お爺さんはニタニタと笑う。
「殿下が動揺する姿とは貴重だな。ついでに言うとワシは日本人で、まだ六十歳だぞ」
「あ、やっぱり」
お爺さんの言葉に皆がまたもや驚く中、私はただ一人納得する。
「お、ユリアは気付いていたか」
「うん、この国の人にしたら彫りが浅いなって」
「この国の人間ではないって気付く奴は気付くな。そう、この髭は簡単に言えば顔隠しだ。白髪はこの国に来た時に、ショックで白くなってしまったんだが」
お爺さんとうんうんと頷いていると、マーロンが仏頂面で「六十歳は嘘だ」と言う。
確かにどう見ても百歳は超えているような怪しげな風貌だが、よく見ると皺もそこまでなく、私は六十歳という事にも納得できるなと思った。
「……じゃあ、本当にあんたは転移者なんだな」
ハリーがお爺さんに確認すると、お爺さんはコクリと頷いてソラとマーロンに視線を向けた。
「マーロンは話についてこれるか? ソラも、お前は転移者とはいえ記憶を全て失くしている。転生者と転移者の違いは分かっているな?」
「転生者はこの世界ではない別の世界の人間、異世界人がこの世界の人間に生まれ変わった奴の事だろう。転移者は異世界人がそのままこの世界にやって来た奴の事。ハリーに説明してもらったから、それくらいは分かっている」
ソラの代わりにマーロンが答える。ソラは唇を尖らせたまま、無言でお爺さんを睨んでいた。
「そうか。では話の続きにいこう。ワシがこの世界にやって来たのは、ソラと同じこの森の木の窪みだ。前の世界で学校に行こうと急いで走っている時に、突然地面が揺れて、気付いた時にはここにいた。当時はまだ十歳だったか」
「……同じだ」
お爺さんの言葉に、ソラがハッとしたように頭を上げた。マーロンがソラの顔を見る。
「ソラ、思い出したのか?」
「ああ、俺もなんだかよく分からないけれど、焦っていたのを覚えている。それで急いで走ろうと思ったら地面が揺れて……そうだ、気が付いたらこの世界にいたんだ」
「ふむ、全く同じだな。我々城のお抱え呪術師は皆、あの窪みにいた地球から来た転移者だ」
「「「「!」」」」
お爺さんの爆弾発言が続く。
え? え? 皆同じって……え?
「あの木には不思議な力が宿っておってな。その木の樹液が固まってできたのがお前達が言う黒の石だ。その樹液の塊に不思議な力は凝縮され、それが数百個貯まるとどういう訳かワシらの世界の力ある者が引き寄せられる。あの木の場所にワシらの世界と繋がっている場所があるのだろう。そうして選ばれたのがワシやソラ。代々城のお抱え呪術師を生業にしてきた者達だ。ワシらは元より不思議な力を持っていたようだな」
「……そんな話、初めて聞くぞ」
ハリーが呟く。信じられないと言った感じだ。
「王位を継いだ時に前王から聞かされる話だからな。王族は我々転移者の保護も兼ねているんだ。外にこの秘密が漏れないためにもな。だから呪術師はどんなに力が強くても、ひっそりと暮らさせて、表立てたりはしないだろう。怪しげな者と呼ばれながらも囲い込む。助言は受けるが悪用はしない。この国の王族は中々に良心的な人間が多いぞ」
ワハハと笑うお爺さんは、同時にありがたいと呟く。
いつから続いていたのかお爺さんにも分からない。ただ代々呪術師は新たにやって来そうな者の気配が分かるそうだ。そうして木の元まで迎えに行き、新たにその者を呪術師として育て、この世界で生きる術を身につけさせる。王族の協力の元。
ただそれを悪用しようとする者がいるのも事実。呪術師として認められれば城で何不自由なく手厚い処遇が受けられると勘違いし、呪術の真似事をしたり嘘を吐く者が後を絶たない。そしてその力を己の野心のために利用しようとする者もいる。異世界の知識や力はこの世界において魅力的なものだから。それらの者達により呪術師の地位はどんどんと落とされていく。異世界人の存在と共に。
「いずれ殿下も知る事になるが、まさか殿下自身が日本人の記憶を持った転生者であるとはな。しかも婚約者まで。まさかとは思うが……ソラに巻き込まれたか?」
「「え?」」
お爺さんの言葉に、私達は顔を見合わす。
「先程も言ったと思うが、本来ならワシの様に力を秘めた者が一人だけ、黒の石の力と共鳴してこちらに引きずり込まれるものだが、ソラの場合は近くに人がいすぎたようだ。クラリス・レイ。あれがいい例だが、あの者は転移させられる時ソラに抱きついてきたようだ。体が触れているから一緒に引きずり込まれたのだろう」
私は驚き過ぎて言葉が詰まる。クラリス・レイが転移者という事は、彼女はヒロインではなかったのだろうか?
私とハリーが無言でいると、お爺さんはソラに話をふっていた。
「ソラ、何か思いださないか? こちらの世界に引きすられる時、周りにどれだけの人間がいた?」
「え? そんなの覚えて……いや、沢山いた。うん、確か……八人。俺を入れて九人だ」
そして思い出したソラが見る見るうちに蒼白になり、体が震えだしている。
「ソラ?」
マーロンがソラの肩を抱く。どうしたんだと顔を寄せると、ソラはゆっくり私達を見る。
「……皆、殺された……」




