とりあえず攻略対象者から潰しておこう
周囲が唖然としながらも、なんとなくお遊戯を見ているみたいで可愛いなぁ。とほんわかしたところで、凛々しい声が聞こえてきた。
「はい、そこまで。念願の悪役令嬢は満喫できた?」
現れたのは、第一王子ハリオス・イーブ・デュラリオンをはじめ、美女達それぞれの婚約者。
「ハリー、どうだった? 私の悪役令嬢。怖かったでしょう?」
「うんうん、怖い怖い。怖すぎて思わず抱きしめそうになったよ」
そう言って駆け寄って来た婚約者を抱きしめる王子。
「ハリーはユリアーズ様を甘やかし過ぎだ。エリーゼも調子に乗り過ぎ」
「申し訳ありません。ちょっと……楽しくなってしまって」
「いや、エリーゼが楽しいなら……うん、いいけど」
ティモン・サラデュラは宰相候補の面目通り、悪乗りし過ぎた周りを窘めていたが、結局自身の婚約者に頬を染めながら謝られると、ふにゃりと表情を緩めていた。
「バーバラ様とってもお上手で、私演技を忘れて見惚れてしまいました」
「まあ、私など……。それでしたらマリアーヌ様の凛としたお姿も素敵でしたわ」
「悪役令嬢というのは美しい者なのだな。言葉の雰囲気からして禍々しい者を想像していたが、これからは見解を変えようかと思う」
「本当ですね、ダリアス様。四人のこのような美しいお姿を拝見できて、私も楽しかったです」
マリアーヌがバーバラとキャッキャウフフとお互いを褒めていると、それぞれの婚約者ダリアス・マーカーとドット・フェルラリーも己の婚約者に甘い笑顔を向けている。
「いい加減にしてよ!」
そのほんわかとした空気を壊したのは、ミーニャ・カレン。
周囲は勇気あるなぁという目を向ける。いや、本当に勇気がある少女だ。この国の次代の最高権力者達相手に真っ向から叫んだのだから。
後ろではすっかり鳴りを潜めてしまったベルナレット・キーヌが、口をポカリとあけている。
断罪されていたキャノン・マグレーバーも苦笑が漏れている。
その中で一人、声を荒げて雰囲気を壊すのだから彼女は勇気のある、馬鹿なのだろう。
フーフーと鼻息の荒い少女は、誰も咎めなかった事に勢いづいたのか、そのまま言葉を続ける。
「マリノチェ様達が悪役令嬢なのは、よ~っく分かった。やっぱり貴方達は酷い人よ。寄ってたかって被害者である私を貶めて、悪役令嬢仲間である自分達の友達を守ろうとするのだから。王子様達もなんなの? ちょっと……いや、凄く顔が良いからって自分達の婚約者を好き放題にさせてるなんて、男としてどうなの? 情けなくはないんですか? 婚約者が間違った方向に進もうとしているのなら、それを止めるのが男ってもんでしょう」
あいつ、本気で馬鹿だ~! と周囲の心は一つになった。あろう事か標的を王子達男性陣に直接向けたのだ。誰もが信じられないという様に呆けている。そんな周囲の空気に全く気付かない少女はまだ尚、気持ち良く演説を続けている。
「貴方達なんかに比べたらベルナレット様は流石だわ。私の話を聞いて、すぐに婚約者であるキャノン様を窘めてくれたもの。けれど彼女は何を言っても一向に改めてくれないから、仕方がなく私達は今日ここで彼女に婚約破棄を突きつけようと思ったのよ。少しは反省してほしいと思ったから」
彼女が悪態を叫ぶ中、ただ一人流石だと褒められた男、ベルナレットは体をフルフルと震えさせている。
当然だろう。騎士を目指す男がその主君として崇めたい男を貶されて、自分だけが褒められるのだから。なんという居心地の悪さ。
「ベルナレット・キーヌ」
突然自分の名を呼ばれ、男はビクリと体を揺らす。その声の主はもちろん、我が主君にと望む男、この国の第一王子だ。
そろりそろりと顔を上げると、この世のものとは思えない美貌の王子の笑顔がそこにはあった。
「手合わせをしようか」
「へ?」
ニコリと笑う王子は、ドットにあらかじめ持たせておいた木剣をヒョイと投げてよこす。
慌てて受け取ると、王子は木剣をヒュンっと一振りする。
「君は父君と同じように騎士を目指しているのだよね。毎日昼夜問わず頑張っているとキャノン嬢から聞いた。腕前を見たい。手合わせをしようじゃないか。遠慮はいらないから、かかっておいで」
王子の言葉に皆はスッと場所をあける。
ベルナレットは蒼白になる。殿下に剣を向ける? できる訳がない。彼は私が一番に守らないといけない方なんだ。そんな方にいくら木剣の練習といえども、もしも怪我などさせたら……。
ベルナレットは必死で断る言い訳を考える。
そんな彼を見つめていた王子は、溜息を吐くと一言。
「分かった。もしも君が私に勝ったら、今日の事は全部不問にしてあげる。婚約破棄を望むなら許可もしよう」
「ほ・本当ですか?」
ベルナレットはようやく顔を上げて、王子の顔を見る。
「本当だよ。その代わり私に負けたらどうなるか……分かるよね。これだけ学園を騒がせた上に、我々に悪態をついたんだ。彼女もろとも無罪放免って訳には、いかないよね」
ニヤリと笑った王子の顔に、ベルナレットは身を震わせる。
「私のためにもやっちゃってください、ベルナレット様」
ミーニャの声援が煩わしい。
……この王子は常に笑顔を絶やさず、穏やかな理想の王子と呼ばれていた。だが、ここ最近は少し違った噂も耳にするようになった。
王子は本当は、恐ろしい方なのではないかというもの。
確かに王子と言う立場の方が優しいだけでは職務を全うできるとは思えないが、その恐ろしさが普通ではない。怒らせると何をするか分からず、使えるものは王族権限だろうと裏取引だろうと躊躇なく何でも使うという、最も手におえない未知の恐ろしさなのだ。
だが、それはあくまで噂。自分は王子のそんな姿を見た事もないし、それに何より王子に負ける要素が自分には全くない。
ベルナレットは王子の目を真っ向から見据える。
確かに無礼を働いたのはこちらかもしれない。上位の者に対して引かなかったし、ミーニャに至っては、暴言まで吐いたのだから。それに関しては自分も思うところがあるし、ミーニャとの仲は改めて考えた方が良さそうだが、今はこちらを優位にたたせたい。
こちらはあくまで正義を貫いただけ。本来の非は向こうにある。
要は勝てばいいのだ。勝ってこちらの正当性を、場所を変えてしっかりと聞いてもらえれば何も問題はない。
そう結論付けたベルナレットは、木剣を構える。
そうしておもむろに王子に木剣を向けた。
「本気でいきます。受け身ぐらいはとれますよね。怪我はさせたくないので」
王子は微笑んだまま、おいでと挑発する。
その拍子にベルナレットが地を蹴った。
「でやあああぁぁぁ!」




