神々が助けてくれるそうです
「まず初めに……ごめんなさいね。私達は全部知っているの。貴方がミーニャ・カレン男爵令嬢にいじめられて、婚約者のベルナレット・キーヌ様をとられそうになっている事を」
バーバラ様の説明は、そんな言葉から始まった。
全部知っている? 私がひた隠しにしていた事、全部?
「……え?」
力のない声が、私の口から出る。
「貴方の婚約者が貴方にどのような態度をとるか見させてもらうために、先程の場所にいたのだけれど、結果は私達が想像している以上に進んでいるみたいね」
そう言って話をしてくれた内容は、まさに衝撃だった。
黒の石……操る? 何、それ?
私はシーツをギュッと握る。手に汗が吹き出しそうだ。
「ベルナレット・キーヌ様の態度は、もしかしたらその石の力によるものなのかもしれませんが、本当にミーニャ・カレン様に惹かれているのかもしれません。それは事が終了し、本人にたずねないと分からないところではありますが……キャノン様はどうなされたいですか?」
「……どう、とは?」
「ベルナレット・キーヌ様を取り戻したい? それともこのままミーニャ・カレン様に渡して、いじめの事だけ断罪しますか?」
………………。
どうしよう……分からない。だって、そんな事、言われても……。
「大丈夫? いきなり言われても困るよね」
「マリノチェ様……」
私が混乱する頭を抱えていると、マリノチェ様が優しく背中を擦ってくれる。
その横で腕を組む王子様が、あっさりと聞いてくる。
「深く考えなくていい。話はとても簡単だ。君が奴をどう思っているか、好きか嫌いか? それだけだよ」
私が彼をどう思っているか? そんなのは簡単だ……。
「正直……ついて行けません」
そう、ついて行けないという言葉が、しっくりくる。
好きか嫌いかなんて事は……分からない。だって貴族として決まった婚約は、自分の感情でどうにかできるものではないのだから。けれど婚約者として歩み寄ろうと必死に頑張っていたのは、私だけ。それだけは分かる。
ベルナレット様、彼からは一切そんな気持ちは伝わらなかった。だから私がいつもタオルを入れている袋を横に置いているのに、渡せないという状況にも気付かずにいたのだろう。
私に関心がない。そんな方にこの先、一生ついていけるかとなると……無理だろう。
そう結論付けた時、扉がノックされた。
入室の許可と共に現れたのは、確か二年のマリアーヌ・フォンデュ様とドット・フェルラリー様。
数日前に少し噂になった方達だ。
確かフォンデュ様の元婚約者が問題をおこして、学園をやめたとかなんとか。その際、彼らも巻き込まれて一悶着あったらしいが、王子様を始め雲の上の存在の方達が味方な上、皆が好意的なので彼らは何事もなく幸せに学園生活を送っているそうだ。
そういえば、デュオ様も一時期噂があったけれど、いつの間にか消えていたなぁ。
「遅くなってしまい、申し訳ありません」
フォンデュ様とフェルラリー様は、ペコリと一礼して入って来た。
マリノチェ様が手招きで、私の寝台付近に二人を呼ぶ。
「こちらこそ、急に呼び出してしまってごめんなさいね。けれどキャノン様の現状を考えると、マリアーヌ様にお話しいただくのが一番良いかと思って」
「光栄ですわ。私をお呼びいただいたという事は、彼女は以前の私と同じ立場だと考えて宜しいでしょうか?」
「ええ。淑女の鑑のようなご令嬢よ。だけど、今ご自身の気持ちが少し見えたみたい」
「……分かりました。初めまして、キャノン・マグレーバー様。私はマリアーヌ・フォンデュと申します。こちらは私の婚約者ドット・フェルラリー様です。よろしくお願いしますわ」
ニコリと笑うお姿はとても綺麗で、流石にマリノチェ様達と比べる訳にもいかないが、彼女もまた確実に美しい方だと確信できる。
そんなフォンデュ様の後ろにいる婚約者と名乗るフェルラリー様は、彼女をとても大事にされているのだろう。私に会釈をしながらも、視線はフォンデュ様から離れない。
「話はユリアーズ様から伺いました。辛い思いをなされましたね。私も、少し経験があるのでお気持ちはお察しいたします」
「経験?」
「私にも以前、心が通じ合えない婚約者がいました。彼は自分が一番大事な人だったので、私は貴族の娘として心を殺して彼に嫁ぐつもりでいました。けれどそこを助けてくださったのが、こちらにいる殿下とユリアーズ様をはじめ皆様です。私は彼に暴言を吐かれてぞんざいに扱われておりました。その彼の様子で周りからも……。私はそれが貴族の娘として、我慢する事が当たり前のように思っていたのです。けれど違うと。私も自分の望むままに生きていいのだと皆様が教えてくださいました。そうして前を向いた先には彼が居ました。ドット様は本当の私を見てくださいます。こんな幸せが私の身におこるなんて、あの時の私には想像もできなかった。今の私は本当に幸せです」
そうしてそっと後ろにいるフェルラリー様を見る。彼は優しく頷くと、彼女の腰に手を回す。
そんな二人の姿に、私の涙は頬をつたった。
「……私にも、そんな風に私を見てくださる方が現れるでしょうか?」
「ええ。貴方が前を向いて生きていかれるのなら」
力強く頷いてくれるフォンデュ様に、泣き崩れるように手を差し伸べた時……。
「いなければハリーが紹介してくれます。だから安心して」
………………。
差し伸べた私の手はその場で固まる。突然のマリノチェ様の言葉に目が点になった。
えっと……ああ、私以外の皆様も目を点にしている。
腕を掴まれた王子様だけが、手で顔を覆っていた。
「あのね、そこまで俺が関与する訳には……」
「いかないのは分かってる。でも、でも、どうしても見つからない時は、力を貸してくれるでしょ? だって困った時はハリーに頼めば必ず解決してくれるもの」
「何、その困った時の神頼み的な発想は?」
「え? だって私にとったらハリーは神様でしょう? いつでも助けてくれるもの」
「ティモン、マグレーバー嬢に相手ができない場合は、王族権限でいい男を探せ!」
「はあぁ~? 王族権限そんな事に使うな。エリーゼ、ユリアーズ様がからむとハリーは馬鹿になる。ユリアーズ様のおねだりを止めてくれ」
「……いつもなら止めるんですけど、これは、いいかな? なんて」
「エリーゼ、被害被るのは俺だぞ」
「ああ、その時は私も手助けしよう。マグレーバー嬢はどういった男が好みかな?」
「まあ、ダリアス様ったらお優しい。微力ながら私もお手伝い致しますわ」
……なんだが、話が凄い方向に向かっている。
マリノチェ様が王子様に可愛くおねだりして、王子様があっさりとそれにおちてサラデュラ様に無茶ぶりして、ガルノヴァ様に助けを求めたがそれも見事にかわされて、マーカー様とデュオ様が助けてくださると……え? それ全部私のお相手の話?
私が呆然としている間にも、マリノチェ様の肩を抱く王子様にサラデュラ様が小言を言い、ガルノヴァ様がまあまあと宥めている。マーカー様とデュオ様は二人でどんな人がいいだろうと盛り上がっている。
そしてクスクスと隣ではそんな光景を見ながら、フォンデュ様とフェルラリー様が笑っている。
唖然としている私と目が合ったフォンデュ様は、笑いながら私の耳元にそっと囁く。
『安心してくださいな。こんな素敵な方達が味方になってくださったのです。マグレーバー様の未来は約束されましたよ』




