真犯人はお前だ
それまで、静かに成り行きを見守っていた周辺が騒めく。
ドレスを切り裂いた者として王子様が名を上げ罰を与えたのは、責任をとらせろと騒いでいた張本人、イルミス・アロウェンその人であった。
え? イルミス様が……なんで?
イルミス様も訳が分からないのだろう。眉間に皺を寄せている。
「は? 何を仰っているのですか? そのドレスを切り裂いたのは、そこにいるマリアーヌです」
「ティモンが証拠は揃っていると言ったはずだが。君の犯した行為を見抜けぬほど、我々が間抜けだとでも言うのか?」
「い・いえ、滅相もない。そのような事は決して……ただ、僕はやっておりません。何故僕がそのような事をする必要があると言うのですか?」
尚も反論するイルミス様に王子様は『往生際が悪いなあ』と呟く。
そうして再びイルミス様の目を見ると、しっかりとした口調で話始める。
「君が怪しい行動をとっているのを見た人間がいるんだよ。ティモンがその詳細を全てまとめて、こちらに記してある。不服ならばこちらを一つ一つ読み上げてやるが、聞きたいか?」
え? と皆が王子様達に注目する。まさかこの短時間で証人を見つけたの?
私が切り裂かれたドレスを見つけて、ここに怒鳴り込んできたのはつい先ほど。
王子様がやって来たのは、その数分後よ。それで内容を聞き付けて、ティモン様が証人を見つけたと? いや、いや、どれだけ優秀なのよ、ティモン様。
しかもこの様子から見て、全て王子様本人が指示を出していたのでしょう?
怖すぎるわ、王子様。
「ま・待ってください。怪しい行動って、僕が何をしていたと言うんですか?」
イルミス様は慌てて反論する。確かに怪しい行動と言われても具体的には何をしていたか分からない。
「君が犯人であるという行動だよ。そのドレスが置いてあった部屋付近で、ウロウロとしていた君が目撃されている」
「そんな……偶然通りかかっただけかもしれないじゃないですか。それに、その人は僕を見たと言っているのですか? 男の僕を? だって、もしも犯人が僕だとして、男の僕が淑女のドレスを置いてある部屋に入れば、もっと騒ぎは大きくなるはずです。証人が何人いるのか分かりませんが、あきらかにそれだけではすまなくなるでしょう? それなのにその人は、僕だと断言できるのですか?」
イルミス様が必死で訴える。そりゃあ、そうよね。このまま黙っていたら犯人にされかねない上に、評判はがた落ち。イルミス様の学園での立場はなくなってしまうもの。
それに、犯人がイルミス様なんて事、ない、ない、あるわけないじゃない。
イルミス様は黒の石の力で私の虜なのよ。その私に危害を加えるなんてそんな事、するわけないじゃない。
イルミス様も言っているように、それこそ女子の衣装を置いている部屋に男子が入ったら、変態のレッテルをはられちゃう。
イルミス様は見た目はとても可愛いけれど、流石にそれはやらないでしょう。
私は堪らず、王子様とイルミス様の間に割って入った。
「……あの、お言葉ですけど、王子様は間違っています。イルミス様が、私をお好きなイルミス様がそのような事、するはずないじゃないですか」
「へえ、アロウェンは君が好きなの?」
王子様は面白がるような、試すような口ぶりで私が吐いた言葉をリピートする。
その様子に私はカチンときて、言い返す。
「もちろん……」
「ちょっと、誤解されるような事、言わないでよ!」
その瞬間、グイッとイルミス様が私の肩を後ろに引っ張る。
イタッ。え? イルミス様?
「ち・違います、殿下。僕は、こんな女どうでもいいんです。生意気なマリアーヌにいじめられているから、ちょっと可哀そうになって助けてあげただけなんです。僕の優しさです。好きなどと勘違いされるなんて、信じられない。いい迷惑だ。二度と殿下の前でそんな妄想はかないでよね」
私を押しやり前に出たイルミス様は、王子様には懇願するように、私にはキッと睨みつけながら、怒鳴り散らした。
「い・イルミス様?」
「君の言う助ける事に、どうして女装をする必要があったんだい?」
ビクッ!
王子様の美声が良く響く。決して大きな声という訳ではないのに、イルミス様は驚きに体を震わせはじめた。
「で・殿下?」
「先程も言っただろう。ティモンが君の行動、全てまとめていると。君は衣装を置いてある部屋に、女生徒になりすまして入ったね。ご丁寧にマリアーヌ嬢に似た鬘まで被って。周囲を警戒する君の挙動不審な態度は、学園を警護する者にとったら不審者でしかなかったんだよ。分かるだろう。証人は私の護衛の騎士だ。人の顔や特徴を覚える訓練をされた騎士が、君を間違えると思うかい? それに君は人よりも優れた外見を持っているんだろう。女生徒に成りすましたのなら、さぞや愛らしい美少女になったのだろうね。ならばどれ程隠そうと、無意識に注目を浴びるのは致し方ないのでは?」
つらつらと信じられない言葉をかさねる王子様。
え? 女装? イルミス様が? いや、似合うかもしれないけれど、女装って……私の攻略対象者が? 私と一緒にスカートひらひら……。
い・い・いやああぁぁぁ~~~!
私はプチパニックに陥ったが、周囲も似たようなもので皆唖然と口をあけている。
マリアーヌもドットもなんともいえない表情で、イルミス様を見つめている。
当の本人、イルミス様はというと、顔面蒼白で固まってしまったようだ。大きく目を見開き、指一本動いていない。
「残念ながら、流石に私の騎士も女性の衣装が置いてある部屋にはついていけなかったので、少し憶測も入るが、今日のメモリー・ディアス嬢は最後の授業でそのドレスを身につけたそうだな」
王子様が私の名前を知っている。ていうか、私の行動を知っている。怖い。
「一応その時はなんともなかったそうだ。そして女生徒に成りすました君が、衣裳部屋に入った。その際手元には小さな袋を抱えていたそうだな。騎士の見解ではハサミなのではないかというが、そこはこの後、君の了承を得て捜索させてもらおう。処分できる時間は無かったから、君の鞄にまだ入っているだろう」
いつの間にか王子様やティモン様にも負けぬ劣らぬイケメンが、鞄を持って王子様の横に立っている。
この話の流れから、十中八九イルミス様の鞄だろう。
そこで私はハッと気付く。このイケメン、もしかしてダリアス様? そうよね、そうよね。こんなイケメンがぞろぞろいる訳ないもの。王子様とティモン様と一緒にいるところからしても、ダリアス様で決定。いや~ん、カッコイイ~。なんて、今はそれどころじゃないわ!
脳内花畑になっている私を放っておいて、王子様の話はまだまだ続く。
「君が衣装部屋に侵入した後に、彼女は切り裂かれたドレスを発見して、ここに怒鳴り込んで来た。どう考えても君しかいないんだよ。この騒動の犯人は。それでも穏便にすませる事もできたんだけれど、他ならぬ君が犯人に責任をとらせろと言ったのでこの運びとなったわけだが、まだ反論はあるかい?」




