邪魔してるけど応援してるよ
「ドット・フェルラリー、君はマリアーヌ・フォンデュ嬢が好きか?」
「は? え、あっ」
「で・殿下、それは……」
「マリアーヌ・フォンデュ嬢、君はドット・フェルラリーが好きか?」
「ふぇっ」
「で・殿下!」
放課後、目の前で顔を真っ赤に染める二年生の二人は、三年のハリオス・イーブ・デュラリオン第一王子に呼び出され、空き教室の一室(私達が普段、密会している教室)に彼の婚約者と友人四名に囲まれた席の中央に座らされ、なんの前触れもなく、ズバリ本心を聞かれている。
……お気の毒……の一言である。
周りを見れば、友人四名も渋い顔をしている。この状況に彼らも同情しているのだろう。
しかし、最初こそ困惑していたドット様だったが、ハリーの言わんとする事を理解したのかキッと顔を上げ、ハリーの顔を真正面から見つめる。そうして「殿下の仰る通りです」とハッキリとした声で告げた。
「私はマリアーヌ・フォンデュ嬢を、心から好きになりました。最初は彼女に悪い事をしたと言う気持ちから、どうしても謝罪をしたくて彼女に近付きました。けれど、彼女の心の清らかさを感じ、自然と惹かれていったのです。彼女に婚約者がいるのは、十分理解しております。けれど彼女を知れば知るほど、この気持ちを抑える事ができなくなったのです」
そうして「彼女は何も悪くはありません。私が勝手に周りをうろついていたのです。罰を受けなければいけないのでしたら、どうぞ自分だけにお願いします」と頭を下げる。
その行動に、隣にいたマリアーヌ様も弾かれたように頭を下げた。
「わ・私も彼の事をお慕いしております。罰を受けるなら私も一緒に……」
そんなマリアーヌ様の行動に、隣にいたドット様は驚きながらも顔を真っ赤に染める。
「ま・マリアーヌ嬢、本当ですか? 本当に俺の事……」
「で・殿下の前で、う・嘘などつけるはず、ないではないですか。ほ・ほほ、本当です」
「では、俺達……」
「……ドット様……」
「はい、そういうのは後でじっくりどうぞ。ナーシャ嬢の推測通り、二人は両思いだね。ならば話は早い。フォンデュ嬢、伯爵に相談してアロウェンとの婚約を破棄してもらいなさい。それとフェルラリーは彼女との婚約の手続きを子爵に頼め」
初めてお互いの気持ちを知った二人が、甘い雰囲気になりかけた瞬間、ハリーはそれを容赦なくぶった切る。そしてこれまたあっさりと、解決策を論じる。
いや、まあ、そう望んで集まったんだけれどさ、もうちょっと時間というか、説明とかあげた方がいいんじゃないかな? ほら、二人共吃驚して目を真ん丸にしている。
「あ・あの、殿下……」
どうにか声を振り絞ったドット様に、ハリーはニコリと笑う。
「フェルラリーも知っているだろう。マリアーヌ嬢の婚約者アロウェンは、彼女を蔑ろにしている。婚約者として見ていないんだ。このままではマリアーヌ嬢は不幸になる。私の婚約者ユリアが、それをとても心配していてね。どうにか彼女を幸せにと奔走している時に君が現れた。ならば話は簡単。君が彼から彼女を奪って幸せにしたらいいんだよ。君の家は彼女の家より爵位が下とはいえ、手広く商売をしていて、下手な上級貴族より余程裕福だ。マリアーヌ嬢の父親フォンデュ伯爵も、君なら娘の新たな婚約者として認められるんじゃないかな?」
つらつらと言葉を重ねるハリーに、驚きを隠せないでいたドット様だったけれど、しっかりと理解はしたようだ。君なら認められるとハリーが太鼓判を押した事により、自信をもてたのか「殿下はそのように思われますか?」と話に食いついてきた。
いまだに動揺しているのは、マリアーヌ様だけ。
キョロキョロとドット様とハリー、そして周囲を見渡し、最後に私に助けを求めるような目を向けてきたが、私はニコリと微笑みだけ返しておく。まあ、こうなったら殿方に全部お任せしましょう。
尚もアタフタとしているマリアーヌ様がとても可愛い。
そんなマリアーヌ様をおいて、ドット様とハリーは話し続ける。
「フォンデュ伯爵は、アロウェン伯爵との繋がりに未練はもたれないでしょうか?」
「私の調べたところ、両家はそれほど仲が良いという訳ではないし、婚約した当時にちょうど商売の取引上、都合がいいというだけで結んだ縁のようだ。今はその商売も終了し、残ったのは名だけの婚約だけだろう。両伯爵にとってもそれほど重要視する案件ではなさそうだ。フォンデュ伯爵から破棄してもなんら問題はないし、アロウェン伯爵も慰謝料を払えばすんなりと承諾するだろう。それを全て君が引き受けたら、君達の婚約はもっと簡単にできるかもしれないね」
ハリーの言葉にドット様は、ガバッと立ち上がり力強く頷いた。
「払います。父に頼んで一旦フェルラリー家から出してもらって、私が将来働いて返します!」
肯定するドット様に、今度はマリアーヌ様が立ち上がり、慌ててドット様を止めようとする。
「ドット様、それはいけません。これは私の問題で……」
「二人の問題です!」
「!」
余りの迫力に、マリアーヌ様がビクリと体を震わせる。その姿に苦笑するものの、ドット様は詫びる様子もなく、ジッと彼女を見つめた。
「……自分の問題なんて、そんな寂しい事言わないでください。私は……俺は、これからの二人の、将来の問題だと思ってる。今、奴から貴方を奪える機会が目の前にあるのに、それを見過ごす事なんて俺にはできない。改めて言います。私は貴方が好きです。どうか私と婚約を、そして将来は結婚してくれると約束してくれませんか?」
話しながら、膝をつくドット様。突然の求婚に驚きながらも、嬉しさがこみ上げるように、涙目になるマリアーヌ様。
「……ドット様……ありがとうございます。すごく、すごく、嬉しいです。ですが、大柄な気の強い私で、本当にいいのですか?」
「私の目線よりも低い貴方のどこが大柄で、暴力をふるった男を簡単に許しておしまいになる心優しい女性の、どこを見て気が強いといえるか分かりませんが、私は貴方がいいです」
その言葉にマリアーヌ様の瞳からは雫が零れた。ドット様はその涙にコクリと喉を鳴らすと、そのまま意を決するように話を続ける。
「……この際だから正直に話しておきますが、私は一時何故かメモリー・ディアスという少女を愛しく思った事があります。今思えば本当にどこか良かったのかさっぱり分からないのですが、その時は彼女の事が可愛く見えて、それで彼女に慕われていたアロウェンが婚約者持ちだと聞いて、目の前で悲しそうな顔をしながら森に行く約束をしている。これも逢引きだよねと言う彼女が可哀そうになり、図書室の騒動となったのです。ですが私にとってそれらは、マリアーヌ嬢というかけがえのない存在と出会える大切な時間だったのですね。今私は、心より貴方が愛しい」
「……ドット様……」
そっと寄り添う二人を笑顔で眺めながら、私達は固まる。
爆弾発言きた!
ドット様とマリアーヌ様の求婚の様子を、微笑ましくも涙ながらに見つめていた私達は、突然のドット様の暴露に目を剥いた。
え? え? え? まさかヒロイン、黒の石の力をドット様にも使っていたの?
慌ててハリーを見上げると、ハリーも驚きを隠せないでいたようだが、コホンっと咳をしてドット様に話しかけた。
「……あ~、折角の二人の時間を邪魔して悪いんだが、その話、少し詳しく聞かせてくれないか?」
「え? あ、はい。どのような事でしょうか?」
ハリーが一世一代のプロポーズの途中に口を挟んだにも関わらず、ドット様は律義にもしっかりと答えようと真顔でハリーに頷く。
マリアーヌ様は私達の存在を忘れていたのか、真っ赤になって俯いてしまった。可哀そうだけど、ごめんね。これは放っておける案件ではないのだよ。
「うん、そのメモリー・ディアス嬢とは、君はいつ知り合ったんだ?」
「ディアス嬢ですか? 二年になって少ししてから友人の紹介で出会いました。友人が気にかけている少女という事で、友人との仲を取り持つような気持ちで食事を共にしたりしていたのですが、何故か彼女の事が気にかかるようになり、なにくれと世話を焼くようになりました。もちろん、友人と共にです。図書館にいたあの二人です」
「……こんな事を聞いて申し訳ないが、三人共が彼女を気に入っていたのかい?」
「はぁ、まあ、そうですね。けれど私を含め二人共、彼女とどうにかなりたかった訳ではないんです。アロウェンが彼女の思いを受け入れるのであれば、それに越した事はないというか。彼女が笑っていてくれたらそれでいい。みたいな感情だったんです。けれどアロウェンには婚約者が既にいて、いい加減な態度をとっているという話を聞いて、いてもたってもいられなくなり、あの図書室での騒動となりました」
正直、図書室でのイベントは確かにあった。あったんだけれど、少し内容が違っていたのだ。違っていたから私もハリーも気付かなかった。
本当のイベントでは、図書室でメインの攻略対象者とヒロインは一緒にいて、仲良く勉強をしていたのだ。そこに悪役令嬢が登場して、ヒロインに難癖をつける。そこで他の攻略対象者もやって来て皆でヒロインを守るというのが、小説のシーンだったはず。
けれど現実では、攻略対象者が一人違う者に絡まれていた。その上、ヒロインの姿はどこにもなかった。これではあのイベントと一致する訳がない。
しかも攻略対象者を助けたのが悪役令嬢で、その悪役令嬢に求婚しているのがその時の悪役。結果的には良かったものの、なんだがよく分からない状態になっている。
ドット様の話を聞いて私達は、二人には一旦帰宅してもらう事にした。
ドット様は「ありがとうございました。皆様に背中を押していただいて、自分のなすべき行動が決まりました。必ずマリアーヌと幸せになります」と、それはそれは攻略対象者にも負けぬほどの美しい笑顔で頷いた。
マリアーヌ様もどこのヒロインですか? と聞きたくなる程の初々しくも可憐な表情で淑女の礼をする。
二人ははにかみながらも、手を繋いで去って行く。正確にはエスコートなのだが、もう恋人同士の手繋ぎにしか見えない。
しかもドット様、もうマリアーヌ様を呼び捨てにしている。彼はこうと決めたら、とても行動の早い人なのかもしれない。
二人が去った後、残された私達はなんともなしに先程の席に戻る。
「……黒の石って、対象者は一人じゃなかったのか? そんな複数にも使える強い力が宿っているのか?」
最初に疑問を口にしたのはティモン様。うん、今皆が頭の中に浮かんでいた事だよね。
その答えには、もちろんハリーが答える。ただし、いつものような決定的な言葉ではないけれど……。
「いや、石に宿る力は限られているだろう。これは俺の仮説だが、石の力は決まっていて、その力を一人に向けた場合は、その者を意のままに操る事もできるが、複数の場合はその力が分配され、一人一人に向けられるのはごく微量のものとなる。その為、効き目としてはフェルラリーも言っていたように、彼女の笑顔が見たい。くらいの衝動なのじゃないか? アロウェンに対してもそうだ。だからお前達程効き目が薄そうなのも、そう考えると納得できると思わないか?」
ティモン様とエリーゼが頷く中、ダリアス様とバーバラが不思議な顔をする。
「黒の石って、何?」
あ、二人にはこの話してなかった。まぁ、こうなったらもうどっぷりと巻き込んじゃってもいいよね。
私はハリーをチラリと見る。コクリと頷くハリーに、私は深呼吸を一つして、ティモン様とエリーゼに話した内容を伝える。
悪役令嬢と攻略対象者、共に仲良く進みましょう♡
その上で考える。マリアーヌ様が幸せになった今、残るは我儘なあの二人。
ナルシストで自分が一番大事な攻略対象者と効き目の薄い石の力を使うヒロイン。
あれ? これもう放っておいてもいいんじゃない?




