こんなところに逸材が
「あ、マリアーヌ様」
私とエリーゼ、バーバラはマナー教室の帰りの廊下で、マリアーヌ様と一人の少女と出くわした。
「ナーシャ様、ご一緒でしたの?」
バーバラのその言葉に、私はダリアス様の妹の名前だと気付いた。そうか、彼女がダリアス様が言っていた妹さんか。そういえばどことなくダリアス様に似ている。水色の目なんてそっくりだ。
しかし、こうして一緒にいるって事は、しっかりと守ってくれているんだな。
ほっこりとした私がニコリと笑うと、ナーシャ様が「うっ、美女の微笑。眩し過ぎる」と何やらブツブツと言っている。どうしたのかしら?
「フフフ、ナーシャ様はユリアが大好きなんですって。友達と〔ユリアーズ様を見守る会〕なんていうのを結成したらしいですわ」
「キャー! だ・駄目ですわよ、お義姉様。バラスなんて酷いですわ」
「あら、ごめんなさい。でもとっても可愛らしい会なんで、ユリアも嫌な気しませんわよね」
あらあら、そんな会ができているなんて知らなかったし、必死なナーシャ様も可愛らしい。隣でマリアーヌ様が「私も入りたい」なんて言ってるのも、微笑ましいわ。
対象が私である事が不思議だけれど……。
私はバーバラとナーシャ様の、義理の姉妹の仲の良さをエリーゼと共に微笑ましく見つめた後、ナーシャ様にお礼を言うべく、彼女を見つめた。
「ナーシャ様にはお礼を申し上げますわ。私共の勝手なお願いを聞き入れて下さり、こうしてマリアーヌ様と一緒にいて下さる事、嬉しく思います」
「そ・そんな、私の方こそお礼を言わせて下さい。マリアーヌと仲良くなった事、すごく嬉しいんです。彼女とは気が合うし、楽しいし、何よりユリアーズ様大好き仲間として、ユリアーズ様の可愛らしい行動が聞けて、すごく幸せです。彼女を紹介してくださり本当にありがとうございます」
ん?
「私も皆様には何度お礼申し上げても足りぬほど、感謝しております。ナーシャと一緒にユリアーズ様の話をしていたら、一日があっという間で他の事がどうでもよくなりました。今とっても楽しいです」
んん?
私とエリーゼとバーバラは、笑顔のまま右に首を傾げる。
そんな私達を気にする様子もなく、二人は私の名前で盛り上がっている。
『ナーシャ様がユリア大好きっ子だって事は知っていましたけれど、マリアーヌ様とお二人でそんなに盛り上がっているとは、知りませんでしたわ』
『私の何がそんなに……?』
『ユリアとナーシャ様の存在が大き過ぎて、マリアーヌ様の脳内からアレが完全に消去されていますわね』
バーバラが二人の仲の親密度に、私が私の話題で盛り上がるという不思議さに、そうしてエリーゼが、マリアーヌ様が苦しまれている婚約者の存在をスッパリ忘れている事に、三者三様首を傾げる。
「あ、授業が始まってしまいますわね。申し訳ありません。騒がしくしてしまいまして。私達はこれで……」
そうして時間がたってしまった事に、慌てたマリアーヌ様が頭を下げようとした時、後ろから声がかかった。
「あ、マリアーヌ嬢」
一人の男子生徒が、マリアーヌ様のそばに走り寄って来る。
「ちょうど良かった。これ、君が可愛いって言ったいた花だろう。学園の裏庭で見つけたんだ。自然に生えていたものだけど、その、良かったら……」
「まあ、わざわざ私の為に……。あ、手が汚れて……」
「ご・ごめん。汚い手で……あ、駄目だよ。ハンカチが汚れる」
「ハンカチなんて気にしないで。それよりも私の為に見つけてくれたんでしょう。ありがとう。その、嬉しい……です」
「マリアーヌ嬢」
……一体、これは何事?
私達はポカ~ンと、マリアーヌ様が男子生徒の汚れた手を拭きながら、嬉しそうに花を受け取る姿を見つめる。隣ではナーシャ様がニコニコと微笑んでいる。
そうして一番に声をあげたのは、バーバラ。
『ユリア、あの男子生徒、覚えていませんか? ほら、マリアーヌ様を突き飛ばした……』
『あ!』
バーバラの言葉に、私は彼の顔を思い出す。
そうだわ、図書室でマリアーヌ様と会った日、彼女を突き飛ばした男子生徒。すぐに謝罪を口にしたところから悪い人ではないと思ったが、だからといってこの光景は……分からない? 一体何があったのだろう?
ふとナーシャ様と目が合う。そうして彼女は、あっ! と思い出したかのように、私達のそばにやって来て、ヒソヒソと話始めた。
彼女の話によると、ナーシャ様がマリアーヌ様をダリアス様とバーバラに紹介された後、気が合う二人はいつも一緒に行動をとるようになった。
そんな時、彼がやって来てマリアーヌ様に突然、頭を下げたのだという。
「酷い事をしてすまなかった。本当に君には申し訳なく思っている。君には何も非はないというのに」
そう言って突然教室に入って来た男子生徒は、先日お兄様とお義姉様に紹介してもらった私の友人マリアーヌ・フォンデュの机の前に来ると勢いよく頭を下げた。
お兄様とお義姉様からは、彼女の婚約者がちょっと変わっていて彼女は彼と距離を取りたがっている。だから彼女を守ってほしいと言われていた。この生徒が件の婚約者か? と私は緊張したが、マリアーヌの様子からはどうやらそうではないらしい。
それどころか彼女もかなり困惑している様子だ。
「あ・あの、頭を上げてください。困ります」
「いや、そういう訳にはいかない。俺は君に謝罪しに来たんだ。一方的に暴力をふるった俺が悪い。言い訳できる余地もない。許してくれとは言えないが、せめて謝罪はさせてほしい」
そう言って必死に頭を下げる彼にマリアーヌは、苦笑をもらす。
「本当に頭を上げてください。私は大丈夫ですよ。怪我もしてないし、貴方を見て怖いとも思いません。だから気にする事はないですわ」
優しく微笑むマリアーヌに男子生徒は顔を上げて、唖然とした表情をする。
「少しも怒っていないのかい?」
信じられないという様にたずねる男子生徒に、マリアーヌは極上の微笑を向ける。
「ええ、なんとも。それよりもわざわざ謝りに来てくださっててありがとうございます。その行為を嬉しく思います」
一瞬にして顔を真っ赤に染め上げた彼が、マリアーヌに惚れないはずはない! とはその光景を余すところなく見ていたナーシャ様の言葉。
そして彼は事ある事に、彼女のそばをウロウロするようになったそうだが、ナーシャ様から見てもマリアーヌ様はそれを嫌がっているそぶりは全くないし、それどころか先程の雰囲気だ。
これは間違いなく両想い!
彼は子爵位とマリアーヌ様からは下の爵位になってしまうが、思い思われる人と一緒にいる方がいいよね。ナーシャ様は手放しで二人を応援しているようで、私達にも温かく見守ってあげてほしいと言った。
うん、これはハリーに相談してもいい案件だと思う。
私達三人はニ~コリっと笑ってナーシャ様に二人を任せ、その場を後にした。
良かった。どうやらマリアーヌ様は幸せになれそうだ。




