二人の関係
「申し訳ございません。皆様を巻き込んでしまいまして。なんとお詫び申し上げたらよいのか……」
「気にしないで。貴方も巻き込まれた被害者じゃない。そんな事より怪我がなくてよかったわ」
「淑女がむやみやたらに男性の揉め事に、口を挟んではいけません。今回は何もなかったからよかったものの、次は何かあるか分かりませんのよ」
「そうね、気を付けられた方が宜しいわ。周りの者がひやひやしてしまいます」
「……バーバラ嬢、エリーゼ嬢、すまないね。我が婚約者殿にもよく言っておくよ」
「「お願いしますわ、殿下」」
「え? なんで私?」
保健室で少女の診断が終わった後、少女は改めて私達に頭を下げた。
私が気にするなと言う横で、バーバラ、エリーゼの言葉にハリーが私の名を出す。あれ? 少女の話をしていたはずなのに、いつの間にか話題が私になっている。何故?
私が首を傾げていると、隣で少女がクスリと笑った。パッと目が合う。
「あ、申し訳ございません。その、マリノチェ様の印象が、少し違うので、つい……」
慌てて謝る少女。別に謝らなくてもいいけど、なんとなく周りに自分がどう見られているのか気になって聞いてみた。
「私の印象って、どんな感じ?」
近付いて少女の顔をジッと見てみる。少女は体をのけぞるようにして、ためらいながらも答えてくれた。
「え、あの、それはもう、淑女の鑑と申しましょうか、いつも凛としていて自信に満ち溢れ、それでいて優しい微笑を絶やさない美しき令嬢、学園の誇りです」
社交辞令二百%の模範解答である。
「私の教育の賜物だね」
そう言って後ろからハリーが私を抱き寄せる。私はハリーに教育されていたのか? 身に覚えはないが、それは別にいい。ちゃんと王子の婚約者としての威厳を保てているのなら。だけど、それならば本当の私は一体どんな感じなのだろう?
「じゃあ、今違う印象の私はどんな感じ?」
「え、え? あの、その……優しくって……気さくで、可愛らしい方だなって」
真っ赤になりながらも、褒めてくれる少女。私ってそんな風に見えるんだ。
「ほえ?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
「変な声上げない。まあ、私の婚約者は可愛いよ。それは間違いない。けれど君の婚約者は、ちょっと困った性格のようだね」
ハリーがチラリと少女に視線を向けると、少女はたちまち暗い顔をして俯いてしまった。
「彼は本当に貴方の婚約者なの? 貴方が突き飛ばされたというのに、顔色一つ変えてなかったように見えたわ」
バーバラがズバリ聞く。確かに彼は、一部始終を冷めきったように見ていた。
自分に話がふられると、オドオドと小動物のように震えるが、周りの……特に少女の事には全く反応を示さなかった。まるで他人が勝手にやっているとでも言いたげに……。
「……彼は、イルミス・アロウェンは確かに私、マリアーヌ・フォンデュの婚約者です。私達は共に伯爵家の者で、三年前に親同士が決めました。彼は昔から小さくて可愛らしかった。周りからも愛されていて、彼の婚約者はどのような可愛らしい方かと周囲の期待も大きかったようです。けれど、彼の親が決めたのは私のような彼よりも大きな気の強い女で、私は周囲から男女逆転だと陰口をたたかれました。仕方がないですよね。確かに私は彼より大きいですし、気も強いですから。そんな風に言われても言い返す事は出来ないですし……」
仕方がないと言いながらも、彼女は顔を上げない。だってそれは仕方がない事なんかじゃないと、自分でも気付いているからだろう。
彼より背が少し高いからってそれがなんなのだろう? 気が強いって貴族の令嬢ならほとんどがそうよ。そうでないとやってられない。私だって王妃教育の時に周りに侮られないよう気を強くもてと、そう教わっているもの。そんな事で彼が彼女を心配しなくていい理由になんかならないはずよ。
私が密かにムカムカしていると、ハリーがフムッと小さく頷く。
「君は大きいといっても、私より頭一つ分小さいだろう」
「え? はい、確かにそれぐらい……」
「なら、君は普通だ。彼が少し小さすぎるのだろう。まあ、彼もまだ子供だ。その内大きくなる。そんな事で男女逆転とはおかしな事だ」
「……殿下……」
「君は君が思っている以上に、ちゃんとした普通の令嬢だよ。何も落ち込む事はない。堂々としていろ。それよりも彼の性質の方に問題があるようだが……」
ハリーはチラリと私を見ると『イルミス・アロウェン。聞き覚えない?』と小声で聞いてきた。
暫し頭を捻っていた私は、唐突に思い出した。
四作目の攻略対象者! え? って事は、彼女は悪役令嬢? えええ~~~?
「ちょ・ちょっと待って。さっき男子生徒が絡んでいた理由って確か、婚約者がいるのに他の女生徒とも仲良くしてるって……名前、そう、メモリーって……まさか、メモリー・ディアス子爵令嬢?」
私が驚いてつい出してしまった言葉に、エリーゼが反応した。
「え? え? そうなんですか? 殿下?」
「だね。なんだか面倒くさいなあ」
三者三様の反応にバーバラと四作目の悪役令嬢であろうマリアーヌ様は、目を白黒させている。
「わ・私共に何か?」
「はっきり聞くけど、フォンデュ嬢は彼アロウェンが好きかい?」
「!」
私達の様子に不穏なものを感じたのか、マリアーヌ様が慌ててたずねてきた言葉に、ハリーはぶっちゃけすぎる言葉を返した。
「ハリー、それは……」
始めて会った一学年上の王子様に聞かれて、すぐに答えられる内容ではない。俯いてしまったマリアーヌ様の気持ちを慮った私はハリーを止めようとするが、ハリーに手で遮られた。
「いや、今までは相手だけが異常だったから、この世界のルールのもとにやってこれたんだけど、彼(攻略対象者)までが異常だとすると、婚約破棄した方が早くないかと思ってね。けれど、フォンデュ嬢が彼に未練があると言うのなら、それは避ける方に考える。女性を泣かせるのは心情的によろしくないからね」
ニコリと笑うハリーに呆れる私。
「散々相手を泣かせてきてよく言うわ」
「いや、泣かせてないからね。あいつら唖然とはしていても本気の涙は流していないよ。それに泣かせても、私的には所詮敵なんだし問題ないかなって」
……ハリーが鬼畜過ぎる。
ちょっと怖くなってスススッと距離をあけると、すぐにハリーの腕の中へと収容された。
はいはい、大丈夫、怖くないよ~という棒読みの声が、頭上で聞こえる。
ガクガク、ブルブル。
そんな私達を見ていたマリアーヌ様は、不意にプッと笑った。
「「?」」
「あ、申し訳ございません。お二人が余りにも仲が宜しいので、つい……そうですよね、婚約者とは生来そのような仲睦まじいお姿であるべきなんですよね」
いや、今まさに私は彼に怯えていたのだが……そんな事には気付いてもらえないようだ。
「このお二人は特別なのですが……貴方方お二人も、普通とは少し違う様な気がしますわね」
エリーゼもティモン様とは、今回の事がきっかけで以前以上に仲は良くなったが、元より気は合っていたので、マリアーヌ様達の関心がない様子は異様に映ったようだ。
「私が言うのもなんですが、婚約者でなくとも知人であれば関心はもつもの。貴方方二人……というよりは、彼は貴方という存在を理解されているのでしょうか?」
バーバラが無情にもハッキリと口にする。
バーバラも今回の件でダリアス様とは一時、気まずくなったものの、元よりダリアス様はバーバラを婚約者として配慮していた。
今はバーバラの本性を知って、少しでもそばにいようとかまい倒している。溺愛されるのも秒読みだろう。
そんな二人からしても、彼アロウェン様の姿は異常に見えたようだ。
「皆様の仰る通りです。彼は……イルミスは私に全く関心がありません。彼は、その、ちょっとご自身を好き過ぎる傾向があるようで、彼の興味は自分と自分を大切にしてくれる人、あと虫なんです」
「「「「!」」」」
ヤベー人、きた!




