面倒見のいい人ばかりだ
どうにか三作目の乙女ゲームのストーリーも回避できたみたいでホッとした。
三作目の内容は家同士の繋がりから始まったものだったから、三人がどのような状態だったが実態が掴むのが遅くなってしまった。
ハリーはなんとなく分かっていたみたいだったけれど、ダリアス様の気持ちがみえなかったみたいで、ダリアス様がヒロインにおちなければいいという事で様子を見ていたそうだ。
ダリアス様は余り自分の気持ちを話す方ではなかったし、必要以上に女性といる方でもなかったから、バーバラに嫌悪している様子もなく、ヒロインと会う回数もしれていたから、まだそれほど進展しているとは思わなかったのが事実。
けれどあのお茶会で初めて三人の内情を知り、私は慌ててハリーに相談したのだ。
その結果が今日の出来事。
ハリー曰く、ダリアス様は上級貴族。どうしても貴族の勘繰りをしてしまうので、私達がバーバラを庇ってしまうと反感を買ってしまうだろうと言う。
ならばどうするか? ハリーは第三者に口添えしてもらおうと言った。
バーバラとヒロインの状態を知っている人がいいと言うので、私はそれなら任せてとエリーゼと共に胸を叩いた。
だってそんなの、あのカフェにいた人以外いないじゃないか。
あの全てを近くで直接目にしていた人達。彼女達以外いない。
それは思った以上に成功したようで、周りの生徒からの援軍もあった。そうだよね、皆ちゃんとおかしいって思ってくれていたよね。
でもまあ皆が助けたいと思ったのは、単にバーバラの人柄によるものだったのかもしれないが。
彼女は上級貴族でありながら困っている人は放っておけないお姉ちゃん気質でもある。
身分問わず「何をしているの。邪魔ですわ。仕方がないですわね」と言って助けるのだ。最初は怒られると身構える人も、結局は一生懸命手を貸してくれる彼女に苦笑するのだ。
ああ、ツンデレだなっと。
私と彼女の出会いもそうだった。
彼女の前を歩いていた私がつまずいて、転びそうになったところを助けてくれたのだ。
「ありがとう」とお礼を述べると、彼女は眉を吊り上げて怒鳴った。
「簡単にお礼を述べてはいけません。貴方は私と同じ侯爵令嬢ですが、婚約者は第一王子でいずれは王太子妃となる未来を約束されたお方なのですよ。ああ、もう、こんなにスカートを汚して、自覚がない様ですわね。しっかりなさいませ!」
そうして私のスカートを、綺麗な白のレースの手袋でパンパンと叩いたのだ。
吃驚している私の手を取ると「貴方様は少しそそっかしい方のようですわね。私がエスコートして差し上げます。しっかりおつかまりあそばせ」と言って、私を目的地まで連れて行ってくれた。
その後、私が彼女に懐いたのは言うまでもない。
そんな彼女だから、婚約者とはいえ余り交流のないダリアス様がヒロインにおちるのなら、断罪イベントはおこさせないようにはするが、婚約破棄して優しい人を選ぶのもいいかと、私は勝手に思っていた。
けれど、先程の光景であっさり許したバーバラを見ていると、彼女はダリアス様を憎からず思っていた事が分かった。だから悲しそうだった。辛そうだった。そんなバーバラを見ているのは嫌だった。
けれど、バーバラの本当の姿を見たダリアス様が答えてくれて二人は微笑んでいた。
結果、私は大満足だ。
バーバラには幸せになってもらいたいな。まあ、ヒロインさんはちょっと可哀そうだったかな。まさかダリアス様があそこまでキレるとは思わなかった。でもそれも仕方がないか。ダリアス様がキレるのも分かる気がする。
カノン・グーラス男爵令嬢、彼女はヒロインという立場から、強制力や石の力で調子に乗り過ぎたのだ。
何もかも自分の思い通りに動くと、勘違いしてしまったのだろう。
彼女の言動から私達と同じ前世の記憶持ちで、XXXシリーズの愛好者である事は分かった。けれど、だからといってそれだけでストーリーを分かった気になり、何もせずに我儘勝手が通るなど思ってしまったのは、彼女の落ち度だ。
ヒロインって皆そうなのかな?
ゲームのヒロインはとっても頑張っていたように思うのだけれど、ゲームを知っている前世の記憶持ちがヒロインになってしまうと、先が分かるだけに努力を怠ってしまうのだろうか? それじゃあ、ただ単に我儘になるだけで、ヒロインの魅力は減少してしまう。
そんな事を考えていたら、口の中にカットされたリンゴが放り込まれた。
「ムッ」
「時間ないでしょ。さっさと食べられるもの食べて、午後の授業に行くよ」
淑女の口に勝手に食べ物を放り込むなと言いたいが、ハリーの言う事は最もだ。
私は慌てて口の中のリンゴを咀嚼した。
一度飲み込むと、また放り込まれる。次から次へと繰り返される行為に、私はあむあむと必死で嚥下する。そうして気が付けば皿の中身は空になっていた。
「雛鳥みてぇ」
「ユリア、気付きなさい。餌付けされているわよ」
隣でぼそりと呟くティモン様とエリーゼ。私が首を傾げると二人揃ってハア~っと呆れた溜息を吐かれた。
「まだ時間はあるな。これも食べていいよ」
そうして私の前に出されたお皿には、私の大好きなイチゴが乗ったケーキがある。
私は目をキラキラさせて、ケーキを出してくれたハリーを見る。
「いいの? ケイトにカロリー計算が分からなくなるから、外では甘いもの禁止だって言われているわ」
「大丈夫。ケイトの承諾はとってあるから」
私の侍女といつの間にそんな連帯をとっていたのか? 心底驚きながらも目の前に出された甘いものの誘惑には抗えない。
私はア~ンと口をあける。
「ん?」
私のそんな行動に頬を染めるハリーは、不思議そうな顔をしている。あれ? なんか間違った?
「リンゴと一緒で食べさせてくれるのかと思ったんだけど、違った?」
そう言うと、ハリーは慌ててケーキをフォークに刺して、私の口元に持ってくる。
「あむっ」
私はケーキの甘さに満足して、相好を崩しながら咀嚼する。
「美味しいね」
そう言ってハリーを見上げると……机に突っ伏していた。
どうした、ハリー? 何かあったの?
「……以前から思っていたけど、ハリーはもちろんの事ユリアーズ様も悪いよな」
「あれで自覚がないんだから、ハリオス様より質が悪いかも」
ティモン様とエリーゼの呟きに、私はまたもや首を傾げる。一体どうしたというのだろうか、皆して。
私は不思議に思いながらも時計を見る。次の授業の時間が押し迫っていた。
「あ、ハリー、ハリー、時間がないから早くして」
私は慌ててハリーの肩を揺らす。食べさせてくれないのなら、そのフォークを寄越せと。
ハリーは首を軽く振ると、分かっているという様に続きのケーキを口元に運んでくれる。
どうやらフォークを渡してくれる気はないようだ。そのまま私は素直に口を開け、無事に時間内にケーキを平らげる事に成功した。
あれ? ハリーは始終私の口に食べ物を運んでいて、自分はしっかりと食べたのだろうか?
そういえばティモン様が言っていたような……雛鳥みてぇって、あれはハリーが親鳥のようだからなのね。小さい頃からハリーに面倒みてもらっていたのが習慣になっていたから余り気にならなかったけれど、そうね、あれではハリーは私の母親のようだわ。
私は教室に戻ろうと一緒に歩いていたハリーに『おかんハリー、ありがとう』と心の中で手を合わせた。そんな私とハリーは目が合うと、とても嫌な顔をされた。
心が読まれたのだろうか?
しかし、イベントをおこすのは仕方がないとして、もう少し時間のある時におこしてほしいものである。できれば昼食時の食堂の廊下は、これで勘弁してもらいたい。




