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ホスト王子 悪役令嬢溺愛中のため ヒロイン達と戦います  作者: 白まゆら


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周囲が味方

「バーバラ、カノンに聞いたぞ。君はまた彼女をいじめたそうだな」

「そんな……私、そのような事はしておりません」

「彼女が座っている席を奪って仲間はずれにしたそうじゃないか。可哀そうに。彼女は泣きながらその場を去ったと聞いたぞ」

「去られた先でデュオ様にケーキをご馳走になっておられましたわ。満面の笑みで咀嚼されていたのは、私の身間違いかしら?」

「あら、私もそのように拝見いたしましたけれど……目が悪くなったのかしら?」

「それにあの席は薔薇の席ですわよ。マーカー様ならご存知ですわよね、この名称を。残念ながら彼女、グーラス様はご存知なかったようで、予約席と書かれたプレートの真ん前に一人で座っておられましたが……」

「給仕もお茶を出しておりませんでしたわよ。その意味をマーカー様ならお分かりになりますわよね。あの日はマリノチェ様の日で、カフェにも話が通っていたのですわ」

「それに何よりマリノチェ様に、いえ、私達に暴言を吐かれたのはグーラス様ですのよ。泣きながら去られたグーラス様の事は知っていても、暴言を吐かれたグーラス様を庇って、私達に謝罪までされたデュオ様の事はご存知ないのですか?」

「……え?」



 昼食時、食堂に向かう学園の廊下では明らかに上級貴族であろう洗練された青年が、己の婚約者であろう美しい令嬢に声を荒げたところ、思いもよらず周りの生徒に反論され、呆然としている。

 この場所好きだなぁ……人通りが多く、注目浴びるからわざとなんだろうな。そんなに悪役令嬢を人前で傷つけたいのかな? この時点で攻略対象者って婚約者から気持ちは離れているのかな? 等々と一人その光景をぼんやり見つめながら考えていると、腰に手を回してきたハリーが「彼女達は?」と聞いてくる。

 そう、バーバラがダリアス様にいわれのない悪事で抗議されているのを遮っているのは、あの日のお茶会のメンバーとその友人達。

 私達がでしゃばってしまうと、結託してバーバラを庇っていると思われてしまう。だから今回は彼女達、第三者に任せたのだ。

 バーバラは何も悪くない。それどころか彼女は優しい人だという事を、彼女と付き合いのない人達の口から言ってもらう。

 だってそれが、紛れもない真実だから。

 ゲームの強制力や黒の石の力で、ヒロインの言う事を真実だと思い込んでいる攻略対象者の考えを覆すには、これが一番の方法だと思ったのだ。

 彼女達の話を聞いていた周りの人の中にも、あの時カフェにいた人から口々にあの日の真実が交わされる。

「酷かったよなぁ、あの子。マリノチェ様の予約した席なのに、一緒に座らせてやるから周りに侍ろとか。自分より高位の令嬢方に凄い口きいて……めっちゃ引いたわ、俺」

「それよりもデュオ様に話しかけているマリノチェ様に、自分から話しかけていった下品な行い。彼女、本当に貴族?」

「しかもそれを注意して庇ってくれたデュオ様を、酷いって大声で泣き出すんだもの。貴族の前に貴方幾つって聞きたくなったわ」

「あの泣き声は酷かった。凄く耳が痛かったもんな。けれど流石マリノチェ様にお茶会に誘われた令嬢方は素晴らしかったよ。あの騒音に一切耳を塞ごうとはしなかったもんな。そんな事されたら彼女の立場はその場で速攻無くなっていたよ」

 そう言って次から次へと出てくる真実に、ダリアス様は目を白黒させている。

 無理もない。自分が一心に信じていたヒロインがこんな愚かな行動をとっていたとは、露ほどにも思わなかっただろうから。

 ダリアス様の中でヒロインは、自分の婚約者にいじめられている可哀そうな女の子でしかなかったはずだ。それが真実は、可哀そうな女の子はただ単に礼儀知らずの無知な子供。

 そして自分の婚約者は、その悪ガキを正そうと必死で庇ってきた心優しい女性だったのだから。

 そうしてバーバラと目が合う。

 青くなるダリアス様にバーバラは……苦笑を返した。

 ハッとなるダリアス様。

 ……ヒロインの呪い……解けたかな?

 そんな中、ヒロインの話はまだまだ続く。そして決定打が打ち出された。

「いやいや、一番酷いのは殿下に会わせろって言葉だろう。婚約者のマリノチェ様に自分が王子様に会いたいから会わせろって、お前何様だよって感じ。しかも最後には席を譲ってやる代わりとして言っていただろう。王子様との面会が席を譲っただけで果たされるなんて、なんて安っぽい王子様なんだって話」

「!」

 その言葉にダリアス様は勢いよく振り返り……。

「私はそんな安っぽい王子じゃないからね」

「「「!」」」

 気配を消していたハリーと私の存在に気付いた全員が、慌てて振り返る。

 人を掻き分け一目散に駆け寄ってきたダリアス様が、ハリーに頭を下げる。

「も・申し訳ない、ハリオス。俺、いや、私は……」

「うん、君が私に謝る必要はないよね。君が謝らなければならないのは、誰?」

 そう言われて、ゆっくりとバーバラに向き直るダリアス様。

「……私は良いのですわ、ダリアス様」

 人が見ている前で婚約者に謝罪させるわけにはいかないと、行動を止めるバーバラ。苦笑をもらしながらもコクリと頷く。

「バーバラ、君は……」

「ダリアス様、発見! もう、私を置いて先に行くなんて酷いです。心細くて泣いちゃいそうでした」

 バーバラに何かを言おうとしたダリアス様に、突然後ろから抱きつく少女。今話題のヒロイン。カノン・グーラス男爵令嬢だ。

 凄いなぁ、この子。今までヒロインが攻略対象者に甘えてくっつくシーンは幾つかあったけれど、後ろから腰に抱きつく姿は初めて見た。

 しかも、まだ完全に攻略しきれていない人物なのに。婚約者のバーバラを目の前にしてこの行動、絶対的な自信なのか、はたまた……本当に何も考えていないのか?

「うわあぁぁ!」

 驚いて飛びのくのは、ダリアス様。

 うん、良かった。どうやら正気のようだ。そこで喜んで受け入れていたら、もう本当に助けてあげる事はできなかったからね。

「ダリアス様、どうしたの?」

「どうしたもこうしたも……離してくれ。君に抱きつかれるいわれはない!」

 自分の背からひょっこり顔を出すヒロインに、ダリアス様は頭を掴んで引っぺがす。あ、ちょっと酷い。

「ひど~い、ダリアス様。本当にどうしちゃったんですか? いつもは妹みたいで可愛いって頭を撫でてくれるのに~」

「それはバーバラが君を庇護対象にしていたからだ。婚約者の私も手助けができればと……あくまでそれだけだ。君がバーバラの妹分をやめるのならば、私の妹分としての立場もおりてくれ。君にこれ以上、懐かれる理由はない!」

 そう言い切るとダリアス様はバーバラに向き直り、頭を下げた。

「すまない、バーバラ。私は本当に君の助けができればと思っていたんだ。彼女が貴族らしからぬ態度をとっていたのは分かっていたし、バーバラが母上であるデュオ夫人に頼まれていたのも知っていた。だから私が引き受ける事で、君が少しでも楽になれるのならと思って、君を誘わず二人きりで会ったりもした。そうしていると何故か彼女からは、君の酷い行動ばかりを聞かされるようになった。真実を確かめようと君にたずねても、君は明確な答えをだしてはくれない」

「それは……彼女が貴族の作法に慣れていなくて、辛かったのかとも思っていましたし、何より彼女にそのように言われてしまう自分の態度も、悪かったのかとも反省しておりましたから、ダリアス様に強く聞かれても何もしていないとは言えなかったのですわ。あ、ああ、それよりも頭を上げてください、ダリアス様。このような場所で婚約者に頭を下げるなど、公爵令息様がなさる事ではありませんわ」

「――君は、そんなに人の事ばかり……損な性格だよ。まだ私を婚約者と認めてくれるのなら、これからはそんな君こそを私が守らないといけないね」

「……え?」

 バーバラはボッと頬を赤らめ、二人は見つめ合う。

 バーバラの優しさをダリアス様はやっと認めたようだ。バーバラもダリアス様を許してあげるみたい。ちょっと甘いとは思うけれど、バーバラだから仕方がないか。婚約破棄イベントも阻止できたみたいだし、とりあえずは良かったかな。一件落着。

「ちょっと、なんですか、これ? 何言ってるんですか? ダリアス様もバーバラ様も」

 ……じゃなかったみたい。

 上手くまとまりかけた雰囲気を、ヒロインがぶっ壊す。

「二人とも酷い。これじゃあ私が悪いみたいじゃないですか。別に私、バーバラ様の妹分をやめるとかそんな事言ってませんよ。バーバラ様が言ったんですか? もう私の面倒は見切れないって。私何もしてないのに。バーバラ様が酷い事ばかり言うから、ダリアス様に相談していただけですよ。ダリアス様だって、何かあればバーバラ様じゃなくて私の所においでって言うからそうしただけなのに。上級貴族って本当に酷い。こうして下級貴族をいじめるんですね。うわあぁ~ん」

 そう言って大きな声で泣き出してしまう。

 えっと……ヒロインって、こんな傍若無人だったっけ?

 余りの大声に何人かは耳を押さえ、何人かはその場から逃げ出した。

 バーバラはどうにか止めようとヒロインに近付こうとするが、ダリアス様がそれを止めている。

 今は何を言っても無駄だと。君が傷付くだけだと必死で彼女の耳元で話している。

 ええっと……これは、私が止めるべき? けど、どうやって?

 どうするべきか悩んでいると、私のそばにいたハリーがヒロインに近付く。

「やかましい。黙れ」

 え?

 ……………………。

 ハリーは腕を組み、その長身からヒロインを見下ろす。その目は蔑みに満ちている。

 それはまさに横柄な王族のようで……今までのハリーの優しい王子様の雰囲気からは逸脱している。

 いいの、それ? そんな姿皆に見せちゃって大丈夫なの? と私がプルプル震えていると、ハリーを目にしたヒロインは、大きな瞳に涙を溜めたまま、驚いたように口をポカリと開けている。

 そして、次の瞬間「王子様!」と興奮したように叫び出した。

「うっそおぉぉ、本当に一作目の王子様だ。カッコイイ。イケメン過ぎ。キラキラオーラ半端ない。もしかして会えるかなって思ってたけれど、本当に会えるとは思ってなかった。何、何? 私の前に現れたって事は、もしかして私の攻略対象者になったの? いや~ん、それならダリアス様なんていらないわ。王子様、私この二人にいじめられているんです。こんな観衆の中で酷い事言われて、助けてください」

 そう言って一通り自分の言いたい事だけ言ったかと思うと、ダッとハリーに駆け寄る。

 それをハリーは抱き留めて……など、するはずがない。

 ヒラリと横に移動すると、ヒロインは勢いづいていた事もあり、私の前でスッ転んだ。

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