12 決闘
小道の脇の林から、男の人が出てきたよ。
男らしい立派な体格、シンプルだけど高級そうな衣装、そして、すっごいイケメン。
「初めましてモノカさん」
「アルセリア王国のゼルサニアです。 以後、お見知りおきを」
声までイケメンなんだねぇ。
「王子様は少々礼儀に問題あり、ですね」
もしもし、モノカさん?
「ほう」
なんか、王子様の雰囲気が変わったよ。
「夫を無視されて妻が喜ぶとでも」
夫って……僕だよっ。
「婚約、と伺っておりますが」
そう、婚約なんです、って、もしかして決闘ですか?
「心の結びつきの深さに、結婚前も後も無いのですよ」
指輪の共有から伝わってくるモノカさんの感情は、怒り。
確かにこの王子様、ちょっと空気読めないかも。
「必ず、夫と呼ばせてみせる」
王子様が手袋を投げてきたので、ひらりと交わしましたよ。
たぶん、これに当たっちゃうと決闘成立なんだよね。
「なぜ逃げるのかな、カミス殿」
地面に落ちた手袋を拾った王子様。 お顔、怖いですよ。
「愛する人を守るための闘いから逃げるとは、騎士の風上にも置けぬ所業」
すみません、騎士では無いのです。 得意な仕事はお風呂掃除なんです。
「アルセリア王国王子ゼルサニア、必ずやカミス殿に勝利しモノカ嬢を妃に迎え入れることを、我が剣と魂に懸けて誓う」
抜刀、されちゃいましたね。
少し広めの空き地に場所を移しました。
『収納』から棍を取り出して、自分なりに準備運動も済ませました。
代理人、なんて甘えたことを考えていた罰、かもしれませんね。
覚悟を、決めました。
「闘うんじゃなくて、モノカさんの気持ちを守るために、僕なりに頑張ってみます」
見つめ合いました。
信頼が伝わってきます。
棍を構えました。
闘いに挑む闘志でも無く、王子様への敵意でも無く、もちろんあきらめや逃げでも無く。
すごく、静かな、気持ち。
ゼルサニア王子様と目があったのが、闘いの合図。
あれ、なんだか、意識が……




