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猫が世界を救った日。  作者: 入口トロ
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7 【ぼくのじっけん かえる】

 初めての実験はカエルだった。

 昔は学校の授業でも、カエルの解剖というのをやってたらしい。


 でも、ぼくが小学校に上がる頃には、ほとんどの学校で廃止されていた。動物を殺すのが、可哀想だからだって。


 でもそんなことを言っているPTAの人たちは、ずっと殺した動物の肉や、捕まえた魚を食べたことがないんだろうか。


 そんなわけないよね。みんな動物を殺して、食べているのに。こういう時だけ、綺麗事を言うのは、大人の事情ってやつなのかもしれない。


 あの人たちは、すぐに自分に都合の悪いことは、だんまりを決め込むから、相手にするだけ時間の無駄だ。


 学校でやるわけにもいかないから、実験をするためには、一から自分で用意してやるしかなかった。


 まずは、実験に使うカエルを確保しなければならない。ペットショップみたいなお店で買ったりしたら、足がつく。自分で捕まえるのが鉄則だ。


 元々、学校で教えているぐらいだから、初心者がやるには、うってつけに違いないと、軽く考えていた。


 でも、思ったより大変で、カエルを捕まえるところで、骨が折れた。


 これは苦労したっていう意味じゃなくて、本当にカエルを追いかけているうちに、ぬかるみに足を取られて、崖をすべり落ちて、うっかり右手の骨を折ってしまった。


 必死に掴んだ尖った枝で、切り裂いた部分は、ぱっくり割れて、何針も縫う羽目になった。死ぬほど痛かった。


 おかげで治るまで、実験はお預けになった。

 とはいえ、治るのをただ待っているのも効率が悪い。


 貴重な時間を無駄にしたくなかったから、ナイフの使い方を練習するために、父がやっているレストランで、食材を切るところを見学させてもらうことにした。


 きっと父は、ぼくが普通のシェフになりたがっていると、勘違いをしているかもしれない。


 でもぼくが目指しているのは、世界でまだ誰も食べたことがない、死ぬほど美味しい料理を出す料理人だ。


 だからいろんな食材を試してみなきゃいけないんだ。

 そのための第一歩として、まずは、カエルを調理してみることにした。


 骨折が治ってから、ようやくカエルを捕まえることに成功した。


 初めての実験を決行する日は、大事な記念日だ。忘れないように、ぼくの誕生日にした。


 これまで鶏肉や豚肉、牛肉みたいな、死んでいる動物の肉にナイフを入れたことは何度もあるけれど、生きている相手は初めてだった。いざとなると緊張した。


 自分が刺したナイフで、カエルが動かなくなる瞬間は、やけに手が震えた。気が付いた時には、目から涙が流れ落ちていた。


 怖かったのだろうか。

 それとも、嬉しかったのだろうか。


 自分で思っているよりも、案外ぼくは子供だったんだなって思えて、ちょっとだけ笑えた。

 本当は、こんなみっともない記録は残したくなかったけれど、誰にだって、最初の挑戦というものはある。


 人間は、残念な過去を乗り越えてこそ、成長するものだ。

 ぼくは偉大な料理人になる男だ。


 だから、これからも実験を記録していく。

 いつか最強の料理人になるために。


 皮を剥いで、部位ごとに切り分けたカエルの肉は、見た目は鶏肉みたいだった。油でしっかり焼いて食べてみたら、味も鶏肉みたいだったから、シチューに入れてみた。


 こっそり晩ご飯に出したら、みんな美味しいって言ってくれた。

 でも、父の店で出す料理に比べたら、まだまだ未熟だ。


 絶対にぼくの料理のほうが、素晴らしいって、言ってもらえる日が来るまで、ぼくの修行は続くんだ。


 父の料理を、いつも美味しそうに食べる人たちに、いつかぼくのほうが上手だねって、言わせてやる。




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