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夜さ来い  作者: 真砂絹
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第8話 三部一体

「よさこい部です。よろしくお願いします!」



 週が明けると、俺と朝丘はビラ配りを手伝い始めた。朝と放課後の毎日2回。ノルマは一人三十枚程度だ。


 だが、新設されたばかりの得体のしれない部活動に興味を示すようなもの好きはほとんどおらず、ノルマ分のビラを配るだけでも相当な時間がかかる。



「おい。何サボってんだよ。そんなんじゃノルマの枚数配り終わらないぞ。」


「いいじゃん。3日配ってもビラ受け取ってくれた人なんてほとんどいないんだから。」



 朝丘はビラを受け取ってもらえないことに不貞腐ふてくされて正面玄関前の階段に座っていた。俺は朝丘のそばに寄って大量のビラを受け取る。



「よさこい部はまだほとんど知られてないんだからしょうがないだろ。ほら早く立ってビラ補充してきてくれ。俺が持ってる分がなくなりそうなんだ。」


「え?イイ、もう配り終わるの?私がビラ配りの才能ないだけなのかな……。」



 朝丘は変に落ち込んだ後、ビラを受け取りに校舎に入ろうとする。すると、中から先輩が現れた。


 そういえば先輩はいつも俺達よりも早くビラを配り始めているのに何で今日はこんなに遅かったんだろう。なにか用事でもあったんだろうか?



「お疲れ様。二人とも今日はもう部室に来て良いよ。」


「でも、まだ今日は20枚くらいしか配り終わってないですよ。もう部室に行っていいんですか?」


「いいよ。でも二人とも私について来てね。ちょっと発表したいことがあるの。」



 先輩は興奮が抑えられないといった様子で少し歩くペースが速くなっている。俺と朝丘も早歩きで先輩についていく。



「霞先輩どうしたのかな?もしかして新入部員が来たとか?」


「それだったら一番うれしいんだけどな。まあ、確かに先輩が俺たちに発表したくなることなんてそれくらいしかないか……」


「ね、そうだよね!私たちの苦労は無駄じゃなかったんだね!」


「お前は三日間で5枚も配ってないけどな。」


「いいじゃん!配ったのは同じなんだから。」



 朝丘はすっかりテンションが上がってしまったようで、軽く鼻歌を歌って足取りも軽快になっている。俺も朝丘ほどではないがまだ見ぬ新入部員のことを考えると、思いがけず笑みがこぼれた。



「少しここで待ってて。」



 先輩は部室の前で俺達を止め、中に入っていく。緊張のひと時。俺と朝丘は今か今かと待ちわびている。



「二人とも入っていいよ!」



 先輩に呼ばれて俺たちは恐る恐る扉を開ける。するとそこには……、



 なぜか和服を着た人達が和楽器をそばに置いて鎮座ちんざしていた。朝丘は和服の人が部室にいることに違和感を感じていないのか、目をキラキラさせながら琴や三味線を熱心に見始める。



 先輩はこの人達と会わせて何がしたいんだ?

 しばらく考えても全く見当がつかない。仕方なく先輩に聞いてみることにした。



「先輩、この人達は誰ですか?よさこい部の新入部員ですか?」


「この人達は邦楽部の部員よ。今回の部活動合同発表会でよさこい部の発表に協力してくれることになったの。」


「ホウガク、ブ?」


「邦楽部。簡単に言うと和楽器を演奏する部活動ね。」


 なるほど、そういうことか。確かによさこいと和楽器のコラボは盛り上がりそうだ。

 


 朝丘は先輩の話をよそに琴に指をかけて好き勝手に鳴らす。軽く厚みのない音が数音鳴り響いた。



「あの……、あまり乱雑に琴を扱ってほしくないのですが……。」


「ひゃっ!す、すいません。」


 邦楽部の部員の人がいつのまにか朝丘の背後にいたらしく、朝丘は驚きの声を上げ立ち上がる。先輩は部員のもとに近づき、俺と朝丘に紹介し始める。


「朝丘さん、この人が邦楽部の部長の篠原和枝しのはらかずえさんよ。」


「篠原和枝です。どうぞよろしくお願い致します……。」



 篠原さんは淡い桜色の着物に身を包み、青く透き通った髪飾りをつけている。先輩にも増して上品で大人な雰囲気。まさに和服美人といった出で立ちだ。


「あとひとつ協力してくれる部があるんだけど……」


 先輩が待ち遠しそうに廊下のほうに視線を送った途端、


「悪い春日!」


 威勢のいい声とともに扉が勢いよく開かれ、大男が現れた。鍛え上げられた筋肉に、恵まれた体格。手に持った段ボールが小さく見えるほどの大きさだ。


「お前に頼まれた荷物重くてよ。すっかり遅くなっちまった。」


「この人は和太鼓部部長の草壁颯太くさかべそうた君。草壁君、この二人が……」


「おお、この二人がよさこい部の新入部員か!春日の言う通り二人共すごく人が良さそうだな。俺は草壁颯太、これからよろしく!」


 気持ちいいくらいの豪快な笑顔。草壁さんはすごくいい人なんだろう。特に男子から支持されるような男らしさを感じる。



「はい。こ、これからよろしくお願いします、です!」



 なぜか朝丘は草壁さんに恐縮している。

 こいつ、もしや男らしい人のことが怖いのか?俺にやたら絡んでくるのは俺に男らしさがないということか……。自分の男としての魅力のなさにはがっかりする。


 




「では、三部揃ったということで、決起集会を開きましょう。」


 

 先輩、篠原さん、草壁さんの三人がそれぞれ部員たちに押し出され黒板前に整列する。三部の部長が揃うとなんだか物凄く頼もしく感じる。これなら部活動合同発表会も上手くいくかもしれない。



「それじゃあ皆さん、よさこい部と邦楽部、和太鼓部で協力して最高のパフォーマンスをしていきましょう!」


「おおーーーー!!」


 先輩が声をかけると、部室はかつてない熱狂の渦に包まれた。


 


 

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