居心地悪くても、茶は美味しい
碓氷家との婚約に承諾してから数日が過ぎた。
少しお兄様がうるさ・・・
騒がしかったけれど何とか顔合わせの日を迎えることが出来た。
父と碓氷家当主である碓氷宗庵さま、そして碓氷蒴夜さまが話されている隣の部屋で一人、呼ばれるのを静かに待つ。
ドキドキしてきた。
変じゃないかしら?
碓氷さまに失礼にならないかしら?
純白の生地に大胆に描かれた熨斗柄の着物を身に着け、髪は後ろ髪の上半分をまとめ派手すぎない上品な髪飾り。
今日のために仕立てたものだと聞いた。
始めて身に着けた着物は不思議と馴染み、自分でもそこそこいい感じではないかと思う。
緊張しながらも、少し前までは騒がしかったのを思い出しながら待った。
――
「流石椿さま!この国一の美しさです。椿さまのお姿を見れば碓氷様のお心も一目で射止めてしまうことでしょう」
「ふふ、お世辞でも嬉しいわ。ありがとう」
「お世辞なんてとんでもございません。そうですよね?尚弘さま」
女中の目線を辿れば眉毛に皺をよせ、渋い顔をした兄。
私が婚約を受けると決めた時からずっとこの調子。
「・・・綺麗だ。綺麗だから心配なんだ。いいか椿、嫌だったら断っていいんだぞ。あんな笑わないやつなんて相手にすることないんだぞ」
「・・・・・・」
「無言は肯定と受け取った。よし、今すぐ断ろう!!」
「勝手に解釈しないで下さい」
幼いころからずっと兄には可愛がってもらった。
それはもう此乃恵家兄は妹を溺愛しすぎと知れ渡るほどに。
「いや、だがあんな見た目だけで愛想のない奴なんかに」
「お兄様?うるさい、ですよ?」
ほんの少し微笑みながら告げると、分かりやすく肩を落とす兄。
跡取り同士蒴夜さまと面識のある兄は猛反対の様で、「あんな奴なんて」っとこの数日で何度聞いたことか。
確かに美しい容姿の噂とともに冷たい、素っ気ないなんてことはよく聞くけれど、仮にもこれから一緒になる者同士。
気にしていても仕方ない。
それにこの婚約は私が受けると決めた。
問題もなにも起こっていないのに、今更撤回なんてできません!
碓氷家の方が来られた合図とともに兄を追い出し、今に至る。
はっきりとは聞き取れないお父様たちの会話に耳を傾け、待つこと数分。
父の呼ぶ声を合図に隔てていた襖を開けた。
「お初にお目にかかります。此乃恵椿と申します」
深く頭を下げた後、目に移りこむのは美しい婚約者の姿。
色素の薄い艶のある髪、白い肌。
切れ長で少し緑ががかった瞳。
凛とした雰囲気をまとったその姿は美しいの一言。
「椿さん、急な話をすまなかった。息子との縁談を受け入れてくれてくれたこと感謝します」
私のお義父さまになる碓氷家当主はとても柔らかく笑われる方だった。
本当にこの方の息子さん?
全く雰囲気が違うんだけど。
「噂に聞く通り、とても美しいお嬢さんですね。蒴夜には勿体ない」
「そんな、私の方こそ。この度は此乃恵家までお越しいただきありがとうございます」
形式的な挨拶を済ました後、しばらく談笑したが、父も蒴夜さまも全くと言っていい程話さない。
お二人さん、少しは会話に参加しませんか??
そんな私の思いも虚しく「そろそろ若い者同士2人で」とお約束の言葉を残して出ていかれたお父様たち。
いや、待って!?
さっきまで話していたのほどんど私と宗庵さまでしたよね?
私、蒴夜さまと殆ど話しておりませんでしたよね??
え、何?
だから話しなさいと?
その気持ちもわかるのだけどこの状況で残しますか?
急に2人にされて、何を話せと!?
「「・・・・・・」」
うっ。
無言の時間が辛い。
時が流れるのが非常に遅い。
「・・・蒴夜さまは好きな食べ物などありますか?」
「・・・特にない」
「そ、そうですか」
会話終了。
うん、わかってた。
どことなくお父様に近い雰囲気の方だもの。
この結果は分かっておりましたとも。
分かっていたにしても辛い。
何が辛いって、この滞空時間が辛い。
その後も特に話すこともなく、互いにお茶を飲みながら迎えが来るのを居心地悪く待つ。
唯一私の心を落ち着かせてくれるのは、今飲んでいる美味しいお茶だけ。
にしても、本当にキレイな方だな。
長いまつ毛に、細く骨ばった手。
湯のみを口に運ぶ姿でさえ絵になる。
羨ましい。
「・・・なにか?」
「っ!!すみません。な、なんでもないです」
睨むかのような視線であったが、不覚にも、ときめいてしまった。
これは妊娠するわ。
なんて、自分でも意味の分からないことを思いながらお茶を飲んだ。
しばらくしてお父様たちが戻ってこられ、本日はお開きとなった。
初めての顔合わせで分かった課題。
それは、とりあえず会話を成立させること。
現段階で、会話と言える会話をしていない。
一問一答のような形で、まったく会話が続かない。
この難題な課題を解決することが私の幸せな夫婦生活のカギになってくる・・・はず。
いやいや、弱音はまだ早いわ。
まだまだこれからよ。
だって今日は初日だもの!
っと、明日から始まる婚約者との日々に私は意気込んだ。