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帰路にて。


 僕は龍二から、少女漫画を読む様に任されたので、帰り路上で読んでいた。

あまり深読みはせず、軽くポイントを押さえて済ませようとしたのだが…。





〈次は〇〇駅。〇〇駅。お出口は右側です。〉





 気がついたら少女漫画の世界へのめり込み、外部の音が遮断されていた。

どうやら駅を一つ過ぎてしまったらしい。

僕は龍二の妹が好きな、この純愛漫画が嫌いではないらしい。



 「今時の少女漫画は成人の男でも読める様に書かれていて、

  案外僕の型にハマるんだな…」


 僕は座席から立ち、少女漫画を左手に、持ちながら電車のドアの前へ移動する。

次は降り過ごさないぞと、手摺りを強く握りしめた。 

 今日は仕事を何時もより頑張った御褒美に、

僕の家にお店の子が会いに来てくれる。 



 「お家デートなんて華やかな行事は何年ぶりだろうか。」


 少女漫画の男性キャラを真似たら、女の子はどの様に反応するだろう。

ヒロインの周りによく登場する男の子は雰囲気にトゲがある。

が、その漫画の女の子達からしたら鼓動が昂る、

即ちキュンキュンと言うものをするらしい。



 一般男性の僕は、その男の子の特徴を文字と絵から探るがさっぱりわからない。


しいて言うと顔が随分と整っており目をひいた。


 さすが漫画家の先生様々という所だ。

 だが、容姿は如何足掻いても変えようがなく、整形施術もしたくない。

この男の子は所詮絵の中の登場人物。ルックスは参考外かな。



 イメージする性格は俺様系だ。強引に接近し、キスをする。

漫画の様に、女の子の顎を右手でクイっと持ち上げ、僕の唇に運ぶ…。


 ダメだ、絵になら無い。


 漫画のキャラクターみたく、女の子の鼓動が高なるキスなんて出来ない。

 



「キスは久しぶりだし余り慣れてない。

 だが格好はつけたい。女性に慣れてないと思われない様に…」

 




 今度は、デリヘルの子を後ろから抱き締める想像をする。

恥ずかしさで、体温が上がって行くのをこの身で感じた。



 「このままじゃ女性を抱きしめただけで果ててしまうんじゃないか…」

 

備え付けの手摺りを強く掴み、僕は顔を赤らめた。

 周りの人が見たら如何思うだろう。 

 


 



 そう妄想しているうちに最寄り駅へ着き、

電車から降りようとした僕は漫画に折り目が付かぬように鞄へしまった。




 そして

 ある【異変】に気づいた。


 スラックス越に息子が硬くなっているのがわかる。

咄嗟に股座が隠れる高さへ、鞄を片手から両手に持ち替えた。

 とてもじゃないけど他人が乗っているバスでは帰れないので、

 早歩きでタクシー乗り場へ向かい、車の後部座席へと乗り込む。



 「すみません、

  〇〇通り沿にある一つだけ茶色いマンションの前で下ろしてください」



 そう運転手に告げた僕は、胸をホッと撫で下ろし、

カバンに入っていた鼠色のタオルハンカチで額の汗を拭いた。



車越に通り過ぎ行く建物の明かりを眺めていると、

街明かりよりも輝く【あの子】を思い出した為、目を閉じた。



 男にも生理現象と言うものがある。

普通は女性が経験する事と考えるだろう。

女性の生理は一定周期で【月経】と言う物が体外へ放出される事。

 男性の生理現象で有名な物は【夢精】して白濁した液が放出される事と、

意識とそぐわずに息子が立ってしまう事だ。


 

 「お客さん着いたよ。1300円ね。」



 僕は股間の腫れ物を隠したいが為に、スラックスへ空気が入るように腰を浮かせた。

運転手から差し出されたトレーへ1300円を置き、足早に出た。




僕の住むマンションは手動式の扉で、

十メートルの通路を直進した所にエレベーターがある。

建物内には監視カメラが備えられていない。割と綺麗目な建物にしては珍しい。

 今日も監視カメラが付いていない事を確認しながら、

エレベーターへ駆け寄り、3階のボタンを押した。


高鳴る鼓動が狭い孤立空間へ響いた。

 

 生身の若い女の子の素肌。二つの湾曲状の柔い物。

僕にとって、それはもう申し分のないパワーワードで。 

 

 成人ではない、十歳下にも及ぶ女の子と密接な行為をするのは初めてで、

どの様な手順で進行すべきなのか分からない。

プロの女性に全てを任せて平気だろうが、

朝方に見た、あの女子高生とデリヘルの子を重ね合わせてしまうと、

ベットで格好つけたい自分もいた。


 そうこう考えながら、エレベータから降りた。


 僕が住むマンションは、真ん中が吹き抜け空間になっており、

それを囲うように部屋が並んでいる。

 同階に七部屋程構えており、全て借入れられている。

どのような仕事をしている人が住んで居るかは定かでない。

冷たい空気を吸い吐きしながら、ドアに鍵を刺し部屋へ入る。

壁に身体を寄りかからせ、気怠く革のシューズを脱ぎ、

重たい足取りで部屋へ上がる。 



『今日も疲れたな』



 そう呟き、よく綺麗にされた白い洗面台で淡々と手を洗う。

僕が暮らす部屋は築十年鉄筋コンクリートの二dkルーム。

北向きなので、日当たりが悪い。


 玄関へ入って直ぐ、五メートル程の廊下の右手に御手洗いがあり、

少し進んだ先の左側に洗面所、そして浴室。

廊下の奥には寝室があり、突き当たり右手にリビングルームがある。

 僕の部屋には必要最低限の物しか無く、休息さえ取れれば他は望まない。

白を基調とされた室内には黒い家具が置かれていて。

黒色は昔から好きで、家具や身に着ける物は全て黒い物と決めている。



 寝室のクローゼットへ鞄をしまい、

黒い部屋着と黒いアンダーウエアを取り出した。

 ワイシャツのボタンを外しながら、ゆったりした足取りで浴室へ向かう。

浴室前の洗面所で、着ていたシャツとインナーを床へ脱ぎ落とし、

スラックスのベルトを緩め、黒いアンダーウエアを脱いだ。

 


 硬く締められた冷たい蛇口を無心で撫で捻る。

孤独な空間の中、視界が燻んで見えた。

目を擦り、天井を見上げ、再び目を擦った。




冷ややかな心を劈く空間で。




 本来の無機質な僕か、僕じゃない何者かなのか、葛藤した。分からない。

僕は誰で、お前は誰。この陰気で不気味な感情を操る者は誰なんだ。




 シャワーの温かいお湯が、頭のてっぺんから首筋に、そして足先へ流れ落ちるのを感じた。全身を素早く洗い、白く柔らかなタオルで身体を拭いた。

 僕の火照る身体から湯気が立ち、柑橘類の甘酸っぱい匂いが鼻腔をくすぐる。

そそくさと黒い下着から黒い部屋着を身に纏った。

 冷たいフローリングを早々と歩き、冷蔵庫から天然水を取り出した僕は、

黒い革のソファーへ深く腰を掛けた。

 


 この時の心境も、これから起きた事も、その日に何があったかを良く覚えていない。

誰かへの感情を振り払いたい一心で、似た女の子と寝た。

酔った勢いで誰かと寝るような感覚と一緒の事をしてしまった。

自分に対して嫌悪感はあるが、この方法でしか自分を維持できなかった。




 僕はこれしか覚えてない。


 





※息子がわからない方はインターネットで調べて下さい。

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