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7話

 不気味な音が響いたかと思えば、唐突に浮遊感に襲われた。目に見えた景色が、ゆっくりと、しかし徐々に加速しながら、上昇していく。


「は!? ちょっ、うわぁあああああ!」


 俺は事態を把握して、思わず叫んだ。俺たちがいた部屋の床が、完全に抜けたのだ。足場を失った俺たちは、自由落下していた。


「よいしょっと♪」


 ふいに、背中から抱きしめられる感覚がした。聞こえた声から察するに、鬼道院が俺を抱きしめたのだ。


「うふふ。こういう、キッズアニメっぽい仕掛けを起動するのが、ずっと夢だったんですよ。手に入れた富と権力を利用した、遊び心です♪」


 落下しながら、鬼道院は楽しそうに言う。


「実はさっきの画面、この仕掛けを起動するかどうかの選択画面だったんです。何となくあの二人、怪しいなと思っていましたので」


 鬼道院が俺に語りかけるけど、俺はそれどころじゃない。絶叫マシンなんて比較にならない程の恐怖心に、俺は口を開くことが出来ない。


「あぁぁああぁあああっ!」


 ようやく口が開いたかと思えば、無様に叫んでしまった。


「うふふ。慌てふためく仁も、可愛いわ」


 そして鬼道院は、俺のことをより強く抱きしめた。不覚にも俺は、それで少し安心してしまう。先ほどまで感じなかった彼女の温もりが、心地良い。胸の感触が背中から伝わってきて、少し恥ずかしい。


「そうだ。葵が……」

「大丈夫ですよ。あの仕掛けには、立ち位置でアタリとハズレがありまして。アタリの立ち位置だった蛍さんと葵さんは、無事です」

「おいおい。つまり俺たちはハズレを引いたってことか。でもまあ、ちょっと痛いくらいなら、この際受入れてやるさ」


 アタリハズレまで考えた仕掛けなら、恐らく命は助かるのだろう。俺は一先ず安心した。


 浮遊感にも大分慣れていた。真っ暗な空間をずっと落下しているけれど、まあ命の安全が保証されているというのなら、問題は無い。


「ふふ。何を言っているんですか」


 鬼道院が笑いながら言った。何を言っているのかは、こちらのセリフだ。


 その直後、垂直に落下していた俺たちの身体は、徐々に逸れ始める。やがて軌道は鋭角なカーブを描き始めた。


 そして次の瞬間。真っ暗だった空間が、急に明るくなった。目の前に丸い穴が現れて、そこから外の光が差し込んできたのだ。


 俺たちの身体は勢いのまま、その穴に飛び込んだ。


「ハズレを引いたら、死ぬに決まっているじゃないですか♪」


 鬼道院の言葉には怒りを覚えるものの、俺はそれどころじゃなかった。


「うわぁああああああっ!」


 まさに絶叫だった。アイの塔から外に放り出された俺たち。支えるものも、足場も、しがみつく物もない。ただ為す術なく、無様に落下していく。


 ああ、これは死んだ。


 間違いなく死んだ。アイの塔の高さは、確か777メートルだっけ。途中から放り出されたから、もっと低いだろうけど。


 そういえば、雫に似たようなことをやらせたっけ。やむを得ない状況だったとはいえ、中々酷いことをしたもんだ。


 まあ最早、全て無意味だけど。


「畜生。せめて葵の処女膜をぶち抜きたかった……」


 俺は後悔を口にした。口にせずにはいられなかった。


「ふふ。何を言っているんですか。私たちはまだ死にませんよ」

「えっ」

「私は、仲間を信じているんです。ほら、落ち着いて。耳を澄まして」


 落ちつきはしなかったものの、俺はともかく耳を澄ました。


 すると、バタバタとヘリが飛ぶ音が聞こえてきた。そして……。


『瑛里華様ぁあああ!』


 そのヘリのスピーカーから、鬼道院を呼ぶ声がした。この声は雫だ。そうか、彼女は無事だったのだ。そして俺たちを信じて、周囲を飛びなから待機してくれていたのだ。


「良かったですね、仁。私たちの戦いは、まだまだ続きそうですよ」


 鬼道院が言った。


「ああ、そうだな」


 俺がそう言って笑う。


 戦う理由はある。ならば、戦うべきだろう。


 俺は向こうにいるヘリを見た。入り口のドアから身を乗り出して、懸命に手を振っているのは司波だろう。


 俺は戦う。妹の為に。


 新たな仲間と共に。

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