表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/14

12話

 新幹線で移動し、一時間が経過した。


 流石にそれほど時間が経ってしまえば、敵も万全な準備でこちらに向かってくる。


「状況は」


 私が仁に尋ねた。


「上空にヘリが1機。周囲にバイクが20機だ」


 状況は芳しくない。アイの塔までまだまだ時間が掛かる。


『エメラルドファイアに告ぐ』


 敵がスピーカーで語りかけてきた。この声には聞き覚えがある。旧アイズで雫の直属の部下だった、一峰龍だろう。


 あいつが隊長か。確かに彼には戦闘のセンスがあった。私たちが抜けて、訓練が集中すれば、二年で隊長クラスになるのも頷ける。


『君たちは、ここで終わらせる!』


 その言葉に、私は笑った。降伏勧告じゃないとは。もはや二年前とは別人のようだ。


『撃てぇ!』


 一峰の号令が響く。ヘリのミニガン。バイク20機からの射撃。新幹線の戦闘車両付近が一斉に攻撃される。


 特にヘリのミニガンによる射撃は、車体にかなり重いダメージを入れているようだった。


『乗り込め!』


 一峰の号令により、バイクに乗っていた敵が数人、新幹線に飛び移った。


「下っ端程度なら、私一人で止められるわ!」


 雫が言い、敵が侵入した2両目に向かって駆けて行った。


「瑛里華はここで仁と葵の護衛を。茜。お前は私とヘリの相手だ」

「オーケー! 身体が鈍ってしょうがなかったんだよねえ!」


 私と茜は車窓から天井に上がった。ヘリが私たちを視認して、ミニガンの乱射を止める。


「一峰ぇ! 私が来たからには、死ぬ覚悟をして貰うぞぉ!」


 私は叫んだ。


『司波先輩、相変わらずで何よりです』


 ミニガンの銃口がこちらに向く。


『でもまずは、自分自身の心配をしてください』


 その瞬間、こちらに向いていたミニガンが火を吹いた。(おびただ)しい数の弾丸が、私たちに接近してくる。


 私と茜は抜刀し、それらの一つを弾いた。


「ぐぅ!」

「こんのぉ!」


 弾丸の威力はあまりに重い。私たちは自分の身を守るので精一杯で、それ以外の弾丸は車体を傷つけていく。


「茜! オーバーヒートのタイミングで行くぞ!」

「分かってるっての!」


 ミニガンは打ち続けるとオーバーヒートを起こす物だ。だから必ずクールタイムを挟む必要がある。そこを叩く。


 やがて、射撃が止んだ。


「今だ!」


 私は叫んだ。同時に、茜と一緒に駆ける。ある程度の助走が済んだら、茜は立ち止まって、両手を組んで腰を低く構えた。


 私は走った勢いのまま、茜が組んだ両手に足を掛ける。


「行けぇええええ!」


 その叫びは私の声なのか、茜の声なのか。最早どうでも良い。


 茜の腕力を利用し、私はヘリに向かってジャンプをした。


 茜の腕力は軽自動車を投げ飛ばす程。それが私なら、弾丸の速度で飛ぶことが可能。


「させませんよ!」


 一峰の声。彼はなんと自らをヘリから飛び降り、私に肉薄してきた。


「くそっ!」


 一峰が斬りかかってくる。


――ガキィンッ!


 それを私は刀で受けた。真っ正面から金属同士がぶつかった為、重々しい音が響く。


 勢いもあって、柄を握る手から凄まじい衝撃が走った。勢いは減速し、やがて落下し始める。


「まだまだ!」


 私は予めピンを抜いておいた手榴弾を、片手で取って投げつけた。


 手榴弾は一峰を通り過ぎ、私の狙い通りヘリの付近で爆発した。しかしどうやら浅かったらしい。ヘリの損傷はどうやらミニガンが壊れた程度のようだ。


「はぁっ!」


 爆発をよそに一峰は、鍔迫り合いのまま力任せに私を押した。支えるものがない私は、為す術なく飛ばされる。


 私は落下の間に何とか体勢を整え、4両目の後ろ辺りに着地した。そして一峰は、さらに後ろの5両目辺りに着地。


「望ぃ!」


 茜が2両目から追ってくる。


「茜! 車両の連結を切れ!」

「そうか、なるほど!」


 茜はすぐに2両目と3両目の境に入った。


「させるか」


 一峰がこちらに走ってくる。


「それはこちらだって同じだ!」


――ガキィンッ!


 再度、刀と刀がぶつかり合った。


「外したよぉー!」

「言わなくて良い!」


 茜の迂闊な発言通り、景色の流れが徐々に緩くなっていく。


「集中しなくて良いんですか、先輩!」


 一峰はそう言うと、ほんの少しだけ私から距離を取った。そして片手で銃を取り出す。


 私はすぐに備えた。大丈夫。難なく防げる。


 しかし一峰は、あらぬ方向へ二発、発砲した。私は一瞬、その意図が掴めない。


「危ない! 望ぃ!」


 振り返ると、二本の電線が眼前に迫って来ていた。先ほどの発砲は、これが狙いだったのだ。


 私は寸前で避けた。しかし体勢を崩してしまう。


「はぁっ!」


 そのまま一峰の横薙ぎを受け止めた。それは力任せの攻撃で、あまりに重い一撃だ。私は完全に体勢を崩し、道を明け渡してしまう。


 もちろん一峰はそれを逃さない。そのまま私を無視し、2両目に走った。私は慌ててそれを追う。


「行かせないよ!」


 茜は銃で応戦する。しかし一峰がそんなことで止まるはずがない。銃弾を的確に弾いて、それでも減速せずに突き進む。


 2両目と3両目は既に結構な距離が離れていた。


 そして一峰はついに3両目の先端まで辿り着く。彼は勢いのまま、2両目へ飛んだ。それを茜が待ち構える。


「来い!」


 一峰が叫んだ。気がつけば先ほどのヘリが、丁度一峰の上空付近を飛んでいた。


 そのヘリから、一台のバイクが投下されていた。そして一峰はタイミング良くそのバイクに跨がることに成功する。


「嘘でしょ!?」


 茜が叫ぶ。


「驚くのはまだ早いですよ」


 一峰がそう言った直後。彼のバイクの真下辺りが突如、爆発した。


 バイクに乗っていた彼は、バイクごと爆風に乗って加速する。結果、茜を飛び越えることに成功した。


「なっ、このぉ!」


 追いかける茜。私も2両目に移って、一緒に追いかける。しかし流石に新幹線と同等のスピードを出せる特注のバイクには追いつけない。


 まずい。最悪の状況で通してしまった。


 そんな考えが脳裏を過った。やがて一峰は先頭車両先端まで着いてしまう。


「葵さん。僕を信じて下さいね」


 一峰はそう言うと、そのままバイクで車両進行方向へ飛んだ。新幹線よりも遙か先へ着地すると、そのまま減速して地面におり、仁王立ちする。


「皆さん! 外へ!」


 瑛里華の声が響いた。



「はぁああああああっ!」



 一峰の咆哮が周囲に響いた。信じられないことに彼は、迫り来る新幹線に真正面から、パンチを繰り出した。


 時速150キロの速度が急停止した。


 瞬間、私と茜の身体は前方に吹き飛ばされるような形となった。急速に通り過ぎていく天井のくぼみに足を取られ、私は体勢を崩した。


「がっ、はっ!」


 そのまま私は身体を打ち付け、それでも前方に吹き飛んでいく。もはや茜がどうなったのかさえ、分からない。


 だが、先頭車両の先端には一峰がいるはずだ。


 そう思案している内に、その時はやってきた。グルグルと回る景色の中に、車両が途切れたのを確かに確認した。


 そして宙に投げ出された私は、衝撃的な光景を目の当たりにする。


 連結していた先頭車両と2両目は、勢いの余り車両の後ろ側が跳ね上がり、90度に直立していた。その根元には、一峰がパンチを繰り出したままの状態で、制止していた。


「一峰ぇえええええ!」


 怒りのままに叫ぶ。この有様では皆、死んでしまったかも知れない。私は銃を取り出して、落下しながら銃口を向け、そして発砲した。


 数発の銃弾は一峰の右肩、左肩、両太ももを貫いた。私も体勢が悪かった為、急所を外してしまったらしい。私は苦し紛れに、さらに数発撃ち込む。しかしそれらは全て弾かれてしまった。


 しかしその後、一峰は膝を付いた。新幹線を止めた時に体力を消費し、その上で銃で撃たれたのだ。さすがの一峰でもこうなる。


「望! もう良い!」


 私が止めを刺そうと近づいた時、仁の声が響いた。


 私は声がした方を見た。ボロボロの仁がこちらに向かって歩いていた。瑛里華は気を失っている葵を抱き抱えている。雫と茜も同じく傷だらけだが、やはり無事のようだ。


「しかし仁。こいつは……」

「良いんだ。俺たちが目指すものを忘れたか」


 私は仁の言葉に、押し黙った。そうか。私たちの理想は、例え敵であっても例外ではないのだ。


「甘く、なりましたね……」


 瀕死の一峰が、私に言った。


「甘い、か……」


 彼の言葉を、私は繰り返した。エメラルドファイアに入る前の私なら、同じことを思っただろう。


「それは違うよ、一峰」


 今の私は、それを否定する。


「理想の為に、私たちは行動している。君を殺すということは、その理想を妥協し、ある程度の安定を求めるということだ」


 そう。私も彼も、甘えということが何か、はき違えていたのだ。


「私たちにとって理想を妥協すること。それこそが甘えなんだ」


 私たちが掲げる理想は、あまりに壮大で、雲を掴むような話だ。


 だからこそ、妥協は許されない。


「変わりましたね。先輩」


 一峰は言う。


「ああ。目指すものがな」


 私はそう答えて、彼を気絶させた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ