表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔殺しの人間が!  作者: 腹巻鶏
1/1

プロローグ

この世界には魔物がいる。


見たことがない?

でも、確かにすぐそばに居るのだ。



『魔物なんていない』『いるわけない』


魔物たちは、こういった人間の固定概念に上手く溶け込み、姿を隠している。

だから見えない。

どんなに魔物の存在を信じても、こういった常識価値観が邪魔をする。



でも、一つだけ。

見えるようになる方法がある。





──それは、『魔物と出会ってしまうこと』だ。




***************





冬も深まったようで、最近まで日の出ていた下校路を今は月が照らしている。

この様子だと、いつもの下校ルートは暗くって危険そうだ。


「確か、この公園を抜ければ早かったよな」



いつもは多くの子供たちが利用している公園。

その広さのおかげでボール遊びができるところが人気だが、この暗さではさすがに誰も利用していなかった。

人がいないなら、安全に自転車で突っ切れる。


そう思って、真っ暗な公園のグラウンドを走っている時だった。



「ッ!?あ、アブねぇ...!」




誰もいないと思っていた公園の真ん中に、うずくまった人影があった。

暗くて見落としていたのだろうか...。

気付いて止まっていなかったら、そのまま衝突していただろう。



「えっと...大丈夫ですか?」



そのまま自転車を降り、人影のもとへ駆け寄る。

人影はうめき声をあげるでもなく、ただ静かに胡坐をかいて座っていた。


「...マリョクガ......」


「え......へ?」




何を言ってるのか分からない。

でも何かを伝えようとしているみたいだ。

どうやらフードをかぶっているらしいその人影は、少しだけこちらに顔を向けた。


俺は人影に歩み寄り、その顔を確認しようとする。

その時――





「早く離れて!!!!」


「!?」


突然大きな声が聞こえてきた。

さらに遅れて、後ろから何かが耳元をかすめる。





「ギァアアァァア!!!」



「え!?え!?」




目の前にいた人影が悲鳴を上げる。

とても人とは思えない、耳を劈くような声だ。


人影はさっきの飛んできた物が当たったらしく、両手で顔を覆い、全身を小刻みに震わせていた。

袖から覗くその両手は黒くて細長く、まるで枯れ枝のようだ。




これは...。

根拠はないけど、一つ確信できる。




「ば、化け物...」



俺は思わず後退りした。

そこに



「そうよ化け物よ!だからもっと離れてっての!!」


「!?」



またさっきの声が聞こえる。


聞こえてくるのは後ろ。

咄嗟に振り替えると──



「マジックバレットアーチャー!!」




まだ中学生くらいに見える少女が、こちらに向かって石を投げてきていた。







****************************************************







「私はクレア。それであんたは...無事?」


「一応...。あ、それと俺は日野原。日野原大河」


「ふーん。ま、よろしく。日野原」



夜空に溶け込むほどの黒髪が短めのポニーテールにくくられていて、逆に前髪はあっちこっちに遊んでいる。

その少女はクレアと名乗ったが、パッと見たところ完全に日本人だ。




「さっきのアレは魔物.....というか、悪魔よ。普通の人間が近付けば、あっという間に餌にされるわ」


「悪魔......」



アレというのは、おそらくこの死体。

さっきまで俺が人間だと思っていた人影だ。

仰向けに倒れており、顔に大きな穴が開いている。


この少女がつけた傷だ。




「これ...さっき投げてた石が貫通したんだよな。そんなことってあるのか...?」



俺は、そのグロテスクな光景に息を呑みながら尋ねた。


魔物だの悪魔だのといかにも胡散臭いことを言っている少女だが、決してからかっているわけじゃないのは身に染みて理解している。

音速に迫るんじゃないかって速さで小石を投げる少女なんて、

人間だといわれる方が信じられない。




「私の能力──って言っても、まだわからないでしょ?まぁ焦らなくていいわ。説明はきちんとするし。だからとりあえず、この場を離れるわよ」


「なんで?」



公園の出口に行こうとする少女に問うと、少女は呆れた顔をした。



「あのねぇ、悪魔は他の魔物と違って人間にも見えるんだから。こんな死体のある公園で立ち話してたら、通報されるわよ」


「おいおい勘弁してくれ...」




ただでさえ訳が分からない状態にいるのに、そのまま刑務所行きなんてまっぴらごめんだ。

どうせ考えたってわからないんだ。

この少女に従うことにしよう。




「それで、じゃあどこに逃げろって?」


「私の家が近くだから、ひとまずそこよ。ほら早く」


「了解。.....あ、待って忘れてた。自転車があっちに停めてあるから、ちょっと取ってくる」


「いいけど...ダッシュよ」


「おう」




言われたとおりに駆け足で自転車の元へ向かった。

明らかに年下である少女の言うがままなのは少し情けないが、実際今は明らかにあちらが上の立場だ。

致し方ない。



「それにしても.....これは.....」



自転車にまたがる前に、もう一度その死体を見た。


眉間部分にドス黒い穴は見えるが、それだけ。

このとおり暗いせいで見えにくいが、しかし嫌に頭に焼き付く姿だ。

見たくない.....はずなのに、つい見てしまうのは何故だろうか。



「いや、駄目だ。考えてもわかるわけねぇや。それより早く行かねえと、あのクレアとかいう奴が怒るからな...」




急いで自転車に乗り、ハンドルを握る。

そして足でスタンドを戻して──────








「日野原ッ!!!危ない!!!!!!」





「──え?」






突如、視界が九十度回転する。

頭をモロに地面にぶつけ、一度跳ねる。


そしてまた視界が落下し、もう一度頭を地面に打った時。

俺の意識はそこで途絶えた。








どうやら、死んだと思っていたあの悪魔が攻撃してきたらしい。


どんな攻撃かは分からないが、風前の灯であった命にムチ打って放った、その悪魔の最期の一撃だったそうだ。



悪魔は攻撃の反動で完全に命を落とした。

そして――――






その攻撃を受けた俺が、「悪魔を殺した」と判定されたらしかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ