Family Complex 〜ヒーローである俺の家庭問題
ヒーローなんてのは簡単な仕事だ。
悪者が暴れたら現場に行ってそいつの邪魔をすればいい。何も考えない、シンプルだ。
唯一面倒があるとすれば周りの人間に正体を知られないようにしなければならないことぐらいか。
「それじゃ隼人、母さん達仕事に行ってくるわね。」
「行ってらっしゃい。」
俺の両親は病院勤務だ。
だから夜勤が多い。
これはヒーローたる俺にとって好都合だ。
なぜなら悪は夜動く。
両親も出かけたことだし、出動要請があるまでは動画見て時間潰すか。
一昨日の俺の動画出てるかな……あった。
動画を再生する。丁度俺が駆け付けたところから始まっているようだ。
【テンガロンハットvsBADレディー/BADマン】
ちなみにテンガロンハットは俺のヒーロー名だ。いつもテンガロンハットを被っていることから付いた。
ダサい?…わかりやすくて親切だろうが。
ちなみにBADなんちゃらとかいう二人組は最近この界隈でやらかしてる悪者だ。
バット●ンのパクリみたいな衣装を着たバット●ンのパクリみたいな奴らだ。
正直見ていて痛々しい。
『また貴様らか!おとなしくしろ!』
『テンガロンハット……相変わらずダサい帽子を被って、小言でも言いに来たのかしら。』
全く悪というのは野蛮なものだ。
他人の見た目を貶めるなど……
『必殺!テンガロンショット!!』
『ぐぁあぁぁああ!』
『きゃあぁあぁぁあ!』
フフフ……この日の必殺技も決まっているな。
そういえばヒーローや怪人に備わっている必殺技などを使える特殊能力は遺伝性らしい。
もしや俺の両親も昔は有名なヒーローだったのではなかろうか…
となると親子共闘も夢ではない。テンガロンハットはあの伝説のヒーロー〇〇マンの息子……とか新聞の見出しに出たりな…いいじゃないか。
《ピピピッ…ピピピッ…》
お。タイミング良く呼び出しがきた。
ヒーロー活動用の端末が鳴っている。
「はい、こちらテンガロンハット。」
『君の担当地区で怪人が出た。北沢公園だ。至急制圧に向かってくれ。』
「了解。」
よし、行くか!
「あ~ら、早いじゃな~い?」
「しかし我々はもっと早かったようだ!」
現場に着くと、BADレディーとBADマンが公園の遊具という遊具を改造していた。
「貴様ら何をしている!」
「公園を怪人好みに改造しているのよん。」
「何?!」
一通り見回すと、ブランコは捻れて合体し、滑り台にはトゲのようなものがいくつも設置され、砂場には奇怪な植物がいくつも顔を出していた。
「どうだい?楽しそうだろう?」
「ふざけるなッ!今すぐ元に戻せ!!」
「そ~れは無理な相談だな~ぁ!」
BADマンがキックをかましてくる。
俺はそれをスマートに避けると奴の腹にパンチを喰らわせた。
「ぐはっ……」
「キャー!ダーリン!!」
BADレディーが駆け寄る。
二人が固まったところに必殺技を放つ。
「必殺!テンガロンショット!!」
「きゃあぁあぁ!」
「うぉおぉぉ!!」
ふぅ………やったか。
二人がヨロヨロと逃げ帰っていく。
これで任務完了か。
「こちらテンガロンハット。任務完了。」
『御苦労。公園の後処理はこちらで手配する。』
「了解。」
フフフ……野次馬共よ。クールに立ち去る俺…しっかり撮ったか?ん?
「テンガロンハット強いな~。一方的じゃん。」
だろだろ?!
「いやいや、あれは敵が極端に弱いんだって。下っ端だろ?弱い者いじめじゃん。」
「ヒーローが弱い者いじめ(笑)」
?!
「まぁ実際BADマンとか下っ端だもんな。俺この前5代目悪の帝王見たけどオーラが違ったもん。」
「まじで?!いーなー!5代目って今までと格が違うよな。」
「これまじで世界征服されっかもな~。」
「5代目カリスマだもんな~。」
おい!一般市民が悪の帝王を褒め称えてどうする!
お前ら全員悪の手先として処刑したろか!くそっ!
あー気分害した。
早く帰ろう。
路地裏で変身を解除して家に向かう。
すると、アパートの横の物陰から音がした。
「………なんだ……?」
……不審者か?
「もー最悪。膝擦りむいちゃった。」
「大丈夫かい?」
様子を見てみると、そこには父さんと母さんがいた。
「……父さん?」
「…ぁっ……隼人?!」
………ていうか…
「父さんその服何?!それBADマ「しーっ!静かに!!」」
えぇえぇぇえぇ父さんBADマンの格好してんですけど。
母さんに至ってはBADレディーでミニスカだから動揺を禁じ得ないんですけど。
「なんでここに…夜は外出しちゃダメって言ったでしょ?」
「あっ…いや……ちょっと用事で………」
やばいやばいやばいもしかしてBADマンの正体って…
え、うそ、でもだって………コスプレ…じゃないよな。いやコスプレならそれはそれでヤバい。
てゆーかマジ?俺の親?マスクしてたけど雰囲気とか全然違うじゃん!
ていうかそれなら俺がテンガロンハットってバレたら普通の親バレ以上にマズイんじゃ…
「コンビニ!コンビニ行ってた。」
「………そうか。」
どうしよう…気まずい。
二人ともバレたーみたいな顔してるし…
「あ……そ、そうだ!律人帰ってくる時間だよな!プリン頼まれてたんだ…あいつ待ってたら怒るし、俺先帰っとくわ!」
「あ…あぁ。」
とっさに嘘をついて家まで走る。
ナイス機転…しかし逃げてしまった。ヒーローなのに。
いやこれは戦略的撤退……帰って律と相談だ。
ガチャリと大きい音がするドアノブを回して中に入る。
「ただいまー…」
弟の律人は一つ下で頭がいい。平日は毎日塾に行っている。
あいつ帰ってるかな。
「おかえり。」
良かった…帰ってる。
「なぁ律、ちょっと…」
「ん?」
律は俺がテンガロンハットってことも知らないんだよな……
大丈夫だろうか。
「さっきさ…そこで父さんと母さんに会ったんだけど……」
「へぇ。夜勤なのに?」
だよな!夜勤て嘘ついてたんだよな…やっぱBADマンで間違いないよな!
「うん…で、BADマンの格好してたんだよね……」
い、言っちゃったぞ…律の精神状態は無事か?!
「あ、気づいた?」
「……………え……」
えぇえ?!!
「三人ともこんな近くで変身してるから、よく鉢合わせしないなって思ってたんだよ。ニアミスはあったみたいだけど。」
えぇえぇぇえ?!
「し、知ってたの…?」
「まぁ…俺5代目悪の帝王だし。」
え…
「えぇえぇぇえぇえぇぇー?!」
ど、どういうことだ…
「父さん母さんも知らないけどね。普段俺もマスクしてるから。」
「な、なんで………」
「皆全然気づかなくて面白いからさ、どんな反応するかなって。」
「お茶目だな!」
俺の最後の砦が…
つーか俺以外全員悪者?!
「お、お前めちゃくちゃ真面目じゃん!なんで悪なんかやってんの?!」
しかも帝王!
「じいちゃんから引き継いだんだよ。去年葬式あったでしょ? 遺言。」
えぇえぇぇえ知らねーよ!
俺遺言貰ってねーし読んでねーよ。
「そもそも兄さん知らないみたいだけど、悪の帝王もヒーローも全部うちがやってるヒーロービジネスだからね。」
「知らないよ!教えて貰ってないもん!ヒーロービジネスって何?!」
てか全部うちがやってるって言った?
「悪が暴れることで住民の防犯意識の向上、ヒーローが倒すことで犯罪の抑圧になるでしょ。」
「真っ当そうなこと言ってるけど全然頭に入ってこねーよ!!」
ヒーローも怪人も全部ヤラセってこと?!
「まぁでも兄さんが知っちゃったんなら都合いいかも。そろそろテコ入れしなきゃって思ってたんだよね。」
「テコ入れって何?!」
こわいよ悪の帝王!
「最近マンネリ化してるじゃん。この辺りの地域住民も、怪人が出てもどうせ誰かが倒してくれると思って気が緩んできてるんだよね。」
あぁ、それは…野次馬ものんびり駄弁りながら見物してるくらいだしな。
「…テコ入れって具体的には?」
「テンガロンハットが悪に寝返るパターンと、この町が悪の帝王に蹂躙されるパターンとどっちがいい?」
「悪に寝返るとか嫌だよ!蹂躙で!!」
「予想してたけど…兄さんいい性格してるよね。悪の方が向いてるよ。」
「向いてねーし!」
失礼な弟だな、全くもう!
「…じゃあ父さん達が帰ってきたら打ち合わせしようか。」
「え、バラすの?!二人の心臓もたないよ?!」
「大丈夫でしょ。あの二人メンタルだけは強いから。」
「確かに。」
BADマンもBADレディーも何回倒してもへこたれないもんな。
「えぇえぇぇえぇえぇぇ?!」
父さんも母さんも俺と同じ反応してる…。
「ってことで父さん達は明日辺りから、そのうち悪の帝王が来るっぽいこと匂わせといて。」
「え……悪の帝王が律人?」
「うん。」
「律人が俺達に目茶苦茶な指令出してたの?」
「まぁそうなるね。」
さすが悪の帝王…悪びれねぇ!!
「で、隼人が私達を散々痛めつけてたの?」
「え…いやそれは……公園荒らしたりするから…」
「うちの子たち酷い!」
「ちょ、母さん泣かないで…落ち着いて。」
うーん……衝撃が多過ぎて処理できないけど、とりあえず一つ言えるのはこれから家族にヒーローってバレるのを気にせず行動できるって事だな。
路地裏早着替えともおさらばだ。
「律、こうなった以上BADレディーの衣装は変えた方がいいよ。」
「検討しとく。」
「ちょっとそれどういう意味?!」
母さんが声を荒らげる。
泣いたり怒ったり忙しいな。
父さんは微妙な顔をしている。これ父さんも、母さんの衣装はヤバいって思ってた顔だよな?
……何はともあれ、こうして俺達家族はみんなで力を会わせて町の平和を守っていくのです。終わり!




