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頑張る気持ちは大事です

 




 勝手に急く目で、何とか見つけた学校の所在地は。

 瞬きも忘れて、食い入るように見つめた。本当かどうかすぐには受け止められず、見つめ続ける。しかし文字は変化しない。


「昴さん」

「ん」

「もしかして。もしかしてなんだけど、意外と近いですか?」

「ですね」


 自分の目だけではなく、肯定の言葉を得て、勢いよく顔を上げた。

 昴は向かいで私のケータイ画面をスクロールさせて、まだ何か読んでいるみたいだった。

 そんなことはお構い無しに、私は得られた事実を実感したくて仕方無い。


「意外と近い!」


 というか、県内! 生まれ育って、書き慣れたし見慣れた都道府県の名前ではないか。

 さらに、県都だからか、同じ市内ときた。

 予想外の予想外すぎて、さっきまで抱えていた気持ちはどこへやら、身を乗り出して口に出さずにはいられない。だって、嬉しくないはずがない。

 すると、前方で昴が顔を上げて、じっと私を見て同じようにわずかに身を乗り出した。

 腕が伸ばされ、手が近づき──頬を引っ張られた。


「な、なに、なんで引っ張るの」


 戸惑いの声を上げると、昴はぱっと手を離して、軽く乗り出していた体を戻していった。

 ふぅ、と息を吐いた。

 ため息吐いて、どうしたの? と言うか、なんで私はほっぺた引っ張られたの?

 頬を擦りつつ、疑問いっぱいの視線を向けていたら、昴が口を開いた。


「葉月、すごい遠くに行くかと思った」

「遠く? 何が?」

「大学」


 私は目を丸くする。


「え、なんで」

「……そういうとこあるから。俺が思いもよらない行動するときあるし、いつの間にか気がつかない内に消えてるときもあるし。──どこへでも行けそうで、どこへでも行くんじゃないかって思った」


 だから、どこか遠くの大学に行くんじゃないかって思った。と、昴は言った。


 びっくりした。

 私は、頬を擦ることも忘れて、まじまじと昴を見つめる。

 ──そんなこと、思ってたんだ。

 知らなかった。当然だ。今の今まで、互いの進路についてろくに話してなかったし、聞かなかった。

 そして、私も、「それ」を言わなかった。


 私は、頬から手を離して、少しだけ微笑んだ。昴も、同じことを考えていたんだ。


「そう思ってたの、私もだよ」


 むしろ、昴がそう思っているとは思わなかった。


「昴、頭いいから、なんか、県内からは出ていっちゃうんじゃないかって思ってた」


 一生会えなくなるわけじゃないし、大学が異なることなんて仕方のないことでもあるのに、自分ではどうしようもなく憂鬱になったときもあった。

 それ以上に、何だか、どうしても大きく道が別れて、この先交わらなくなってしまう気がした。


 私が吐露した不安に対し、昴は呆れたようになった。


「そもそも、俺の頭の出来は世間一般から言えば飛び抜けたものじゃない」

「冷めてるなぁ」

「現実見た結果。それに特別稀少な分野を目指してるわけでもないから、最大限の学力に見合ったところを探したら県内にあった。……結果的に、良かったみたいだけど」


 机の上のケータイを見て、昴は呟いた。

 結果オーライ。確かに互いが話すことなく互いに決めた大学は、両方共同じ県内だったのだ。


「まあ、葉月も俺も第一志望に合格すればだけど」

「うっ」


 何とこの幼馴染、ここで、


「現実を突きつけてくる……」


 現実的にして、何とも厳しいことを口にしたではないか。


「事実」

「まぁ、仰る通りです」


 第二志望は、全く別の場所にあるので。

 たぶん、昴の方もそうなんだろう。両方の第一志望が偶々県内で、県都にある大学なだけで、第二志望もそうだとはならない。

 つまり、第一志望に落ちれば、嫌だなぁということが起きるのだ。

 けれど私は、大学を知ったときのテンションを奮い起こして、拳を握る。


「大丈夫、離れても会いに行っちゃうから!」


 現代最高。電車でどこへでも行けるし、簡単に里帰りも出来るね。

 ということは、昴とも会えるね。会えなくてもメールだって、電話だって出来るしね。


「合格する努力をしてください」


 あくまで冷静に言葉を返された。

 それはそうだ。第一で意気込むべきは合格だろう。

 それに、電話が出来たり会おうと思えば会えるなんて、とっくに分かっていたことだ。

 発覚した最善が叶う以上のことはないのだから、頑張るが吉というものだろう。


「頑張りますとも」


 もちろん、と言ったのに、さっきの発言が尾を引いているのか昴は疑わしそうな目をした。




 ひとまず軽くなった気持ちで、ケーキを平らげると、店を出た。


「映画はしばらくお預けかもね」

「この先長い目で見れば、大した期間じゃない。終われば、いつでも見られるようになる」

「そうだね」


 この期間に何かを我慢しても、頑張る方が人生にとって良いのだ。

 先生に言われ続けても、勉強は嫌なもの。分かっていても、難しいと思っていたことは、今日自分からそうしようと思えた。

 得られるか分からないものを得ようとするなら、努力の時間は惜しむべきではない。我ながら原動力が単純だけど、原動力を得たことって大事だと思う。


「何より、葉月が進路決められたってことに安心かな」

「親ですか」

「彼氏だって」


 今日はどうしたの?

 いつもは言わないことをすんなり言う昴を見上げると、昴は見られたことに気がついてちょっと顔を背けた。見られると照れたらしい。

 お店では好きだとも言ってくれたことはかなり珍しくて、今日は良い日で、稀な日だと思っていたら、いつもの昴に戻ったみたい。これでこそ昴。

 ふふっ、と笑いながら、前に向き直った。


「やりたいことはまだ明確にはないけど、行きたい、やりたいことが見つかる気がする大学は見つけられた気がする」

「気がするだらけなんだけど」

「いいじゃん!」


 私にとっては大いなる前進なんだぞ。

 いやぁ、しかし、先生には感謝だ。私が興味がありそうな方向を、一緒に探って掘り出してくれたんだから。


「昴、ゲーセン行こうよ。ぬいぐるみ取ってあげる」

「いらない。取ってくれるなら、お菓子の方がいい」

「超巨大ぬいぐるみを取ってあげよう」

「聞いてた?」


 何はともあれ、まだ高校生で、今日は日曜で、お出掛け先。いっぱい遊んで、楽しもう。

 私は、昴の腕を引っ張って行った。







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