映画の後はおやつでも
見る映画に、大したこだわりはない。
邦画も洋画も見る。舞台やジャンルも、現代社会でも中世でも、ファンタジーでもSFとかでも。
話題になったと聞けば、見に行きたくなるたちだ。
「いやー、綺麗だったぁ。ひたすらに女優さんが綺麗だったぁ。戦闘シーンで、顔が汚れてても変わらない綺麗さ」
暗い部屋が明るくなり、他の人の波に混ざって出ながら、染々と呟いた。
隣から昴に「そこ?」と言われる。
「いやいや、もちろんストーリー自体感動だったよ。途中で相棒が死んじゃったから、まさかの彼女も死んじゃうんじゃないのっていうドキドキがすごかった。シャーリー自棄になるから」
「その相棒も死んでなかったけど」
「そう! びっくりした! 私泣きそうになったのに!」
悲しかったのに!
途中散った相棒生き返ったよ!
いや実は死んでなかったってことなんだけど!
「甘いもの食べたいから、どっか入ろ」
映画中に飲食はしない派だから、小腹が空きました。
まだ語りたくてたまらないので、続きはそこでじっくりしましょう。
私と何度も映画に来たことのある昴は、もう心得ていて、「はいはい」と言う。
今日は日曜。
金曜日私から誘ったデートの日。
田舎で、近くには映画館がない地元から、電車でガタンゴトンと揺られ、やって来た。
映画館から出て、ショッピングモールの中を歩くと、日曜ということもあって人がいっぱい。
入ったお店も、三時頃というお昼時にしてはちょっと遅めでも、おやつの時間にはぴったりなので満席状態。
「ああぁ、新作ケーキだぁ。お母さんに教えてあげないと」
メニューの最初のページのど真ん中。美味しそうなケーキの写真が、主張たっぷりに載っていた。
ケーキを一目で決め、たくさん種類のある紅茶かコーヒーから飲み物を選び終えて、向かい側を見ると、昴はまだメニューを見ていた。
先に運ばれてきていた水に口をつけながら、私は昴をじっと見る。
今日は、映画を見に来た。けれど、そのためだけに誘ったのではない。
注文をしてしばらくすると、この店の特徴である、普通より大きめのケーキと飲み物が運ばれてきた。
アイスレモンティーをストローでぐるぐるしながら、やっぱり見た映画について喋る。
興奮はまだ冷めきらないのである。
そうしてひとしきり喋って、
「予告編の中に、面白そうなのあったね」
この先公開される映画の予告が流れていたことを思い出す。
「どれ?」
「ほら、ミステリーっぽいやつ。題名何だっけ。あれ面白いと思うんだよね」
予告を見ただけなので題名は思い出せなかったけれど、昴は分かったらしく「ああ、あれ」と言って、作品名を挙げた。
「それだ! 昴、よく覚えてたね」
「たぶん原作が小説で、そのままの題名だったから」
文学青年の本領発揮か。
ケーキを食べると、甘くて幸せな気分になった。果物がいっぱい使われていて、楽しい味。
昴はチョコレートケーキを切っていた。
切っていたけど、口に運ばない。じっと見ている。
「昴、どうしたの?」
食べないの?
チョコレートケーキ嫌いなんて初耳だぞ。いや嫌いなら頼むはずない。
声をかけると、昴は目を上げた。私を見る。
でもすぐには何も喋らなくて、しばらくしてから、フォークを置いて完全に手を止めてしまった。
「葉月、真面目な話していい?」
真正面から、真剣な顔つきと目を受けた。
私の手もつられて止まり、何かは分からなくて戸惑いながらも、頷いた。
手を膝の上に。
昴の話を、待つ。
昴は、またすぐには話し出さず、少し迷うような様子で目を伏せ──あ、私、一回見たことがある。
気がつくと同時に、昴が再び私を見て、口を開き、話を始めた。
「葉月は大学、どこ行くつもり?」
クラスで散々担任から言われ、他の先生たちからも言われ、友達ともそれとなくそんな話をする中で。
私と昴の間では、両方触れてこなかった話題が解き放たれた。