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思い立ったが吉日




 一日最低十時間、勉強しろと先生がよく言う。もう耳たこだ。

 しかしながら、勉強しなければならないことは間違いない。模試がたくさん襲いかかってくるし、時間は一秒も滞りなく過ぎていく。ちょっとくらい止まってくれたっていいのに。


「こむぎ、おいで」


 自室で、宿題をしていたところ、にゃーにゃーと鳴く生物がドアの外に来たようなので迎え入れてあげた。ついでに自分も休憩に入った。

 白猫が寄ってきたのをいいことに、抱き上げ、自分の膝の上に乗せた。


「少し重くなった?」


 気のせいかな。

 うちの猫は揃って最近重くなった気がする。見た目には変わったとは思わないのは、何だ、毎日見ているからか。


 逃げようとしない猫を撫で撫で、くるりと椅子を回すと、開いたままの問題集が見えた。

 それから、棚からはみ出しているパンフレットも。黄色のふせんが、ぴょこんと上に飛び出している。


 進路を決めた。

 あれは、第一志望となった大学のパンフレットだ。滑り止めとして受ける予定の大学のパンフレットも隣にでもあるだろう。

 ふう、と息が出た。

 窓の方に視線を向けた。


「……高校入試のときも、こんな時期あったっけ」


 幼馴染で、過ごしてきた時間が長くて、誰よりも軽く会話をしてきたのに、肝心のことが話せなくなったりする。一番気になるところが聞けなくなる。

 昴のことが好きだって思ったときも、足踏みばかりしてたっけ。

 昴は他に好きな人がいるんじゃないかとか考えて、でも聞けなくて、かといって自分の想いを伝えることも出来なくて。


 それから、中学三年生の受験の時期も。ここは田舎だけれど、電車を乗り継げば、偏差値の高い高校が他にある。


 知ってしまうことが、少し、怖かったりした。ほんの、少し。その一歩が踏み出せなかった。今もだ。


 駄目だなぁ、と下を見る。

 むにむにと、肉球を揉む。


「こむぎちゃん、いい肉球してますね」


にゃ


「あー」


 肉球を揉まれる気分ではなかったらしい。白猫は、するりと滑り、腕の中をすり抜けていった。

ドアの隙間に身を捩じ込み、いつもながら器用に出ていってしまった。

 しっぽの先が、消えた。


「……そういえば」


 ぽつん、と呟いた。

 CMしてて見たくなった映画、今週公開だったなぁ、と思い出した。

 ちら、と机の上の問題集をチラ見する。英訳が、あと三文。授業は明日の三限目。

 単語の小テストもある。範囲、どこだったかな。

 ちら、と机についている棚に視線を移す。


「──よし、決めた」


 明日は、金曜日。





 掃除当番はなし。部活も元々なし。居残りも、なし。

 翌日、私は、普通に昴と帰った。帰ってから、「あっ」とあることを思い出して、慌てて外に出た。

 しかし、手を振って各々家に帰った昴の姿はすでになかった。何たる失態。

 メールでも電話でもできるが、昨日せっかく決めたのだから……と、早速昴宅のインターホンをぴんぽん。


「はい」

「昴、さっきぶり!」

「葉月」


 家に上がる前に鳴らせた模様。カバンもそのまま持ったままの昴が出てきて、私の姿に首を傾げた。さっき別れたばかりだからね。


「忘れ物?」

「ある意味忘れ物」

「ある意味?」


 昴は意味が掴めない様子でまた首を傾げ、「なに?」と言った。

 私は、うん、と言って笑う。


「急なんだけど、日曜、デートしない?」


 私からの誘いに、昴は。

 首を傾げることを止め、仄かに微笑んだ。


「良いよ」


 了承の返事に、私はもっと笑顔になる。こういうのは、何度になっても嬉しい。

 映画見に行くからね、と付け加え、私は今度こそ家に帰った。








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