第三者でモブの方が世界はきっと楽しいです(願望)
衝動で書きました。
暇つぶしになれば。
俺がその現実に気が付いたのがどれほど前だったか、もう覚えてはいない。
それでも、どういった状況だったかは覚えている。とても衝撃的だったからね。
最初に変だと気が付いたのは、朝の出来事だった。
普通の平日の普通の朝。
学校に登校するために、制服に着替えて顔を洗う。
そして一日の活力として朝食を食べようと、リビングの扉を開いたときに、変だと気が付いた。
だって、
「……お前誰だよ?」
「母ちゃんに向かってお前って言うなバカタレ!!」
殴られた。おたまで殴られた。そして、しこまた怒られた。もう、めっちゃ怒られた。
けれど仕方がない。
だってキッチンで料理を作っていたのは、俺の知る母さんではなく、何だか知らない顔の濃いおっさんが、エプロン装着おたま片手にノリノリで料理していたのだから。
もう地獄絵図。
だってそうだろう? 四十代ほどの毛の濃いおっさんがウフフとか言いながら料理しているんだぜ? 悪夢かと思ったよ。
けれど、ヒリヒリと痛む頭から、それが現実だと受け止める。というか受け止めざるおえない。だって、その後にもおかしな光景に出会ったのだ。
とりあえず母さんに逆らうことなかれで、いつもの癖といった感じでテーブルに座った。
そしたら目の前。いつもは父さんが座る席に、何故か知らないお婆さんが座っていた。
服装は自称母さんと同じで、いつもの父さんの服装。眼鏡まで一緒。
「と、父さん?」
「うん? どうかしたか?」
「い、いや、何でもない」
「朝からおかしな奴だな」
おかしいのはお前らだ!!
そうつっこんでやりたかったが、それよりも先にまたおかしな出来事が、
「お兄ちゃーーーーーーんっ!!」
「うぉっ!」
背中に僅かな衝撃。振り返って見れば、あらまあ綺麗な坊主頭が、
「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
「きゃ!!」
思わず弾き飛ばしてしまったが仕方ない。何が嬉しくて朝から汗臭そうな坊主頭の少年に抱き付かれなくてはいけない。
「だ、誰だキサマ!? 妹の服を着ているが、俺の妹に何をぉおおおおおおおおおおおお!?」
気分が悪くなりそうで、坊主頭から顔を背ける。
だって妹は中三。つまり制服。坊主頭の女子制服。もうわかるだろう?
「お前の妹は目の前にいるだろう」
グキっと嫌な音を出しながら曲がる首。
父さんお得意の首関節技がヒットした。
痛みに苦しい首をさすっていると、その間に父さんもとい婆さんは、涙目の女装坊主に手を伸ばし頭を撫でて慰めていた。
はたから見れば、感動的と言えなくもない光け……いや、女装で全て台無しだよ。
「朝から妹を虐めるなバカタレ」
「いったいっ!」
今度は母さんもとい、毛深いおっさんにゲンコツで殴られた。いつもより拳が重く感じるのは気のせいだろうか。
「ほらベスー、ご飯よー」
「ばうばう!!」
そう吠えながらやってくるのは我が家の愛らしい柴犬のベス……ではなく、裸のおっさんだった。
「ほらベスって、もうほら落ち着いて。お座り、お座りよベス」
裸のおっさんが毛深いおっさんに飛び付いたと思ったら、毛深いおっさんが裸のおっさんに命令。
裸のおっさんは、はあはあ言いながら大人しく言うことを聞くと、毛深いおっさんはご飯を置き、よしと許可を取る。
勢いよく食べ始めた裸のおっさんを、慈愛の目で見て頭を撫でる毛深いおっさん。
朝から見せられた、誰得なおっさんの主従BLに、俺の精神は限界を迎えた。
その後、月日が流れて現在まで。
気絶から目を覚ませば、いつもの家族だった。
最初は夢かと安堵もしたが、その後も着々、家族の入れ替えは発生。
いや家族だけじゃない。
近所の人も、クラスメイトも、バイト先の人でさえ、その時折で見た目が全くの別人だった。
だからだろうか、気が付いたのだ。
もしかしたら俺がいるこの世界は、実はアニメやライトノベルのような、ファンタジー世界なんじゃないかとね。
人知れず、能力者同士の戦いがあって、その影響で人々の体が変わるんじゃないか。
おかしなことに気が付いた俺にも、不思議な力があるんじゃないか。
そんな風に最初はドキドキのワクワクで期待していた。
そう最初だけ。
何故かって?
だって何も起きなかった。
俺自身にも、周りにも。
最初は秘密結社の人間が来たりとか、能力者同士の戦いが見れたりとか、不思議な力を使えたりとか期待したさ。
けれど待てども暮らせど一向に何も起きない。
ただ知っている人の見た目が変わるだけの普通の日常だった。
で、気が付いたら元通りに戻る。
その繰り返し。
人間不信が募るだけだった。
それはもう、がっかりした。
妹がドン引きするほどにガチ泣きしたさ。
だから次は待つんじゃなくて、行動に移した。
来ないなら来させればいい。
何か能力を発動させればいい! と。
けれど何も起きなかった。
思いっきり力を入れて走ってみたり、人では決して待てそうにない物を持ってみたり、自分用のお土産に買った木刀を振ったり、適当な言葉並べて魔法を発動しようとしてみたり。
とりあえず、思いつく限りのことは全てやった。
けれど何もなかった。
走っても人並み、待ってみても物は動かず、木刀はただ振っているだけ、魔法にいたっては厨二病と言われただけだった。
結果、俺は諦めた。
そりゃあそうさ。
何をしようとしても何も出来ず、周りが見た目が変わるだけでそれ以外は普通。
やり過ぎのメイクと思えばどうってことなかった。
だけどそこでやる気が抜かれたのか、俺はその日から何となく怠惰になったらしい。
らしいというのは、周りに言われた。
昔はあーだった、前はこーだったと、よく言われるようになった。
正直自覚はない。自覚はないが、それでも前よりもやる気、というか熱意がないとは自覚した。
だって、
「周りが止まっている……いつもとは違う展開だな」
その日は何故か周りの時が止まった。
朝の登校。
学校の多い我が住宅地域は、朝は小学生から高校生に至るまで様々な学生が通るが、皆んなが皆んな止まっている。
朝から喧しいおばちゃん達の話し声も、何が楽しくて走る小学生の足音も、心地良い風の音さえない。
しかも世界は何となく灰色。
まさにラノベ展開の時の止まった世界という感じだった。
けれどそこで俺が思ったのは、
「今日はいつもより早く学校に着きそうだな」
昔ならワクワクして楽しんでいただろうが、今は何とも思わない。
どうせ俺の周りは何も起こらないし、俺自身に何か特別な力などない。
俺は所詮、ラノベ世界で言うところのモブなのだ。
いや、もしかしたらモブですらない、アニメ化した際にしか登場しない、背景キャラかもしれない。
そう考える辺り、確かに前より熱意はなくなったのだろう。
そして、いつも通り登校する。
モブ背景にできるのはそれだけ、それだけなのだ。
だけどそれでも、
「卑怯者! 関係のない一般人を盾にして!」
「はっはっは! 何度でも言うが良い! 俺様にとってはそれは褒め言葉だ!」
校庭で激しく言い争う現実離れの光景を目にして、どうやっていつも通り登校できるだろうか。
ほんの数分前、学校が見えてきた辺りで校庭から爆発音。
嫌な予感を感じながらも、校門まで着き、隠れてもこっそり覗くと、そこでは魔法少女のような格好した女の子と変な人型生物が言い争っていた。
よく観察すれば、時の止まった生徒が人型生物に捕まって、それで手を出すことのできない魔法少女って状況。
どこぞの某アニメで見たお約束の展開だった。
だとすれば話は簡単だ。
俺は肩にかけてあったヘッドホンを耳元に装着。
そのまま校門を潜り、普通に登校を始めた。
「ーーーーーーッ!!」
「ーーーー!? ーーーーーー!!」
びっくりだ。
モブ背景である俺に気が付いた人型生物と魔法少女が何か言ってきている。
やはりモブでも動けば気が付くのか。凄いな昨今の世界は。モブにすら注目が集まるのか。
ただそれがどうした。
音量最大で音楽を聴いているため、何を言っているのかはわからないが、俺が注目されたところで大事ない。だってほら、
「ーーーーっ!!」
「ーーーーーー!!」
目線を逸らした隙を突いて、魔法少女が何かしらの言葉を発すると、人型生物の後ろから服を着た二足歩行の猫が飛び出してきた。
慌てて対処しようとする人型生物だが、猫に目を引っ掻かれ、咄嗟に人質だった一般生徒から手を離してしまう。
すぐさまピンチに気が付いた人型生物だが、時すでに遅く、猫は人質ごと距離を取り、魔法少女が庇うように人型生物の目の前へ。
そして最後に決まる魔法少女の必殺技。
現在校庭で起こっている出来事は、おそらくこんな所ではないだろうか。
正直予想だから確かと言えないが。
だって、俺はヘッドホンを耳に当てると、そのまま戦いの真ん中を横切り、下駄箱に靴をしまって履き替えて、自身の教室へと向かい、自身の席に着くと、いつものようにラノベを取り出し読書を始めたからだ。
校庭で何が起こって興味もなければ気にもならない。
どうせあの状況だったら、大なら小なり、ああいう展開で、最後には魔法少女が勝つのだから。
そういう決まりなのだ。そうなる世界なのだ。
所詮俺はモブ背景である。
あそこでモブ背景である俺が何をしようと、きっと展開は変わらないだろうし、結果も変わらない。
最後には、いたの? みたいになるだけだ。
なら俺は関わろうとせずに、いつもの日常を過ごすだけ。
それにほら、気が付けば世界に色が戻り動き出す。
魔法少女は問題なく勝ったのだろう。
そして俺がモブ背景という、気にされない存在という証拠も出る。
時が止まったことには気が付かないクラスメイト。
だから普通は、俺がいきなり椅子に座っていたことに驚くものだ。けれど、
「…………」
黙って読書を続ける俺。
誰も声をかけないし、驚いた声も聞こえない。
いつも通りの普通に喧しい話し声が聞こえるだけ。
ほら、気が付かれない。不思議に思わない。
いつの間にいようがいまいが気にされない。
ここはそう言う世界なのだ。
「さて、今日も普通の日常を謳歌するか……な?」
ふと外をチラリと見たら、そこには先程魔法少女の側にいた猫と酷似した猫が張り付いていた。
それはピッタリと。よく貼り付けるなと、感心する光景。
「ちょっとアンタよね? さっき動いていたのはアンタなのよね?」
「…………」
「というか私ピンチなの。見ての通りピンチなのよ? だから早く窓を空けて助けなさい!」
「…………」
「あっちょっと無視するんじゃないわよ! 読書をするな! ヘッドホンをするな!! 私を助けなさいっ!!」
「…………」
「ねえ聞いてんでしょう!? 見えているんでしょう!? だから早く私を! 私をぉーーーーーーーーーーーー!!」
滑って落ちていった喋る猫。
「……はあ、やっといなくなった」
ヘッドホンを外し周りを見ても、先程の猫に気が付いた様子もなし。
ならやはり、あれが見えていたのは俺だけ。
何となく薄い金色に覆われていたからな。黙っていて正解だった。
俺は他のクラスメイトと同じその他の住人。
何かしたい、何かを為したいという熱はとっくに過ぎて、今はこのモブ背景生活を楽しみたいと思っているのだ。
今更何かが関わってこようと困るのだ。
ならば俺は他の日常を送る者と合わせる。
いつもの何気ない、平和な日常を送るのだ。
だって俺はモブ背景なのだから。
以上がモブに徹する話。
だって物語を体験するよりも、第三者の視点で見ている方が面白いと思いませんか?
これはそういうお話です。




