その2-2
「ってわけで、今日からここで働かせてもらうことになった、シミットっていうんだ! よろしく頼みます、先輩!」
「……うん、よろしく」
知ってた。
この人、シミットはここで働くだろう、という予感が見事に的中。まぁ、どう見ても私のほうが年下なのだが。
「ってわけで先輩! 俺は何をやればいいでしょうか!」
「……私に指示もらえ、って店長に言われたわけですか?」
「はい」
「……」
どうしてこうも押し付けるのか。いやまぁ、当然といえば当然だろう。さっきも言った通り、今は人がいない。みんな休みだの出張だのでいなくって、今いるのは私と店長だけだった。
そうでなくても、こっちが教える係になるのは必然だろう。
……とはいえ、丸投げもどうかと思う。
「……とりあえず……」
軽く自己紹介。その後、まずは軽くレジ周りの説明。パンの焼き方とかは……今は必要ないだろう。そもそも、私もそうだったから。
「……ふむふむ。なるほど、分かりました!」
「とはいえ……今はあんまり人来てませんが」
どうせ他の店に行ってるんだろう。確か、どっかでセールをやるみたいだったし。
……
なんかそう思ったら、休んだ人の大体の理由がそっちなんじゃないかと思うようになった。因みに私はそういうのは興味ないほうだ。
「まぁとりあえず、私お客さんやりますので、一通りやってみください」
「了解ですっ!」
……声は一人前。そういった意味では1つは合格だった。
少し不安だったけど、意外にも、彼の態度は真面目そのものだった。敬語も弁えてるみたいだったし、これなら問題なさそうだった。しかし肝心のお客さんは来ない。やっぱり、別の店に行ってるんじゃないかな。
まぁそのぶん、こっちが専念しやすいんだけど。
そのため、今度はパン作りの工程も話すことにした。先輩に教えられたことを自分なりに伝えやすくしてシミットに教える。こういうのはちょっと苦手だったけど。
「おーい二人ともー!」
数十分しただろうか。店長に呼ばれた。私はシミットに一時中断と腕を振って示す。そして店長の近くへ。
「どぉルヴァン? 新人君の様子は?」
「……それ、彼の前で言えます?」
「こういうのは本人がいる前でやらなくちゃ損だよ!」
……まぁ、そういうものなんだろう。
「結構出来てると思いますよ、彼」
「ほうほう」
「店番のほうは大丈夫ですね」
「じゃ、後はパン作り、かな?」
「そうですね」
ふとシミットの様子を見る。笑みを浮かべていた。……気持ちは分からないわけではない。
「じゃあ二人とも、ちょっと配達行ってきてくれるかな?」
「はい?」
店長は机から紙を出す。日時指定されて、場所も書いてある依頼書だ。……でも、今は私たちだけだ。店長一人で大丈夫なのだろうか?
そう思ってるよりも早く、シミットが質問してきた。
「別に構いませんけど……店長一人で大丈夫なんですか?」
「平気よシミット。伊達にここの店長じゃないからね」
……伊達じゃなくって、意外がしっくり来るんだけど。
「ルヴァン、今ひどいこと考えたでしょ」
「気のせいです」
……この人本当に嫌いだ。とりあえず私は息をついてから答えた。
「了解しました。その任務引き受けます」
「いい返事よシミット。ルヴァンも行ってあげて」
「了解です」
……というわけで、行くことになった。