その3-4
あの後の3日間。何かが心の中で詰まっていた。でも、そんなことは考える暇はなかった。考えなかったおかげで……なんとなく心が楽になれた気がする。
ただ、それでも逆に周囲の人に心配かけてしまったのだろう。
私は今日、休みをもらって宿にずっといたっきりだった。みんなは気を利かせてくれたのか、「ルヴァンがいなくても十分だ」って言ってきて。
……
正直なところ……
……すごく心が痛い。
魔法が使えない。だからこっちで働くことになった。
でも兄は……それを許してくれただろうか。
いや……違う。純粋に、比べられたようでムカついたんだ。
そうでなかったとしても、「魔法が使えない妹がいる天才」なんて噂されたら兄も……。
…………
とにかく、いろんなものが、ごちゃごちゃしてて。自分でも……整理がついてない。だから……なのかな。
扉の音が鳴る。拒否する理由もないのでそのまま入ってもらうことにした。
「……どうぞ」
「入るぜ、先輩」
シミットが入ってくる。
「……具合はどうだ?」
「……」
「その調子だと、まだみたいだな」
そう言いながら扉を閉める。シミットは少しだけ口を閉ざした後、開く。
「なぁ、話せる範囲でいいんだ。俺が聞きたいこと、聞かせてくれるか?」
「……」
「話したくないなら話さなくてもいい。……俺が聞きたいのは2つ。本当に魔法は使えないのか。どうして兄と連絡とってなかったのか」
教えてくれ。と、真っ直ぐな言葉だった。……
「……使えないのは本当」
それだけ言うと、シミットは信じられないような顔で、それなのに縦に頷いた。
「まじか……珍しいんだな」
そう……私のように本当に魔法がこれっぽっちも使えない人なんてほんの少数。当たり前のようにある魔法なんて、私にとっては当たり前じゃなかった。
「だからだったんだな。わざわざ遠回りして魔物のルートを外れたりとかしたのも」
「……それもあるけど、やっぱり荷物かな」
「大事な荷物は命と同等、ってか?」
「まぁね。……言い訳かもしれないけど」
「いや、立派だと思うぜ」
……本当だろうか。そんなこと言う前に、私はシミットに投げられた二つ目の質問に答えた。
「兄の事だけど……手紙を出さなかったのも、魔法が使えないのを隠してたから」
「……どうしてだよ?」
「兄は魔法の天才って、言われていた。そんな兄の妹が、魔法を使えない奴って思われるのは……」
「嫌だったから、書かなかったのか」
……嘘をついたところで、すぐバレる。兄は他人の嘘を見破れる持ち主だからだ。
そういったところも、天才と呼ばれる所以だろう。
全部を聞いたシミットは私を見ていた。表情は真剣で、私に向かって。
「で……さ、お前さんの気持ちはいま、どうなんだ?」
「……正直、ごちゃごちゃ。何かいろんなものが渦巻いているから。……それに、兄にあったら……多分また喧嘩する」
諦めていた。私と兄は天と地の差があること。天才と呼ばれてる兄の前で私が会話することは……きっと許されない。
よく分からないままなのに、分かったかのようにシミットは私に向かって言った。
「……ま、会いたくないならいいけどよ。それに……俺も先入観持ったままだったよ」
そう言ってから、またシミットは口を閉ざした。けど、すぐに口を開いた。
「俺には出来なかったよ。妹を気遣えなかった。けどさ、ルヴァンはそうじゃないはずだろ?」
「……」
「言いたいこと、ぶつけちまえ。そうすりゃ、兄もスカッとする」
言い終わった後、シミットはそっと扉を開く。言いたいこと散々言って、出て行くのか。
「ま、会いたくないなら会わなくても一興。……むしろ、会わないほうが幸せかもしんないな」
「……」
「俺と俺の妹と違って、かなり複雑な事情があるみたいだしな。ま、アドバイスだと思ってくれ」
……会わない、か。
確かにそのほうがいい。
……そのほうが、兄に取っても幸せだから。
その日……帰る前日の夜中。
寝付けなかった。なぜなのかは……なんとなく分かってた。
明日になれば兄とはもう顔をあわせることはなくなるだろう。そして、もう会わないと割り切った。
……割り切った、はずなのに。
……明日、会うのか?そして……言うのか?
……私がどうして、こんなことをしてるのか……。
……
いや……あくまで、ここにきたのは「店員」としてだ。
あんなことがあっても……今は店員だ。
「…私は店員だよ。パン屋で働く、しがない店員。何で働こうとしたのかも……知ったら、兄はきっと失望する……」
…だから、会わなくていいんだ。
そのほうが、私たちにとって幸せだから。
……でも、それで納得いくのだろうか。
……肝心の兄は……まだちゃんとした理由を聞いていない。
嘘は見破れる、とはいえ、変なところで鈍感だった。
……
一度会って、暴露する、か。
……会うべき、なのか?
「別に……会わなくてもいいけど……」
自問自答した。それでいい。その方が幸せなんだって。
でも、このまま納得するのだろうか?
……考える。
けど……今は思い浮かばない。とりあえず……寝て……。
「覚えていたら……」




