その3-3
「ん…? どうかされましたか?」
「いえ……」
……彼は少しだけ言いづらそうだった。咳払いを一つ。
「……純粋に、パンを買いに来ただけです」
……普通はそうだ。そう、普通なら。でも……彼は今や気になって仕方ないことがある。
「……」
「……」
彼は私のことをじっと見ていた。何かの見間違いか、と思っているような顔だ。思わず私は目を逸らす。
「どうした、ルヴァン先輩?」
「ば、バカっ……」
違う。空気も読まずに私に話しかけてきたシミットを咎める前に前に彼の眉が厳しくなる。
「……なんでいるんだ?」
…やばい。この場を急いで離れなくちゃいけない。そう思うより先に、この馬鹿は察したのか言葉が先に出た。
「……? 先輩に話したいこと、あるんですか?」
「……あぁ」
バカ、それ以上踏み込むな。声を出す前に退散しようとして……。
「分かりました。じゃあここは俺が気を利かせます」
「なっ……」
絶句した。
「……あぁ、すみません」
だめだ、もう下がれない。そう思う前に、シミットはもう後ろの部屋に行ってしまう。
「……」
「……あの……バカ……」
私がここまで拒否した理由……。今、目の前にいる人だった。
「……ルヴァン、どうしてここにいる。魔法はどうした?」
……
……
……言えるわけがない。嘘をつけばごまかせる。
でも………彼は……フーガスは……そんな嘘を見過ごせるような人ではない。
そういう人だということを……私は知ってる。
「……まさかとは思うが」
「……っ!」
やめろ! 声を上げたかった。
赤の他人なら、真っ先に声を上げてたし、こんな感情的にはならないはずだ。
でも……フーガスは……
「ルヴァン、魔法が使えない体なのか?」
「……う……な……!」
身体が震える。
使えないんじゃない。
使わないだけなんだ。
「なぜそれを……」
「違う! ……使えないんじゃない! 使わないだけ!」
体のガタが切れたように叫んだ。でも……フーガスは……怯まない。
「……だったら、その成果を見せてみろ」
「……そんなことのために魔法を使うのはもったいないでしょう?」
「……使えないだけ、か」
「……!」
「手紙の経緯からわかる。ある日から忽然と来なくなったからな」
「だったら……何?」
「……なんでもない」
「じゃあ来ないでよ! 二度と! 来ないで!」
「……」
フーガスはそのまま身体の向きを変えて、出て行った。
…………
……やってしまった……。
ついカッとなってしまった。
……私は……
「ルヴァン先輩……」
「……失望したでしょ。私情を持ち込むなっていってこのざまよ」
出てきたシミットに振り返らず、自虐するようにつぶやく。
シミットは……黙ったままで、特に何も言ってくれなかった。
……最低だよ、私。あんな風に、店でどなるなんてさ……
「なぁ、先輩」
シミットが訪ねてくる。
「さっきの人って……友人? 彼氏?」
「……どっちも違う」
いつもなら嫌がったような顔をしてるだろう。
でも……今はそんな気力はない。
「……私の、兄よ」




